心エコー 2025年12月号（26巻12号）三尖弁閉鎖不全症診療の進歩をキャッチアップ！

巻頭言
三尖弁閉鎖不全症診療の進歩をキャッチアップする！

年の瀬を迎えるこの時期，読者の皆さまも一年の診療を振り返りながら，日々の臨床で感じた変化や進歩を思い起こされていることと思います．循環器領域では，技術革新とともに疾患概念そのものも再定義されつつあります．その中でも右心系への注目の高まりは近年の大きな潮流の1つです．本特集では「三尖弁閉鎖不全症診療の進歩をキャッチアップする！」というテーマのもと，これまで見過ごされがちであった右心系に改めて焦点を当てました．

三尖弁閉鎖不全症tricuspid regurgitation（TR）は，長らく左心系疾患の陰に隠れ，“治療優先度の低い疾患”と見なされてきました．しかし近年，TRが心不全の進展や再入院，さらには生命予後や生活の質（QOL）に深くかかわることが明らかとなり，右心系の評価と介入の重要性が再認識されています．もはやTRは「放置してよい疾患」ではなく，「積極的に診療に取り組むべき対象」となりました．この変化の中心にあるのが，心エコー図の進歩です．経胸壁・経食道心エコーによる詳細な弁形態評価に加え，3D心エコーやストレイン解析などの新技術が右室機能の理解を大きく前進させました．さらに，経カテーテル的三尖弁修復術（TTVR）などの低侵襲治療の登場により「右心系にも介入する時代」が到来しています．非侵襲的診断と低侵襲治療が相互に補完し合うことで，TR診療は新たな段階へと進化しつつあります．

本特集では，三尖弁の解剖や右室機能の基礎から，画像評価，治療戦略，今後の展望までを多角的に取り上げました．右心不全や心室間相互作用を理解することは，適切な治療選択と予後改善への第一歩です．「見逃されてきた疾患」を取りこぼさない診療へ．本特集が，読者の皆さまにとってTR診療の理解を深め，心エコーが右心系診療の未来を照らす確かな光となることを願っております．

和田靖明・瀬尾由広