• m3.com 電子書籍
  • 実験医学増刊 Vol.43 No.2 創薬の不可能を可能にする 中分子ペプチド医薬

実験医学増刊 Vol.43 No.2 創薬の不可能を可能にする 中分子ペプチド医薬

  • ページ数 : 208頁
  • 書籍発行日 : 2025年1月
  • 電子版発売日 : 2025年1月28日
¥6,160(税込)
m3.com 電子書籍ポイント: 112pt ( 2 %)
m3ポイント:1%相当
point-info
今すぐ立ち読み
今すぐ立ち読み

商品情報

内容

多様な標的やデリバリー改善など研究・開発の全貌を網羅!
もはやペプチドを医薬品にするのは難しい時代ではない! 環状化やアミノ酸の改変により,経口投与が可能となり,研究・開発が加速度的に進行中.その最新知見を把握し新薬開発に活かすための1冊.

序文

序にかえて
ペプチド創薬と治療薬開発のさらなる進展に期待する!

はじめに

ペプチド分子が疾患治療を目的に研究されてきた歴史は長い.ペプチド領域のノーベル賞というと,日本では1984年にノーベル化学賞で受けた「ペプチド固相合成の先駆者」であるMerrifield 博士のことを称えることが多いが,歴史的にみると1955年に「硫黄を含んだペプチドホルモンの合成と生化学の先駆者」であるdu Vigneaud 博士がノーベル化学賞を受賞,さらに「神経ペプチドの発見」を果たしたGuillemin・Schally 両博士,「神経ペプチドの放射線検出法の開発」したYalow 博士(女性)が1977年にノーベル生理学・医学賞を共同受賞している.インスリンをペプチドと捉えれば,さらに遡ること1923年に「インスリンの発見」に貢献したBanting・Macleod 両博士がノーベル生理学・医学賞を受賞している.日本のペプチドホルモン研究の発展に大きな貢献をした松尾壽之博士は,Schally 博士のもとでノーベル賞受賞に至る研究に大きく寄与したことも忘れてはならない.また,化学分野では赤堀四郎・榊原俊平両博士のペプチド解析や合成研究も世界に先駆けた研究成果で,その後の国内外のペプチド研究の進展に大きく貢献したことは,ペプチド研究者ならば誰もが知っていることである.

ペプチド研究からペプチド医薬品開発へ

日本のペプチド研究も,前述の先駆者のもと1980年以降大きな発展を成し遂げてきた.その一方で,国内の製薬企業の多くはペプチド医薬品開発から徐々に後退・撤退していった.2003年にアメリカから日本に帰国した私は,新たな方法論と技術でペプチド医薬品を開発すると意気込んでいた.しかし,現実は厳しく,ほとんどの国内製薬企業からは「ペプチドを医薬品にするのは難しい」と言われたのも事実だ.しかし,糖尿病治療薬としてインスリンを開発していた製薬企業は,新しい治療薬としてGLP-1 受容体作動薬の開発に挑み,その成功が目の前に迫っていた.ついに,2005年にはエキセナチドが糖尿病の新たな治療薬としてアメリカで認可される.その後のGLP-1 受容体作動薬の開発競争や近年の治療展開は今や誰もが知るところだが,その当時ここまでの成功を多くのペプチド研究者が予測していたわけではなかっただろう

ペプチド探索から特殊環状ペプチド探索へ

先に言及しなかったが,2018年に「ペプチド・ファージディスプレイの先駆者」であるSmith博士がノーベル化学賞を受賞している.彼のペプチドディスプレイ技術は,同時にノーベル賞を受賞したWinter 博士によりscFv(single chain fragment variable region:一本鎖可変領域)へと展開され,抗体医薬品開発において大きな貢献を残した.scFv のCDR(complementaritydeterminingregion:相補性決定領域)は抗原結合を主として担う3 つのループ構造からなり,三次元立体空間をあらかじめもつランダム・ライブラリーからscFv 活性種を探索することができた.したがって,ファージディスプレイで達成可能な10億種類の多様性ライブラリーからでも標的タンパク質への高い結合力をもつ活性種が得られていた.一方で,ファージディスプレイでペプチド活性種を探索する場合,三次元構造の多様性と適度な硬さを兼ね備えることが難しい短鎖ペプチドでは,発見される活性種の結合活性がそれほど高くなく(しばしば解離定数がμM レンジ),医薬品開発への展開に限界があった.

2005年頃,菅研ではフレキシザイム技術によって非タンパク質性アミノ酸を遺伝暗号に複数アサインし,特殊環状ペプチドを試験管内でリボソーム翻訳合成をする技術を完成,2006年前後にはこの技術とmRNA ディスプレイと組合わせて1 兆種類を超える特殊環状ペプチドをディスプレイするRaPID システムを完成させた.この技術を応用した薬剤候補探索を菅研ではじめた時期に,社会実装を目的としてペプチドリーム社は立ち上がったのである.菅研では,基盤技術の研磨と技術検証のための薬剤候補探索に注力し,獲得された特殊環状ペプチドリガンドが標的タンパク質に対して「解離定数がnM レンジ」という画期的な成果を発表した.同時に,ペプチドリーム社はその技術を用いた「特殊環状ペプチド薬剤の探索」を進めるため海外製薬企業と交渉をはじめ,技術の信頼度と他技術では達成できない技術の高度さを武器に2010年から海外製薬企業を中心とした協業がはじまった.さらに,設定されたマイルストーンを確実に達成したことで協業製薬企業から技術ライセンスの要望が増え,それに応える形で技術ライセンス契約も結んだ.「創薬プラットフォーム技術のビジネス展開」の先駆者としてペプチドリーム社は高い評価を受けたわけである.

経口吸収性ペプチドやPDC の開発へ

現在では,mRNA ディスプレイを用いたペプチド薬剤候補探索は大手海外企業のスタンダードになったとさえ言える.しかし,それらの企業がめざしているのは,抗体の代替品としての注射剤でなく,経口吸収性のペプチド薬剤である.それには環状化や非タンパク質性アミノ酸の含有化はもちろんのこと,経口化を達成しうる分子の最適化である.その達成例として近年公表されたのがMSD 社の開発したPCSK9 経口阻害剤と中外製薬社の開発したKRAS 経口阻害剤である.前者薬剤は,臨床試験が順調に進み,好成績が得られている.両企業ともペプチドリーム社から技術ライセンスを受けており,両薬剤ともmRNA ディスプレイ技術から発見された特殊環状ペプチドをもとに最適化されて開発された事実は注目に値する.この技術を用いることで,さまざまな疾患にかかわるタンパク質を標的として薬剤探索ができることをかんがみれば,さまざまな経口性特殊環状ペプチド薬剤の開発が今後さらに進むことは容易に推察できる.ペプチドリーム社が製薬企業と協業し,事業展開をした2010年前後が「特殊環状ペプチド探索ブーム」のはじまりとすれば,その果実が採れはじめた2023年に「経口性特殊環状ペプチド開発ブーム」が到来したといえる.いや,GLP-1 受容体作動薬の経口剤化がすでに進んできたことを考えると,経口性ペプチド開発のブームはエキセナチドが認可されて10年後の2015年にははじまっていたのかもしれない.しかし,経口性ペプチド創薬の課題もまだ多く残されている.より高い経口吸収性や薬物動態の向上,フォーミュレーションを含めた吸収補助技術の開発等,経口性ペプチド薬剤の開発を確固たるものにする基盤はいまだ十分とはいえない.一方で,ペプチド・ドラッグ・コンジュゲート(PDC:peptide-drug conjugate),特に放射性同位体を薬剤として用いたセラノスティクスPDC は,体外排出の早いペプチドの方が抗体を用いたデリバリーよりも優れており,ペプチドリームだけでなく,世界中のスタートアップ企業や製薬企業で開発が進んでいることも見逃せない方向性だろう.

おわりに

今や誰も「ペプチドを医薬品にするのは難しい」とは言わない.ただ,低分子や抗体と比較すれば,まだ十分な研究開発がされておらず,そのポテンシャルを最大限引き出すにはまだ時間もかかるだろう.しかし,冒頭に述べた先駆者たちは,きっとその可能性を見抜き,研究をしていたに違いない.その意志は,現在もペプチド創薬研究に生きているはずだ.本誌では,日本を代表するペプチド研究者に筆を振るっていただいた.これらの研究のほとんどは,アカデミア基礎研究である.しかし,RaPID システムにしても膨大なアカデミア基礎研究の背景があってこそ成立した技術であり,本誌で取り上げた基礎研究がいつ大きな応用に進展するかはわからない.それに大きな期待を寄せている一人として,本誌の編集にかかわった.これまでのペプチド創薬研究はもちろんのこと,未来のペプチド創薬を考える若い研究者たちの参考になれば,幸いである.

<著者プロフィール>

菅 裕明:東京大学大学院理学系研究科化学専攻生物有機化学教室教授.1994年,マサチューセッツ工科大学にてPh.D. 取得.マサチューセッツ総合病院・ハーバード医学部博士研究員,ニューヨーク州立バッファロー大学助教授・准教授,東京大学先端科学技術研究センター准教授・教授を経て,2010年より現職.’06年にペプチドリーム社を設立,’18年社外取締役退任.’17年ミラバイオロジクス社を設立,現取締役.主な受賞は2023年ウルフ賞,2024年日本学士院賞,他.特殊ペプチド創薬,擬天然物創薬,ネオバイオロジクス創薬が専門.趣味はギター演奏(Jazz,Blues 等).


菅 裕明

目次

[総論]中分子ペプチド医薬の歴史と展望―中分子ペプチド医薬が明日の医療を拓く【玉村啓和】

第1章 新規ペプチドの設計・合成・探索

Ⅰ.設計

1.In vitroにおける遺伝暗号リプログラミング技術【平嶋瞭一,加藤敬行】

2.天然物ペプチドを真似た人工ペプチド:擬天然ペプチド薬剤の創製【後藤佑樹】

3.天然由来二環式ペプチドを基盤とする医薬品分子設計【永澤秀子,小池晃太,山田晴輝,辻 美恵子】

Ⅱ.合成・展開

4.脱保護工程を挟まない高効率フローペプチド合成【布施新一郎】

5.ペプチドを基盤とした標的タンパク質光不活化とその医薬展開【谷口敦彦,林 良雄】

6.タンパク質の機能を制御する環状ペプチドの合成・探索【村田陽二】

7.均一糖鎖構造をもつ糖タンパク質の精密合成と機能解析【平尾宏太郎,真木勇太,梶原康宏】

8.副反応を出発点とするペプチド側鎖修飾反応【大高 章】

9.ペプチド系複雑天然物の全合成とその応用展開【伊藤寛晃,井上将行】

Ⅲ.探索・シミュレーション

10.中分子ペプチド医薬の膜透過性予測【秋山 泰】

11.ペプチドライブラリー構築と機能性分子の探索【大河内美奈】

第2章 薬理活性の創出

1.代謝調節に関連する生体ペプチドを基軸とした創薬研究【髙山健太郎】

2.マイトクリプタイドと急性炎症治療を指向した革新的創薬―新規自然免疫トリガー因子の発見と難治性組織傷害治療への適用【向井秀仁】

3.人工抗体の開発【梅本 駿,村上 裕】

4.環状ペプチドに基づくサイトカインミメティクス【酒井克也】

5.ユビキチンを用いたラッソグラフト分子改良の新戦略【今井幹雄,菅 裕明】

第3章 デリバリー・膜透過改善への取り組み

1.膜透過・経口吸収可能な環状中分子ペプチドの創薬展開【太田 淳,木村香緒梨】

2.生理活性ペプチドのDDS【勝見英正】

3.受動的に膜を透過するペプチド型中分子―環状ペプチドとペプトイド【森本淳平】

4.局在性小分子・ペプチドによるタンパク質局在制御【築地真也,王 笑桐】

5.小腸吸収・脳関門透過を促進するDDSキャリア【伊藤慎悟】

第4章 疾患治療への応用・将来の創薬への課題

1.骨形成・骨再生を促進するペプチド医薬【久保優里,陳德容,謝倉右,青木和広】

2.ナトリウム利尿ペプチドとペプチド医薬【小川治夫,古谷真優美,錦見俊雄,南野直人】

3.進化する2型糖尿病・肥満症に対するペプチド創薬―GIP/GLP-1デュアルアゴニストの登場【安田拓真,池口絵理,矢部大介】

4.中分子ペプチド医薬品の規制ガイドラインの現状と課題・展望【出水庸介】


索引

便利機能

  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応
便利機能アイコン説明
  • 全文・
    串刺検索
  • 目次・
    索引リンク
  • PCブラウザ閲覧
  • メモ・付箋
  • PubMed
    リンク
  • 動画再生
  • 音声再生
  • 今日の治療薬リンク
  • イヤーノートリンク
  • 南山堂医学
    大辞典
    リンク
  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応

対応機種

  • ios icon

    iOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:9.6MB以上(インストール時:26.9MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:38.4MB以上

  • android icon

    AndroidOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:9.6MB以上(インストール時:26.9MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:38.4MB以上

  • コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
  • コンテンツの使用にあたり、m3.com電子書籍アプリが必要です。 導入方法の詳細はこちら
  • Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
  • Androidロゴは Google LLC の商標です。

書籍情報

  • ISBN:9784758104241
  • ページ数:208頁
  • 書籍発行日:2025年1月
  • 電子版発売日:2025年1月28日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

まだ投稿されていません

特記事項

※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。

※コンテンツの使用にあたり、m3.com 電子書籍アプリが必要です。

※eBook版は、書籍の体裁そのままで表示しますので、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。