AYA世代がん患者のこころのケア

まえがき

思春期から若年成人が含まれるAYA（adolescent and young adult）世代は，人生において変化の激しい発達段階である．通常でも，ライフサイクル上，困難を伴いやすい時期で，「がん」という重篤な疾患に罹患することにより，さらに，様々なライフイベントによるQOL（quality of life）への悪影響が生じるリスクの高い時期であるという特色がある．しかし，この世代の「がん」の罹患率は低く，全がん患者の2 ～ 3％に過ぎない．

日本において，死亡数から見た死因ではがんが第1位になってから久しい．2007年4月に「がん対策基本法」が施行され，同年6月に，第1 期の「がん対策推進基本計画」が策定され，がん医療における治療の面だけではなく，治療の初期段階からの緩和ケアの実施が盛り込まれた．ただし，第1 期の「がん対策推進基本計画」には，重点的に取り組むべき施策として，小児もAYA 世代も含まれておらず，第2 期の「がん対策推進基本計画」（2012年）に小児がんが取り上げられ，AYA 世代に関しては，ようやく第3 期の「がん対策推進基本計画」（2017年）に盛り込まれることになった．このようにAYA 世代は重点的に取り組むべき施策から「取り残されてきた」世代であり，近年ようやく，この世代のがん患者へのケアに関する取り組みが注目されてきている段階である．

本書は，このような状況の中，日本サイコオンコロジー学会の協力を得て，この分野の第一人者の先生方にご執筆をいただいた．AYA 世代に関わるなら知っておきたい総論から始まり，がん患者のみならず，ご家族やパートナー，さらには医療スタッフを含む周りの方へのサポート（グリーフケアを含む）も含まれている．そして，病院内外・地域をも含む，多職種連携の仕方も含まれている．本書が，様々な職種の方に活用され，この世代のがん患者・ご家族のQOL の向上に寄与することを願っている．

あらためて，本書の刊行にあたり，企画から熱心にご参画いただいた編集委員の先生方，素晴らしい内容の原稿をご執筆いただいた著者の先生方をはじめ，関係者のみなさまに厚くお礼申し上げる．

2024年10月

日本サイコオンコロジー学会前代表理事
吉内一浩