画像診断 2025年4月号（Vol.45 No.5）MRIを隅々まで診る：病変を取りこぼさないために

序説

放射線診断医の重要な役割のひとつに，医療安全活動が挙げられます．画像検査の質の担保や，造影剤投与に伴うアナフィラキシーショックへの対応も，その一環です．2019年4月には，日本医療安全調査機構による医療事故の再発防止に向けた提言第8号として，「救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析」が取りまとめられ，その中でincidental findings（偶発的に認められる異常所見）が取り上げられました．放射線診断医には認識されていた内容でしたが，医療安全の視点から病院全体での対応が求められています．

本誌ではこれまでにも陣崎雅弘先生（慶應義塾大学）が偶発所見に関する企画をなさっていますが，今回の特集では，MRIにおける偶発所見に焦点を当てました．MRIでは，field of view（FOV）の設定により描出される範囲が限られています．

画像の端に写っていた所見や，最初または最後のスライスに写っていた所見が，主目的の疾患よりも優先して評価すべき場合もあります．こうした所見は放射線診断医でなければ気づかないことも多く，他科の医師から感謝されることもあります．

一方で，そのような所見をみつけたとしても，読影時に得られる限られた情報だけでは適切な対応を推奨できないこともあり，施設ごとの環境を考慮し，放射線診断医の経験やポリシーに委ねざるをえないことも多いでしょう．曖昧な要素が多いことを認識した上で，完璧ではなくとも最善に近いメッセージを，わかりやすく画像診断報告書に記載することが重要です．今回は，その際に参考となる情報や考え方を提供していただくよう，執筆者の先生方にお願いしました．主な対象は，放射線診断専門医を目指す若手医師です．

まず，深見達弥先生には，医療安全における診断エラーに関する最新の考え方や対応について解説していただきました．河原愛子先生には，頸椎・頸部MRI検査時の偶発所見について解説いただき，注目すべきポイントや各種疾患における推奨の考え方をご紹介いただきました．林田佳子先生には，胸部や肩関節などの領域を例にMRIのアーチファクトとともに，偶発的に描出された疾患の病態について詳しくご説明いただきました．笠井美里先生には，腰椎・仙椎MRI撮像時にみられる偶発所見について，豊富な症例をもとにご解説いただきました．藤本 肇先生には，股関節MRIの読影時に注意すべき解剖構造についてご提示いただきました．また，扇谷芳光先生には，泌尿器・男性および女性生殖器のMRI検査において，疾患ごとに撮像範囲が異なることを踏まえ，注意すべきポイントについて，症例をもとにご解説いただきました．

本特集では，様々な考え方を紹介しましたが，読者の皆様にはこれらをご自身の施設の状況に適した形にアレンジし，医療安全活動における放射線診断医のプレゼンス向上につなげていただければと思います．「画像検査をしたのに……」という患者さんが1人もいなくなることを目指して．

島根大学医学部放射線医学講座
楫 靖