実験医学増刊 Vol.44 No.17 疾患幹細胞学

  • ページ数 : 250頁
  • 書籍発行日 : 2026年10月
  • 電子版発売日 : 2026年10月20日
¥6,160(税込)
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商品情報

内容

iPS細胞報告から20年.幹細胞からヒト疾患を紐解く決定版
患者由来細胞でトランスレーショナルギャップの克服へ!オルガノイドやMPSを用いた疾患モデリング,NAMsによる薬理評価の最前線から,AI・データ基盤の構築,臨床応用まで.ヒト病態と薬理応答の理解と検証を加速する「疾患幹細胞学」のすべてがこの一冊に.

序文

序


2006年にiPS細胞が報告されてから20年が経過し,幹細胞研究はいま,新たな段階に入っている.幹細胞は,自己複製や分化を理解するための研究対象であるだけでなく,患者由来細胞からヒト病態を再現し,病態機序を解明し,治療法を探索するための研究基盤として用いられるようになった.現在では,iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞に加え,組織幹細胞,がん幹細胞,オルガノイド,生体模倣システム(microphysiological system:MPS)など,多様な細胞・モデル研究が疾患研究と結びつきつつある.

この流れを後押ししているのは,細胞培養や分化誘導技術の進歩だけではない.医薬品開発の評価体系も大きく動きはじめている.米国食品医薬品局(FDA)は,医薬品開発における動物試験への依存を段階的に減らし,ヒト細胞を用いた評価系,オルガノイド,MPS,計算モデルなどのnew approach methodologies(NAMs)を活用する方針を明確にしている.欧州でも,3Rsの理念のもと,NAMsを医薬品評価へ取り込むための議論と制度整備が進められている.重要なのは,これらの動きが単なる「動物実験の代替」を意味するのではないことである.問われているのは,ヒトの病態や薬剤応答をどのようなモデルで,どこまで予測できるのかという,創薬科学そのものの問いである.

疾患幹細胞研究は,この問いに応える重要な基盤となりうる.患者由来細胞を起点として,発生・分化,ゲノム,疾患モデリング,薬理・毒性評価,遺伝子編集,オルガノイド,MPS,AI,創薬,臨床研究,さらには規制科学までをつなぐことによって,基礎研究と医療応用の間に存在してきたトランスレーショナルギャップを縮められる可能性がある.一方,その実現には,1つの研究室,1つの技術,あるいは1つの専門領域だけでは十分ではない.そこに必要なのは,個々の技術をさらに高度化することに加えて,異なる専門性をもつ研究者が継続的に対話し,互いの知識を結び付ける場である.

こうした考えのもと,わが国でも日本疾患幹細胞学会が設立され,幹細胞・発生研究に加え,疾患研究,工学,創薬,臨床医学,情報科学など,異なる領域の研究者が「ヒト疾患を理解する」という共通の課題を議論する場が生まれつつある.これは既存の研究領域を分けるためのものではなく,むしろそれらをつなぐための試みである.本増刊号では,このような視点から「疾患幹細胞学」を,幹細胞の基礎生物学から病態,疾患モデル,薬理評価,新規技術・研究基盤,そして医療応用まで,1つの連続した流れとして俯瞰する構成とした.

本増刊号が領域横断的な対話を促す1つの機会となることを期待している.

疾患幹細胞研究の価値は,幹細胞からヒトの病気をどこまで深く理解し,新しい医療へと結び付けられるかにある.本増刊号が,基礎から創薬・臨床へ,そして臨床から再び基礎へと知識が循環する新しい疾患研究を考える契機となれば幸いである.

最後に,ご執筆いただいた先生方,羊土社の吉田賢史さま,橋本紫光さまをはじめ実験医学編集部の皆様の多大なる努力によって本増刊号の発刊にこぎつけられたことを,心から深謝いたします.


2026年9月

京都大学iPS細胞研究所/
理化学研究所バイオリソース研究センターiPS創薬基盤開発チーム
井上治久

目次

疾患幹細胞学概論 ―幹細胞が切り拓く新たな疾患科学と医療【井上治久】

第1章 幹細胞の基礎生物学

1. 幹細胞の定義と特徴 ―自己複製・多分化能からナイーブ型多能性の新展開【一樂実莉,髙島康弘】

2. 幹細胞性の動的な制御 ―神経堤細胞,成体幹細胞,間葉系間質細胞【池谷 真】

3. 幹細胞を維持・調節する微小環境(ニッチ)【長澤丘司】

4. エピジェネティクス制御が織りなす細胞運命【森川あゆみ,椙下紘貴】

第2章 幹細胞と病態

1. がん幹細胞【後藤典子】

2. 皮膚幹細胞:再生・老化・疾患につながる運命選択【西村栄美】

3. 幹細胞と炎症・免疫細胞との関連を可視化する培養技術【鈴木海人,藤井 悟,岡本隆一】

第3章 幹細胞を用いた疾患研究

1. iPS細胞を用いた先天代謝異常症の解明と創薬【江良択実】

2. iPS細胞疾患モデルから読み解く難治性呼吸器疾患と臨床応用【曽根尚之,後藤慎平】

3. 肝臓オルガノイドを用いた病態解明・治療応用への展望【遅野井 祥,武部貴則】

4. iPS細胞が拓く心筋疾患研究の最前線 ―成熟化技術・疾患モデリング・治療標的探索の統合【吉田善紀】

5. 胸腺関連疾患の理解と克服に向けた幹細胞技術の活用【プレテマー ヤン,濵﨑洋子】

6. 疾患特異的iPS細胞を用いた筋疾患病態研究の最前線【櫻井英俊】

7. 疾患iPS細胞が拓くALS研究の新展開 ―病態解明から創薬・個別化医療へ【森本 悟,加藤玖里純,岡野栄之】

8. iPS細胞を用いたパーキンソン病の病態解明と創薬研究【石川景一,赤松和土】

9. 疾患特異的iPS細胞で捉える球脊髄性筋萎縮症の病態と治療開発への展開【岡田洋平,小野寺一成】

10. 血液・免疫疾患 ―多能性幹細胞による血球分化の現状と疾患モデリングの展開【齋藤 潤】

11. 幹細胞を用いたウイルス性呼吸器疾患研究【橋本里菜,高山和雄】

12. アレルギー疾患の新たな病態基盤としての上皮幹細胞異常【杉本真也,佐藤俊朗,金井隆典】

13. リスクバリアントから読み解く精神疾患iPS細胞研究 ―当事者・家族の願いに応える病態に基づく創薬へ【尾崎紀夫,奥村啓樹,有岡祐子】

14. 幹細胞技術が拓く男性不妊症治療の新展開【佐藤卓也】

15. 角膜の再生医療【大家義則,西田幸二】

第4章 幹細胞研究と薬理評価

1. ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた安全性薬理評価 ―ICH S7A改訂に向けた展望【諫田泰成】

2. ヒトiPS細胞由来神経細胞とMEAを用いた神経毒性評価 ―痙攣リスク評価法の開発から規制利用への展開【鈴木郁郎】

3. NAMs:医薬品の安全性・有効性評価への新たなアプローチ【伊藤弓弦】

第5章 疾患幹細胞研究と新規技術・基盤

1. 造血幹細胞移植と疾患,遺伝子治療【山﨑 聡】

2. 疾患iPS細胞研究のための最新ゲノム編集・遺伝子工学技術【比嘉尭舜,澤田芽依,堀田秋津】

3. 臓器チップを用いた腸疾患研究【二ツ迫拓樹,出口清香,高山和雄】

4. 疾患幹細胞学に向けた血管網を有するMPSとその応用【横川隆司】

5. AIと疾患幹細胞研究【今村恵子,井上治久】

6. 疾患特異的iPS細胞バンク事業:研究基盤としての構築と運用【中村和昭】

第6章 疾患幹細胞の医療応用

1. 神経変性疾患のiPS創薬と臨床開発【近藤孝之,井上治久】

2. iPS創薬を難聴領域の臨床へ ―Pendred症候群/DFNB4に対するシロリムス療法【藤岡正人】

3. 基礎と臨床をつなぐ疾患幹細胞:難治性腎疾患ADPKDの新規治療薬開発の実例から考える【吉村祐輔,前 伸一,長船健二】

4. 疾患幹細胞学の未来【齋藤 潤】

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書籍情報

  • ISBN:9784758129749
  • ページ数:250頁
  • 書籍発行日:2026年10月
  • 電子版発売日:2026年10月20日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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