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- 慢性疼痛の生理心理学
商品情報
内容
基礎・臨床研究から実臨床に至るまでを網羅した内容で、痛みをより深く理解することができる。
「慢性疼痛」に関わる全ての人に読んで頂きたい一冊。
序文
はじめに
痛みは本人以外にはわからない。社会構成の高齢化に従って身体の痛みに苦しむ人は年々増加している。痛みの苦しみは持続し,慢性化しやすい。鎮痛薬も効き難い。長引く痛みに苦しみ,ストレスに苦しむ。痛みとストレスの悪循環が痛みを慢性化させる。
慢性疼痛の本質を理解し,学際的研究に独創的発想の糸口を見出すことの重要性を痛感する。
本書は現実を直視し,その少し先に焦点がおかれている。研究結果は,若い研究者たちによって確認され,将来花開く日が訪れることを期待したい。しかし,本書は現実を踏まえ,関心を持つ学生やこれから研究を志す人,さらに他分野の研究者,さらには一般の人々にも身近に考えてもらえるような内容に纏めることを心がけた。侵害受容,つまり神経終末が温度刺激を受けたり,機械的あるいは化学的に刺激されたりした結果,神経の中で感覚伝達が活性化されることと痛みは,本質的に異なるものである。刺激された神経が侵害情報を中枢神経系に伝えるのであるから,侵害受容には組織損傷があり,かつ痛みと認識されうる末梢での刺激という過程が含まれる。特別な受容器である侵害受容器の刺激と非侵害受容器からの刺激の中枢での総和が侵害受容の伝達に含まれている。一方,「痛み」は多くの求心性および遠心性のプロセスの統合と修飾に基づいた認知現象であり,痛みを認識するには意識を持った生命体でなければならない。従来,痛みの感覚刺激が神経伝達により,脊髄を通り,脳の痛覚中枢に運ばれるという伝統的な解剖学的モデルが数多く研究されてきた。最近では,慢性疼痛における発症メカニズムや対処法について,主に基礎研究を中心に実験が行われている。言うまでもなく,新しい研究は先人たちの研究を土台にして進展する。
慢性疼痛に対する先人たちの苦難の基礎・臨床研究の流れを理解することによって,痛みをより深く理解することができるであろうと考えられる。そこで疼痛の複雑さと新しい概念の混沌とした過渡期における研究から得られた結果や洞察を振り返ることは有意義である。
本書は実証実験を中心とし(第4~7 章),慢性疼痛が学習によって形成され発展することを動物実験により証明した。さらに慢性疼痛に嗅覚刺激(匂い)が有効である証拠を提示した。
① 約半世紀前まで,痛みの中心は末梢神経にある,つまり交感神経や骨格筋の緊張が,慢性疼痛を引き起こすと考えられていた。
② その後,痛みの末梢性学習説が唱えられるようになった。しかし,痛みは他人には分からないこともあり医療的,社会的に強い関心は寄せられなかった。その学習説は,理論的に起こりうることとして推測に留まり,行動的な実証研究は見当たらないようである。その中で時代の変遷とともに,末梢神経から近年は脳中枢神経系に関心が向けられている。
③ 痛みの原点を基にして,生理的,心理的観点から考えると,慢性疼痛の一部,あるいはその大部分は学習が関与すると考えられた。そこでマウスを使用して,慢性疼痛が連合学習により発展することを,動物において客観的手法で実験的に確かめた。そして無意識に学習した視聴覚刺激,生活環境,日常行動を,意識的に変えることにより学習性疼痛,すなわち慢性疼痛が軽減ないしは消去されることが判明した。この消去は自験例(症例報告)でも確認した。
④ 慢性疼痛と学習の定義が本質的に似ていることも意義深い。
⑤ モルヒネ,フェンタニル,フルボキサミンなど,比較的強いと言われてきた鎮痛薬でも学習性慢性疼痛マウスにはほとんどないしは全く無効であった。従来の鎮痛薬がなぜ効きにくいか,その理由を考える時,薬物の作用点に問題がある。従来の鎮痛薬の作用点と学習の神経機構の中枢は異なることが無効の原因であると考えられる。
⑥ 痛覚と嗅覚は,ヒトを含む生物が備えている原始的な感覚であり,脳内中枢は隣接し連絡し合っている。脳内で痛み・条件づけの中枢と連絡し合い関連が深いのは嗅覚である。そこで学習性慢性疼痛モデル動物に与える選好性嗅覚刺激の影響を検討した。その結果,嗅覚刺激は慢性疼痛を確実に抑えることが明らかになった。
ハチミツ,マンゴーの匂い(ともに動物が寄ってくる匂い)は,学習性疼痛行動を抑制することが分かった。すなわち好きな天然の匂いが慢性疼痛に極めて有効であることを実験的に確かめた。
マウスでは,化粧品として使われる高級な香水を浸み込ませた沪紙を実験箱に入れても全く関心がなく,踏みつけて無関心である。ところがマウスが好む天然の匂い,例えば選好性が高いハチミツを浸み込ませた沪紙を与えると,くわえたまま奪い合い,ケージの中を活発に走り回り食べてしまう,明らかに強い選好性関心を示す行動がみられた。
人において,夜寝る前にハチミツの匂いをかぐと,アクビがでて眠気を感じる。発現は約10 分,持続は30 分以上と思ったより長く,そのうち眠ってしまう,という現象を経験している。アクビは脳が眠気を催して出るという説と,逆に脳に酸素を送り活動の準備反応として出るという説もあり,メカニズムについては今後の解明が待たれる。
2025年6月
北村元隆
目次
第 1 章 痛みの役割
1.痛みの功罪
2.痛みは体と心で感じる
3.急性痛と慢性痛
4.体性痛と内臓痛
5.慢性疼痛の悩み
6.慢性疼痛への新たな取り組み
第 2 章 痛みを伝える神経
1.痛みはどのようにして感じるか
2.痛みの受容器
3.Aδ線維と C 線維
4.侵害受容器を介する痛みと介さない痛み
5.痛みの伝導路
6.痛みの感覚と知覚
7.痛みの脊髄上行路と脳内回路
8.脊髄下行性抑制系とランナーズハイ
9.大脳による痛みのコントロール
10.視覚による痛みのコントロール
11.長期記憶と短期記憶
12.脳の可塑性・長期増強
13.脳神経回路の可塑性変化が痛みの慢性化を促す
14.痛みの慢性化に関する研究の焦点;末梢から中枢へ
第 3 章 無意識な痛み回避行動
1.慢性疼痛は学習の基本原理を基盤に成立する
2.慢性疼痛と学習の関係
3.代表的学習の形式
4.観察学習
5.般化と分化
6.痛みと精神の関係
第 4 章 慢性疼痛は学習である
1.慢性疼痛は学習となぜ結びつくか
2.動物に痛みを起こす
3.痛みの強さと学習性疼痛反応の関係
4.連合学習性疼痛反応の持続と消去
5.実験により見いだされた新たな事実
6.痛みと精神の関係
第 5 章 痛覚と嗅覚は起源が同じ
1.痛覚の神経
2.学習条件づけの脳神経回路
3.嗅覚神経回路
4.匂い感覚と慢性疼痛の基盤:大脳辺縁系
5.破局的・楽観的思考の中で融合し共鳴する慢性疼痛,学習,嗅覚刺激
6.痛覚,学習,嗅覚の脳神経回路の融合と共鳴
第 6 章 学習性慢性疼痛に対する鎮痛処方の道筋
1.はじめに
2.慢性疼痛に対する制御機構
3.代表的鎮痛薬の作用比較実験
第 7 章 慢性疼痛の理にかなった対処法
1.長びく苦しい痛み
2.生命維持に必要な痛みと嗅覚
3.天然の香りと人工香水
4.匂い分子
5.匂いでストレスや悲観的思考を和らげる
6.匂い刺激で健やかな老後
7.慢性疼痛に対する合理的嗅覚刺激の抑制効果
8.慢性疼痛に対する鎮痛薬の評価
9.結論
第 8 章 症例報告
1.変形性腰椎症の激痛が匂いで消えた 1 例
2.帯状疱疹の激痛が匂いで消えた 1 例
第 9 章 補足:実験法
1.実験動物
2.実験環境と装置
3.手続き
4.薬物の影響
5.嗅覚刺激の影響
6.UCR ならびに CR に対する嗅覚刺激物質(匂い)の効果
7.UCR ならびに CR に対する選好性嗅覚刺激とスコポラミンの影響
8.統計解析
おわりに
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書籍情報
- ISBN:9784865176438
- ページ数:84頁
- 書籍発行日:2025年6月
- 電子版発売日:2025年7月18日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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