- m3.com 電子書籍
- 中外医学社
- 防疫列島 ー行動するパブリックヘルスー
商品情報
内容
コロナ禍という言葉が生まれてから早6年,あの痛みはだんだんと過去のものになりつつある.「予算」「人」「法律」が足りない未曽有の有事に専門家たちは何を思い,どう動いたのか,その記憶を詳細に残す.著者は机上のプランを現場に落とし込む実践家である.『千葉県庁コロナ本部での入院調整』『成田空港検疫所での水際対策』『ワクチン啓発「こびナビ」』と辿る構成は,奇しくも公衆衛生学としての源流を目指す挑戦となった.コロナ禍はわが国の防疫体制を変革させたが,それを次のパンデミックに活かせるか否かは次世代の育成にかかっている.本書がそのきっかけになれば幸いである.
序文
はじめに:「コロナ禍」とは何だったのか?
筆者、吉村健佑は医師であり、普段は主に大学教員と県庁職員を兼務しながら、医療政策の教育・研究と実務を行っている。2020 年4 月から2023 年5 月頃まで、新型コロナ対策に打ち込んだが、時が経ち少しずつ細かなところを忘れそうになってきた。このままだと仲間とともに解決に向かって取り組んだことや、紡いだ知恵が消えてしまうかもしれない。そこで本書を書くことで当時の状況や困難、そして時に感じることができた充実感を思い起こし、記したいと考えた。むしろ少しときを経た今だからこそ、冷静に前後の状況を俯瞰しながら執筆するにふさわしいタイミングとも考えた。
本書はコロナ禍を通じて顕在化した医療現場と政策立案の間に横たわる「人材・情報の谷」に向き合った私目線の記録である。医療政策の立案側では、時には理念、制度、影響力を持つ「あるべき論」が先行し、現場での解決に届かない、場合によっては遠のきさえすることがあった。逆に、医療現場では日々の混乱の中で制度の趣旨や行政側の配慮が行き渡らず、ときに埋没し、対症療法的な運用に終始することが少なくない。私はコロナ禍でこの両者の距離を埋めるために、できる限り動いてみた。
私は医学部卒業後、これまで精神科医/ 産業医、行政官(厚生労働省・千葉県庁)、研究/ 教育職として経験を積んできた。本書に記した活動はその経験の延長線上に位置づけられる。特に新型コロナウイルス感染症対応の現場を筆者個人の視点でできるだけ率直に、わかりやすく記録し、次の危機に備える一助とすることを目的としている。
2020 年初頭、国内で新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた頃、自治体も医療現場もこれといった前例を持たず(あったとしても少し忘却されており)、手探りの対応を迫られていた。私自身、千葉県の新型コロナ対策本部で入院調整や療養施設の運営支援などに奔走した。その中で痛感したのは、制度設計と現場運用の「時間差」と「言語の断絶」である。日々、国から発せられる大量の法令や通知の「一報」そして「一行」が、現場の動作や判断を大きく左右する。いくら合理的な制度であっても、現場での理解と合意形成を欠けば機能しない。コロナ対応のおよそ3 年間は、まさに制度と実務の間に生じる摩擦を肌で感じた時間であった。
危機対応の只中では、判断や手順の多くが暗黙知として消費され、いつの間にか散逸する。だが、その背後にある思考のプロセスや合意形成のあり方を言語化しなければ、次の危機のときに同じ苦労を繰り返す。危機とは、制度・政策の欠陥をあぶり出す鏡であり、現場の視点から制度を再設計する契機でもある。本書を通じて、コロナ禍が突きつけた日本の医療の構造的課題と、そこから得られた教訓を可能な限り整理し、政策と現場を接続するための「溝を埋める方策」を提示してみたい。
私が記したのは単なる感染症対応の技術論ではない。むしろ問いの中心にあるのは「誰のための政策であるか」「どこまでを公共(Public)として守るのか」という社会的な問題だ。自分の半径10m の「部分最適」ではない、「全体最適」のあり方をできるだけ考えたい。「エビデンスに基づく政策立案(EvidenceBased Policy Making:EBPM)」は、もはや行政実務の前提となった。しかし、エビデンスとは論文の成果やデータそのものではなく、関係者が合意形成するための「共通言語」である。その言語をどう運用するかによって、政策は人を救うことも、排除することもあり得る。私はこの点を、現場と制度の往復の中で痛感した。
本書が対象とする読者として、主に三者を想定した。第一に医療政策や社会医学に関心を持つ学生(高校生、大学生)や若手医療専門職である。コロナ禍で制度・ルールがどのように構築され、どのように現場へ降りていったのか、そのプロセスを可視化したいと考えた。第二に医療や政策に関心を持つ一般の読者である。コロナ禍で報道にはなりにくい現場の雰囲気、対応にあたった職員の高い士気も伝えたい。そして第三に地域で保健・医療計画などの実務を担う行政職や医療系技術職である。専門家でもある彼らにとって、本書が制度と現場を結ぶ「事例集」として機能してほしい。政策のロジックやデータ、具体的な法令の背後にある「政策実装のねらいや本音」を知り、読み解いて生かす素材としてもらいたい。
社会医学の世界で繰り返し語られてきた「Preparedness(備え)」という言葉は、単なる物資や人員の確保を意味しない。むしろ、それは「共通の判断基準を持ち、情報を共有し、相互に信頼して動ける状態の整備・維持」を指す。コロナ禍で露呈したのは、まさにこの社会的Preparedness の脆弱さであった。制度・現場・市民の間に「ともに考える回路」を作ることは可能なのか。次の危機は、感染症とは限らない。災害、医療提供体制の崩壊、経済危機、情報災害、もしかしたら戦争。どの領域にも通底するのは、複雑な社会の中で、危機にどう対応するかという問いである。本書は、その問いに関わる実践的応答の1 つでありたい。
本書は、私自身のキャリアから始まり、コロナ対応に「なだれ込んでゆく」経過が記されている。
序章では精神科医としての出発点から社会医学・医療政策への転換、行政実務のローテートに至る経緯を記した。第1 章ではコロナ禍での千葉県庁での取り組みを軸に、患者の入院調整、県が管理する療養施設、保健所などとの情報共有などの実務を具体的に記述した。次いで第2 章では千葉県・成田空港検疫所で体感した「水際対策の現実」を実態がわかるように記載した。第3 章では新型コロナワクチンの啓発プロジェクト「こびナビ」について、事業を立ち上げ、統括した立場から振り返った。そして終章では得られた学びを整理し、平時の政策や今後の人材育成にどう生かすかを記した。
全体を通じて貫く主題は、「制度と現場を埋める」、そして「公共(Public)を維持する判断と行動」である。こうしてみると、保健医療政策、地方自治、検疫を通じた日本の対応(国際)、ワクチンを事例としたヘルスコミュニケーション、そして社会医学のキャリア・人材育成に話題が及んでいる。厚労省の現在の部署でいえば、医政局の地域医療計画課、健康・生活衛生局の企画・検疫課・予防接種課・健康課、大臣官房の厚生科学課などに少しずつ関係しそうだ。思い起こすとコロナ禍でもこれらの部署に勤めるかつての同僚職員と頻繁に相談・情報共有し、ときに「どうなっているのか」と困惑しながら現場の窮状を訴えていたことが思い出される。厚労省の職員も大いに困りながらも一緒に考えてくれた。
コロナ禍は間違いなく国家的な危機、つまり有事であった。そこで求められ、実際に解決につなげうる人材とは「カリスマ的なリーダー」ではなく、まずホットな現場の中心に飛び込み(または意図しないで引きずり込まれ)、制度と現場をつなぎ続ける持続的な姿勢、態度ではないか。記録・記憶し、問題の芯を考える・行動する、そして仕組みに刻む。その営みの積み重ねが、次の世代への備えとなるのだろう。では序章へと進んでいこう。
目次
序章:筆者が新型コロナ対策に至るまでの経験
1 千葉県庁コロナ本部での入院調整 編
1 はじめに 病床調整本部に参画した経緯
2 入院調整という“接合術”:公平と迅速、制度と臨床の狭間で
3 「臨時の医療施設」という未踏のシミュレーション
4 改正医療法につながる「厚労科研:新型コロナ研究班」と「厚労科研:感染症企画班」
5 病院・病床が多いのに、なぜ病床逼迫が起こるのか?
6 通常診療を制限できずにコロナ対応する苦悩─平時の外来受診が多い─
7 経営の裁量は院長にあり─「お願いベース」の患者受け入れの限界─
8 課題は「上流」への視線と教訓:「水際対策」と「ワクチン啓発」へ進む必然性
コラム 新潟県の新型コロナ対応から学ぶ3つのこと
2 成田空港検疫所での水際対策 編
1 成田空港検疫所へ支援に行った経緯
2 医師不足の実態:国は検疫の医師を増やせない!?
3 新型コロナ禍での検疫官の業務
4 そもそも検疫法・検疫感染症・検疫所って何だろう? 何ができるのか?
5 平時における空港検疫業務
6 仲間の医師が集まる:希望が出てきた
7 長期戦になっている検疫現場には「産業医」も必要だった
8 自治体と検疫所の対話:千葉県の医療資源を「検疫所」が食う?
9 検疫官になるには? 採用とキャリアを考える
10 千葉亥鼻診療所の開設と「陽性者ホテル」の医療体制の整備
11 「陽性者ホテル」の管理の具体的な業務と戸惑い
12 ホテル管理でのクレーム、疲弊、職員のコロナ感染
13 「陽性者ホテル」には精神科医も必要だった:具体的なケース
14 多省庁による「水際対策」と省庁間の軋轢
15 検疫現場から見たオリンピック・パラリンピック対応
16 厚労科研「検疫官へのヒアリング研究」で提起した今後の組織論・人材育成論
17 「新・政府行動計画」から見る将来の水際対策
18 検疫DXと国立健康危機管理研究機構(JIHS)の設置と期待
19 「2つの感謝状」と現場検疫官の「生の声」に想う
コラム 「偽の陰性証明」報道と国際感覚とのズレ
コラム 映画「フロントライン」に見る、医系技官の役割と意義
3 ワクチン啓発「こびナビ」編
1 民間による新型コロナワクチン啓発活動の始まり
2 わずか2週間! 急ピッチで立ちあげた「こびナビ」と一般社団法人設立
3 自費・持ち出しで始めた「草の根」活動
4 厚労省での記者会見と「正確な情報」にこだわる発信
5 中高生にも広げた啓発活動「こびナビ・スクール」
6 チーム作りの原則は「任務への姿勢=スタンス」
7 予想以上の反響を得たクラウドファンディング
8 発信する側になる・メディアと対話する:音声メディアで発信を続けた意味
9 自らの発信を通じて感じた、大手メディアの「2つの問題点」とその先へ
10 政策責任者との対話:河野太郎大臣との面会
11 「個人攻撃」のリスクと「出口戦略」:届いた「カッターの刃」
12 厚生労働大臣より最優秀賞を受ける
13 検疫と「こびナビ」の同時進行、そして出口戦略
14 運営を通して考えた「4つの姿勢」
コラム 厚労省「予防接種健康被害救済制度」から見る、新型コロナワクチンへの救済
終章:次なる危機に備えるために
編集後記:次なる有事のために、医学生として(萱原慎太郎)
おわりに・謝辞
索引
便利機能
- 対応
- 一部対応
- 未対応
- 全文・
串刺検索 - 目次・
索引リンク - PCブラウザ閲覧
- メモ・付箋
- PubMed
リンク - 動画再生
- 音声再生
- 今日の治療薬リンク
- イヤーノートリンク
- 南山堂医学
大辞典
リンク
- 対応
- 一部対応
- 未対応
対応機種
iOS 最新バージョンのOSをご利用ください
外部メモリ:44.0MB以上(インストール時:91.1MB以上)
ダウンロード時に必要なメモリ:176.1MB以上
AndroidOS 最新バージョンのOSをご利用ください
外部メモリ:44.0MB以上(インストール時:91.1MB以上)
ダウンロード時に必要なメモリ:176.1MB以上
- コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
- コンテンツの使用にあたり、m3.com電子書籍アプリが必要です。 導入方法の詳細はこちら
- Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
- Androidロゴは Google LLC の商標です。
書籍情報
- ISBN:9784498071223
- ページ数:156頁
- 書籍発行日:2026年4月
- 電子版発売日:2026年4月22日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
お客様の声
まだ投稿されていません
特記事項
※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。
※コンテンツの使用にあたり、m3.com 電子書籍アプリが必要です。
※eBook版は、書籍の体裁そのままで表示しますので、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。


