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子ども・大人の発達障害診療ハンドブック―年代別にみる症例と発達障害データ集

  • ページ数 : 360頁
  • 書籍発行日 : 2018年1月
  • 電子版発売日 : 2025年8月6日
¥8,250(税込)
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商品情報

内容

発達障害は疾病ではなく特性であり,子どもから大人まで,生涯を通して切れ目なく支援が必要とされる.これまで小児と成人とで別々に論じられてきた発達障害を連続するものとして一つにまとめ,発達段階を追って問題点を浮き彫りにし, 的確な理解と適切な支援を教授するプラクティカルな書籍.「総説編」「症例編」「発達障害データ集」の3部構成にて,発達障害診療の実際に肉迫した.

序文

はじめに

発達障害という言葉は日本に随分定着したように思う.しかし,実際に臨床活動を行っていると,発達障害について正しく理解している人は意外に少なく,今なお多くの無理解や偏見にさらされていることに気づく.発達障害は命に関わるような障害ではない.特効的な薬物療法はないし,手術して治るわけでもない.血液検査や画像検査で診断がつくわけでもない.だから診断をする必要がないと思っている医師もいる.

しかしながら,発達障害を正確に診断・評価し,適切な支援を行うことは,その人の人生に大きな影響を与える.また,発達障害を見逃し,正常と判断して支援につながらなかったり,統合失調症など他の障害と誤診して薬物療法中心の治療が行われたことで多大な不利益を患者に与えることもある.実際,筆者はそのような人を大勢みてきた.

発達障害は決してまれな障害ではない.誰もが必ずどこかで出逢っているはずだ.発達障害は児童精神医学の枠をはるかに超えて,多様な職業の人が関わる障害になっている.

筆者が発達障害に出逢ったのは30年前である.当時存在した東京都立梅ヶ丘病院の幼児病棟で重度の自閉症の子どもに出逢った.ほとんどの子どもは中度以上の知的障害を伴っていた.たまに知的障害を伴わない自閉症の子どもが受診すると,それだけでも医局で話題になるような時代だった.また,多少なりともコミュニケーションが成立する子どもがいると自閉症とは診断をつけづらく,多動性障害や学習障害と診断する傾向にあったように思う.当時の児童精神科は,閉じられた世界で,二大テーマは自閉症と不登校であった.成人の精神医学との距離は遠く,互いに関心を共有することも少なかった.

その後,大きく時代は変化した.一つの大きな変化はAsperger 症候群への注目である.日本ではHans Asperger の業績は翻訳もされており,一定の注目はされていたが,多くの人の関心をかうことはなかった.現在のように自閉症スペクトラムやAsperger 症候群が注目されるきっかけになったのはWing とGould が1979年に発表した疫学調査1)と,その2年後にWing が発表したAsperger 症候群を再評価した論文2)である.これらの論文の影響でAsperger 症候群を含む自閉症スペクトラムの概念は拡大し,現在に至っている.

自閉症スペクトラムと並んで代表的な発達障害である注意欠如・多動症(attention–deficit/hyperactivity disorder:ADHD)に目を向けよう.ADHDの議論が日本で盛んになったのは1990年代頃からであろう.ADHD と自閉症スペクトラムは従来,お互いに無関係に議論されることが多かった.1990年代頃までの論文ではADHD と自閉症スペクトラムはまったく別の障害であり,鑑別や併存も話題にならなかった.『精神疾患の診断・統計マニュアル第4版』(DSM–IV)や『国際疾病分類第10版』(ICD–10)では自閉症スペクトラム(あるいは,広汎性発達障害)との診断併記は認められていなかった.スペクトラム概念が採用され自閉症の範囲が広がったこと,正常知能の自閉症スペクトラムへの関心が高まったことで,ADHD との異同も盛んに議論されるようになった.

今日,日本の教育界で使われる学習障害(learning disabilities)の概念は,アメリカで1960年代に提出された概念に始まっている.それまでのdyslexia 研究の歴史とのつながりが乏しく,やや唐突に提出され,急速にアメリカの教育界に広まった.イギリスやヨーロッパでは現在に至るまで日米で用いられる学習障害という用語はあまり使われず,dyslexia の概念が重視されている.教育用語としての学習障害の概念として1999年の「学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議」3)の定義が教育界で普及し,現在に至っている.自閉症スペクトラムやADHDとの異同,合併については未整理のまま教育界では議論がされてきた.DSM–5 では限局性学習症という新しい名称のもとに疑念が整理されたが,この改訂が実際にどのような変化を与えるかは,現時点では予測不能である.

21 世紀になってからの大きな変化は大人の発達障害への注目である.発達障害の子どもはいずれ発達障害の大人になる.そして成人期は子ども時代よりずっと長い.青年期,成人期,中年期から老年期に至るライフステージによって発達障害の人や支援者の課題も変わっていくが,このような変化については,これまで議論されることは少なかった.ライフステージを考慮した支援方法についての検討は始まったばかりである.

もう一つ,重要なことは女性例の支援である.従来,発達障害は男児の障害であるとみなされ,女児は付け足し程度に語られるにとどまった.特に発達障害のある成人女性の存在は認識もされず,支援対象になることが少なかった.女性の発達障害は決してまれな存在ではない.今後,支援の重要性が増していくのは間違いない.

発達障害,特にAsperger 症候群が一般の人に認知されるようになった理由の一つに非行・触法行為がある.発達障害の子どもや成人は犯罪者になりやすいという偏見をもつ人は少なくないようだ.

日本は東日本大震災や熊本地震を経験した災害大国であるが,災害の際に発達障害の人をどのように支援すべきかという重要な問題も,これまで検討されてこなかった.

多くの発達障害の子どもにとって学習の負担は大きい.それにもかかわらず精神科医や心理士の学習支援への関心は乏しく,読み書き障害や算数障害を明らかにもっているのに,特別の支援を受けている子どもは少ない.

本書では,このような歴史的背景をふまえて,これまで見逃されがちであった中年期以降の発達障害や女性例,非行・触法,災害時の支援,英語や算数の学習障害についても解説した.

日本では発達障害者支援法が2005年に施行され,11年後の2016年に改正された.同法が制定される際には,さまざまな議論や批判があったが,本法律が制定されたことの意義は大きい.自閉症支援の先進国,イギリスでも自閉症法が制定されたのは2005年であり,画期的なことであった.もちろん,発達障害の支援制度は十分とはいえないが,この最近の10年間で大きく前進した.そこで本書では法制度や福祉制度についても十分なページを割いて解説した.

保育士や教師といった子どもに関する職種だけでなく,精神科医や心理職はむろんのこと,福祉職や行政職,司法職など,人を対象に支援する職種の人にとって,発達障害の正しい知識が必要である.正しく理解していれば,発達障害の人を支援することは楽しく,やり甲斐のある仕事である.

そこで教科書的な記載では,どうしても臨床の実感を伝えにくい事柄については,症例編で事例を記載することで読者に臨床の実態を感じてもらえるように試みた.

本書では診断・評価ツールについても,できるだけ網羅的に解説した.伝統的な日本の精神医学では,診断・評価ツールを臨床に用いることが軽視されてきた.専門的な修練を積んだ児童精神科医が直観や印象も加味して診断を下す名人芸が評価されてきたように思う.子どもの状態を数値で語るのは臨床家として浅薄な態度だとみなす専門家も多い.発達障害のように多職種が共同して,しかも長期間支援する必要がある障害では,情報をどのように支援者間で共有するか,後の世代を支援する専門家に,どのように情報を引き継ぐか重要なテーマである.どのようなツールにも限界はあるが,限界を認識したうえで標準化されたツールを用いることは有益であり,積極的に活用したい.

最後になったが,親や当事者の方にもコラムをお願いした.当事者の立場でないと見えないことがある.支援者はいつも当事者の視点を忘れないようにしたいと思う.

このように盛り沢山の内容になった.本書の主なターゲットは発達障害の臨床を志す医師や心理士,精神保健福祉士であるが,それに限らず発達障害の人の支援に関わる専門家にとって,臨床の実際に役立つ内容であると確信する.本書を発達障害の人の人生を少しでも豊かにすることに役立てていただければ幸いである.

文献

1) Wing L, Gould J. Severe impairments of social interaction and associated abnormalities inchildren:Epidemiology and classification. J Autism Dev Disord 1979;9 (1):11–29.

2) Wing L. Asperger’s syndrome:A clinical account. Psychol Med 1981;11 (1):115–129.

3) 文部科学省.学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議「学習障害児に対する指導について(報告)」.1999.


2017年10月

内山登紀夫

目次

Part1 総説編

A.総論

 1.発達障害とは何か

 2.診断・評価の進め方

 3.支援の原則

 4.薬物療法

 column:“自閉傾向”様子をみましょう”“グレーゾーン”が与えるもの

B.年代別に発達障害を診る

 1.乳幼児期

 2.学童期

 3.思春期

 4.青年期

 5.成人期

 6.中年・老年期

 column:親になって保護者の立場から

C.周辺の問題

 1.女性の発達障害

 2.養育者への支援

 3.きょうだいへの支援

 4.学校・関係機関との連携

 5.就労の支援

 6.地域生活の支援(GH、余暇等)

 7.パートナーとの問題

 8.非行・触法への取り組み

 9.精神障害との併存・鑑別の問題

 10.災害時の反応と対応

 column:当事者団体の活動ー日本発達障害ネットワークの活動を中心に

Part2 症例編

 1.幼児期: 知的能力障害を伴う自閉症児における早期支援

 2.幼児期:自閉症スペクトラム児における家庭への包括的支援

 3.学齢期:知的能力障害を伴う自閉症スペクトラムの例

 4.学齢期:知的発達に遅れのない複数の発達特性をもつ児の対応と学校との連携

 5.思春期・青年期遅滞あり

 6.思春期・青年期高機能

 7.青年・成人期:対応困難だったケースが,安定した地域生活につながるまで

 8.青年・成人期:自閉スペクトラム症を基盤としたひきこもりケースへの支援

 9.触法への取り組み:放火事件で起訴された自閉症スペクトラムのある被告人に対する福祉的支援

 10.特性理解にたったASD支援―地域連携を目指して

 column:障害のある人と社会をつなぐ「トラブル・シューター」

Part3 発達障害データ集

 1.法制度

 2.福祉制度(学齢期)

 3.福祉制度(成人期)

 4.福祉制度(高齢期:介護保健関係)

 5.成年後見制度

 6.疫学

 7.発達障害の発症機構

 8.発達障害の神経心理学的機構

 9.発達障害の脳画像

 10.発達障害のバイオマーカー

 11.診断・評価ツール

 [スクリーニングツール]

  a.M-CHAT

  b.質問紙(AQ, SRS, 他)

  c.PARS-TR

 [診断ツール]

  a.ADI-R

  b.DISCO

  c.ADOS-2

  d.CARS2

  e.ASDI

  f.CAADID

 [評価ツール]

  a.Vineland-II

  b.PEP-3

  c.TTAP

  d.ADHD-RS

  e.Conners3

  f.CAARS

  g.LDI-R

  h.読字の評価

  i.書字の評価

  j.算数の評価

  k.英語の読み書き障害

 column:発達障がいと私-支援者に求めること

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書籍情報

  • ISBN:9784521745688
  • ページ数:360頁
  • 書籍発行日:2018年1月
  • 電子版発売日:2025年8月6日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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