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- Medical Technology53巻8号 震災と臨床検査 ―経験談から考える備えと対応
商品情報
内容
●本特集では特別座談会として,東日本大震災,熊本地震,能登半島地震の被災・支援を経験された先生方に,臨床検査に関して直面した課題や教訓,展望を語り合っていただきました.
●震災が起きた時に,検査室やその周囲では何が起こっていたのか,臨床検査技師として何ができるのか,必要となる備えや体制整備は……自施設での災害対策をあらためて考える際の手がかりにしていただければと思います.
序文
プロローグ
蒸し暑さが残る夏の夜,とある大きな病院で働く臨床検査技師の山本は,夜間当直として,検査室で黙々と作業を進めていた.蛍光灯の光が,無機質な機器と試薬の瓶を淡く照らしている.今夜もまた,病棟や救急外来から次々届く検体を血液検査や生化学検査の自動分析装置にかけ,データを精査しながら,淡々と業務をこなしていた.外の夜の静けさとは対照的に,室内では血液検査や生化学検査の検体を分析する機器がリズムを刻むように動いていた.
その時,地面が揺れ始めた.最初はかすかな振動だったが,次第に揺れは増し,天井の蛍光灯が不気味な音を立てて揺れ動く.山本は驚愕し,すぐに身をかがめた.「地震だ…!」
瞬時に頭をよぎるのは,この揺れが病院全体に与える影響だ.
突然,揺れとともに電気が一斉に消えた.停電だ.機器の音も一瞬にして止まり,検査室は闇に包まれた.非常灯がうっすらと光を放つが,それは全体のごく一部を照らすだけだった.分析装置のディスプレイも消え,作業中のデータが一瞬のうちに消失してしまった可能性がある.山本は胸の奥に冷たいものが走るのを感じた.
周囲を見回したが,何も見えない.ただ,わずかに聞こえるのは自分の呼吸と,遠くで鳴り響く警報の音だけだった.「どうすればいい…?」
山本の心臓は激しく鼓動を打ち,思考は混乱に陥っていた.
一呼吸して,まず状況を確認することに決めた.手探りで机の上の懐中電灯を掴み,照らしながら機器を確認する.検査室の機器はすべて停止し,検査中断を余儀なくされていた.特に,重要な検査が途中で止まってしまったことが,山本の頭を悩ませた.すぐにでも結果が必要な患者がいるはずだが,今は何もできない.
その後しばらくして,電話が鳴り響き始めた.受話器を取り上げたが,停電の影響で内部回線も不安定になっており,声が途切れ途切れにしか聞こえない.「…病院…混乱している…避難…負傷者が…」
聞き取れる言葉から,院内がパニック状態に陥っていることが伺えた.
山本は混乱を抑え,自分の役割を思い出す.すぐに頭に浮かんだのは,院内の非常用電源だった.「たしか2 階の手術室にあったはずだ」
長い電源コードリールを持参し,懐中電灯で照らしながら暗闇の中を慎重に進み,手術室に辿り着き非常用電源を見つける.幸運にも,非常用電源はすでに作動していた.空いているコンセントにプラグを差し込み,検査室まで電源コードを引っ張って分析装置につなぐと,機器の一部が再び動き出した.
しかし,次に襲ってきたのは断水という現実だった.検査に必要な水が出なくなった.山本はその事実に打ちのめされそうになったが,今は冷静でいる必要があった.できる限りの対応を考え,限られた電力を使って何とか検査を再開させる方法を模索するしかない.とりあえずリザーバー内の水が残っていたので,それを使用して当面の検査に対応しようと考えた.
その後しばらくして,同僚の佐藤が自宅から駆け付け検査室に飛び込んできた.彼の顔にも緊張が浮かんでいる.「山本,大丈夫か? 今は非常用電源が動いているが,病院全体の負荷がかかっている.すぐに対応しなければ,また止まるかもしれない」「わかった,まずは最優先の検査を再開しよう」
山本はうなずいて応じた.「そうだな,緊急事態だからこそミスが許されない.冷静にやろう」
佐藤は言い,2 人は限られた電力でできるだけの作業を始めた.
その後,何とか残りの検査は順調に進んでいたが,検査室内は次第に異様な蒸し暑さに包まれていった.非常用電源により,分析装置はかろうじて稼働していたものの,冷房は止まったままだ.夜とはいえ,じっとりと汗ばむような夏の空気が充満し,さらに分析装置が放出する余熱が,その暑さをいっそう強めていた.
そんな中,突然ピタリと分析装置が動きを止めた.耐えきれないほどの熱により,ついにオーバーヒートを起こしてしまったのだ.汗まみれの山本と佐藤は,互いに顔を見合わせ,なすすべもなく途方に暮れてしまった.「なぜ,もっとしっかりとした災害対策を立てておかなかったのか…」
山本は心の中で何度もその思いを反芻し,後悔と無念が彼を苛んでいた.
目次
特集:特別座談会 震災と臨床検査―経験談から考える備えと対応
(諏訪部 章・藤巻慎一・松井啓隆・油野友二・中村和彦)
1.自己紹介・震災での経験
2.被災時の職員の安否確認・出勤体制
3.施設や検査室での災害対策
4.検査業務ができない時の役割
5.被災地の支援体制のあり方
Editorial―今月のことば
情報収集していますか
(髙梨 昇)
薬剤感受性検査データ(MIC)の読み方と耐性菌検査
グラム陰性菌編
8.Klebsiella pneumoniae,Klebsiella oxytoca
(原 稔典)
クライテリア確立のための細胞所見―鑑別疾患と重要所見
6.子宮頸部
(梅澤 敬)
臨床検査Q&A
凝固検査において,乳びが強い検体の対策・対処法を知りたいです.絶食の再採血でも乳びが強い検体がありますが,良い方法はあるのでしょうか?
(木村明佐子)
蛋白尿というと腎機能が悪いというイメージをもっていますが,蛋白尿が出た時はどのような点に注目・注意すべきかを教えて下さい.
(中川裕美)
MT Seminar
乳癌におけるHER2検査と固定
(向田大輔・芹澤昭彦・伊藤 仁)
有意義な臨地実習に向けて
後編:臨地実習受け入れ側の立場から
(横山志津子)
技術講座
超音波検査における肝硬度測定と肝脂肪化測定
(上田直幸)
基礎講座
寄生虫検査の方法・検査の進め方
(松村隆弘)
造血器疾患に対する遺伝子関連検査とその解釈
(近藤直美)
シリーズ 押さえておきたい血管機能検査
1.血圧脈波検査(ABI/PWV)
(宮内隆光)
From LABO
細胞治療認定管理師の役割
(降田喜昭)
VOICE読者のページ
編集部レポート(一般社団法人 日本臨床検査学教育協議会 令和7年度定時総会)
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書籍情報
- ISBN:9784006105308
- ページ数:100頁
- 書籍発行日:2025年8月
- 電子版発売日:2025年8月6日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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