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実験医学増刊 Vol.43 No.15 構造生命科学 AlphaFold時代にどう活かす?

  • ページ数 : 214頁
  • 書籍発行日 : 2025年9月
  • 電子版発売日 : 2025年9月4日
¥6,160(税込)
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商品情報

内容

構造は解く時代から活かす時代へ!活用方法を豊富な事例で解説
あらゆる生命科学研究者が構造データを活用できる時代が到来!AlphaFoldを含む最先端の構造予測AI,クライオEMやクライオETで構造データを取得し,タンパク質の機能解析・デザイン・創薬にどう活かすのか,豊富な事例とともに研究戦略を解説.

序文

序にかえて
構造を解く時代から活かす時代へ

はじめに

百聞は一見にしかず(Seeing is believing),という諺が日本語にも英語にもあるように,直接“見る”ことが物事を知るうえでいかに強力か,という認識は古くからわれわれ人間に共通して存在していた.John Kendrew,Max Perutz らがX 線結晶構造解析を用いてはじめてタンパク質の構造を決定してから60年以上経った現在1),構造生物学者達はX 線結晶構造解析のみならず,クライオ電子顕微鏡単粒子解析(SPA:single particle analysis)や核磁気共鳴(NMR:nuclear magnetic resonance)などさまざまな手法を組合わせて,タンパク質や核酸の構造を明らかにすることが可能となっている.また,2021年に生まれたAlphaFold2 やその類縁プログラムはタンパク質の構造予測を実用レベルまで押し上げ,構造生物学者のみならず,これまで構造生物学に馴染みのなかった研究者達にまで影響を与えることに成功している.急速に実験科学・計算科学が進歩し,構造生物学が民主化しつつあるこの時代において,われわれはどのようにタンパク質構造を見て,それを活かしていけばよいのであろうか.

本書の構成

こうした問題意識をもとに,本書は4 章立てでポストAlphaFold 時代の構造生命科学を論じていく(図).まず第1 章では,主に生命現象に潜むメカニズムを原子・分子のレベルで理解するために先端の構造生物学を利用するというアプローチを紹介していく.例えば第1 章-1 ~ 4では,SPA を用いて,いまだ構造予測の精度が十分ではない領域,すなわちタンパク質複合体の構造解析やタンパク質のダイナミクス解析を行った実例を紹介する.その対象分野もクロマチン複合体,転写因子複合体,回転型ATP 合成酵素,胆汁酸トランスポーターと多岐に渡っており,現状のSPA 技術によりどこまでタンパク質・核酸機能の詳細に迫ることが可能なのか,その一端を垣間見ることができる.加えて,第1 章-5 ~ 7 では構造予測が困難なもう一つの領域,すなわちタンパク質のin situ 構造解析において,クライオ電子顕微鏡トモグラフィー解析(cryo-ET)を適用することで何が見えてくるのかが,実例を交えて論じられている.一方,第1 章-8 ~ 11 ではタンパク質構造予測技術の発展的利用法が,すなわちタンパク質複合体の構造解析やタンパク質のダイナミクス解析においても実験科学と計算科学の高度な融合が可能であることが記されている.特に,第1 章-10 で紹介されている複合体構造予測を利用したin silico でのインタラクトーム解析は,構造生物学の枠を超えてタンパク質構造予測技術を活用している好例であり,これからの構造生命科学の方向性を示唆しているように思われる.また,第1 章-12 では,de novo タンパク質とハイスループットのアッセイ技術を組合わせることでタンパク質の構造安定化に重要な配列要素を網羅的に同定するという,de novo タンパク質のユニークな利用方法が紹介されており,新たなタンパク質研究の兆しを感じさせられる.第1章-13 では,タンパク質構造情報を分子動力学シミュレーションや位相的データ解析法と組合わせることで,アミノ酸変異がタンパク質構造・動態に与える影響を評価する手法が紹介されている.本稿では実構造ベースにモデリングされた点変異体構造を用いての実例が記されているが,言うまでもなく本手法は高精度な予測構造と組合わせることで真価を発揮するものであり,ポストAlphaFold2 時代に入った今後の世界において,より一層活躍する手法と言えるであろう.

第2 章では,タンパク質構造情報の活用法の1 つとして,分子エンジニアリングに焦点をあてていく.第2 章-1 ~ 4 では,ゲノム編集技術とかかわりの深いCas タンパク質やリコンビナーゼ,光遺伝学技術に利用されるチャネルロドプシン,環境プラスチック分解への応用が期待されているPETase を対象に,構造情報がどのように分子メカニズムの理解や分子改変に生きてくるのか,その応用例を紹介する.また,第2 章-5,6 ではde novo タンパク質に焦点を移し,複雑なde novo タンパク質の設計法やその技術を活かした機能的de novo タンパク質の開発例を見ていく.特に第2 章-5 ではAlphaFold2 以前のタンパク質デザイン,第2 章-6 ではAlphaFold2以降のタンパク質デザインを中心に研究の歴史や実例が紹介されており,両者を合わせて読むことで,同分野に対する理解が一層深まると期待される.

第3 章では,タンパク質構造情報のもう1 つの活用法として,創薬に焦点をあてる.具体的には,章の前半(第3 章-1 ~ 3)では企業による構造情報の活用例を,後半(第3 章-4,5)ではアカデミアによる活用例を概観していく.その手法についても,構造認識タンパク質言語モデルを利用した化合物―タンパク質相互作用予測や,大規模な化合物ドッキング計算,生成AI を用いた化合物のde novo デザインなど多岐に渡っており,幅広いトピックを俯瞰することができる.

第4 章では,主に第1 ~ 3 章では焦点を当てきれなかった,新たな構造解析技術に手を伸ばしていく.第4 章-1 では超解像顕微鏡,第4 章-2 では高速原子間力顕微鏡(高速AFM),第4 章-3 ではX 線自由電子レーザー(XFEL)を用いた時分割シリアルフェムト秒結晶構造解析(TR-SFX),第4 章-4 ではNMR の原理を学ぶとともに,同手法を用いたタンパク質動的構造解析研究の実例について見ていく.さらに,第4 章-5 ではより専門的な内容として,構造解析におけるデータ解析プログラムの中身やその発展について深く掘り下げていく.

おわりに

筆者が膜タンパク質の構造解析分野に飛び込んだ2009年は,ちょうど脂質キュービック相法とよばれる特殊な結晶化法を用いてG タンパク質共役型受容体(GPCR)の構造解析がなされるようになった直後の2),いわば膜タンパク質X 線結晶構造解析の全盛期であった.しかし,その後2013年にSPA によるTRP チャネルの構造解析がなされると3),しだいに膜タンパク質構造解析の中心はX 線結晶構造解析からSPA へと移行していった.当初は対称性が高く,分子量の比較的大きな膜タンパク質を対象としていたSPA であったが,ABC トランスポーター4),GPCR-G タンパク質複合体5)とそのターゲットは徐々に拡張され,近年では分子量50 k 程度の膜タンパク質についてもSPA による構造決定例が報告されている6).また,X 線結晶構造解析時代と比較して,複数状態の構造決定が容易になったという点も特筆すべき違いの1 つであろう.無論,X 線結晶構造解析も決して使われなくなったわけではなく,創薬現場で多数の化合物との複合体構造を迅速に決定したい場合(本書の第3 章),1 Å を切るような超高分解能で構造決定を行いたい場合7),あるいは刺激直後の反応中間体構造を決定したい場合(本書の第4章-3)などには,今でも大いに活躍している.

そして2021年のAlphaFold2 の開発をきっかけにタンパク質構造予測の時代を迎え8),構造生命科学は再び大きく変容しようとしている.実験的な構造決定は,より難易度の高い「複合体」「ダイナミクス」「in situ」をキーワードにさらに高度なものへと進化し,構造予測技術や大規模データ測定・解析技術と有機的に結びつくことで,これまでには到底成し得なかった高いレベルの研究が散見されるようになった9)10).1 つのタンパク質構造を解くだけで精一杯だった時代は終わりを告げ,構造を解く前,あるいは解いてからが本番,というエキサイティングな時代がわれわれの眼前には広がっているのである.

クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)や構造予測技術は天然タンパク質の研究にだけ用いられているわけではない.タンパク質のde novo デザイン研究もまた,cryo-EM や構造予測技術の進歩によって大きく影響を受けた分野の一つであろう.複雑なトポロジー,アーキテクチャを有するだけでなく,さまざまな分子機能を有したタンパク質や,de novo デザインしたタンパク質バインダー,タンパク質リガンドが次々と生まれるようになってきたのはここ2,3年のことであり,その技術は日進月歩の勢いで進化し続けている11)~ 13).本書は2025年現在における最新のトピックを集めたものとなっているが,おそらく10年後には全く違った技術が生まれ,全く新しいサイエンスが行われているだろう.このわくわくする時代の変わり目に立ち会えたことを感謝しつつ,私自身もその一員として先端を拓くサイエンスを続けていきたいと考えている.本書を手にとっていただいた読者の方々に,そうした高揚感と期待の一部が伝われば,編者としてこれ以上の喜びはない.


文献

1) Pellam JR & Harker D:Science, 138:667-669, doi:10.1126/science.138.3541.667(1962)

2) Rosenbaum DM, et al:Science, 318:1266-1273, doi:10.1126/science.1150609(2007)

3) Liao M, et al:Nature, 504:107-112, doi:10.1038/nature12822(2013)

4) Oldham ML, et al:Nature, 529:537-540, doi:10.1038/nature16506(2016)

5) Liang YL, et al:Nature, 546:118-123, doi:10.1038/nature22327(2017)

6) Gulati A, et al:Nature:, doi:10.1038/s41586-025-09069-w(2025)

7) Hirano Y, et al:Nature, 534:281-284, doi:10.1038/nature18001(2016)

8) Jumper J, et al:Nature, 596:583-589, doi:10.1038/s41586-021-03819-2(2021)

9) Mosalaganti S, et al:Science, 376:eabm9506, doi:10.1126/science.abm9506(2022)

10) Gonzalez-Lozano MA, et al:Nature, 643:252-261, doi:10.1038/s41586-025-09059-y(2025)

11) Vázquez Torres S, et al:Nature, 639:225-231, doi:10.1038/s41586-024-08393-x(2025)

12) Zhu J, et al:Nature, 640:249-257, doi:10.1038/s41586-025-08598-8(2025)

13) Glögl M, et al:Science, 386:1154-1161, doi:10.1126/science.adp1779(2024)


加藤英明
〈編者プロフィール〉 加藤英明:東京大学先端科学技術研究センター教授.2014 年東京大学大学院理学系研究科(濡木 理教授)にて学位取得(理学博士).Stanford 大学大学院医学系研究科(Brian Kobilka 教授),におけるポスドク勤務を経て,’19 年より東京大学大学院総合文化研究科准教授.’24 年より東京大学先端科学技術研究センター教授.現在に至る.現在の研究テーマは生体における多様な物理化学刺激受容システムのメカニズム解明と利活用.趣味:美術館巡り・釣り・美味しいご飯とお酒(ただし最近は多忙により前者2 つは全くできていない).

目次

第1章 タンパク質構造を視る・知る

Ⅰ.実験構造決定

1. 遺伝子発現制御におけるクロマチン構造のダイナミクス【越後谷健太,鯨井智也,胡桃坂仁志】

2. RNAポリメラーゼⅡ複合体による転写のメカニズム:高次複合体化により発揮される多彩な機能【江原晴彦,永沼政広,柳沢達男,関根俊一】

3. クライオ電子顕微鏡による回転型ATPaseの構造機能解析【横山 謙】

4. 感染受容体NTCPを介したB型肝炎ウイルス接着機構【大戸梅治】

5. クライオ電子線トモグラフィー解析へのAlphaFoldの応用【吉川雅英】

6. 核膜孔複合体のcryo-ET解析:現状と展望【谷口怜哉】

7. 海洋性珪藻類の光合成を可能にする新規タンパク質の発見とそのメカニズム:未知の葉緑体構造ピレノイドから観た海洋での生存戦略【松井啓晃,嶋川銀河,川本晃大,栗栖源嗣,松田祐介】

Ⅱ.in silico解析

8. AlphaFoldを活用したタンパク質複合体構造予測【木原大亮】

9. AlphaFoldを活用した構造ダイナミクス解析:マグネシウム輸送体を例に【馬 潔,服部素之】

10. AlphaFoldによる複合体同定と受精機構の解明【LU YONGGANG,藤内慎梧,宮田治彦,伊川正人】

11. AlphaFold Multimerを用いたユビキチン様タンパク質の複合体構造予測と機能の解明【野田展生,小松雅明】

12. cDNA display proteolysis法によるタンパク質構造安定性のメガスケール解析【石井 衛,坪山幸太郎】

13. アミノ酸変異に起因するタンパク質構造変化の解析法:MD・TDA・ベイズの融合【林 周斗,島村徹平】

第2章 タンパク質を創る(分子エンジニアリング)

Ⅰ.自然界のタンパク質改変

1. 網羅的変異体解析と構造解析を組合わせたCasタンパク質の機能改変【大村紗登士,濡木 理】

2. ブリッジリコンビナーゼの発見から応用まで【辻本栄介,平泉将浩,西増弘志】

3. チャネルロドプシンが有するK+選択性の構造基盤【加藤英明】

4. 構造解析と1分子観察を活用したプラスチック分解酵素PETaseの改良【飯野亮太,中村彰彦】

Ⅱ.自然界に存在しないタンパク質のデザイン

5. 物理化学と経験的ルールに基づくde novoデザイン【古賀信康,巽 理恵】

6. 深層学習でゼロからつくる機能性タンパク質【本田信吾】

第3章 タンパク質に結合する分子を創る(創薬)

1. 深層学習によるCPI予測の現状と展望【武本瑞貴,富田篤弘,石谷隆一郎】

2. 創薬を加速する立体構造解析:中外製薬におけるクライオ電子顕微鏡の実装とその先【鳥澤拓也】

3. 構造ベース農薬開発の新展開【田中良樹,佐藤匡史】

4. AIが描く胃薬の未来図:cryo-EMとDeep Quartetが拓く新たな阻害剤のデザイン【阿部一啓,横島 聡,吉森篤史】

5. 構造から読み解くグレリン受容体のリガンド応答の多様性【椎村祐樹,児島将康】

第4章 可能性を広げる構造解析技術

1. 超解像顕微鏡は細胞分子動画の夢を見るか【岡田康志】

2. 高速AFMを利用したタンパク質1分子のナノ動態観察【柴田幹大】

3. X線自由電子レーザーによる分子動画解析:微生物型ロドプシンの動的構造とその知見【藤原孝彰,南後恵理子】

4. NMRを用いた動的構造解析の最先端【竹内 恒】

5. 構造精密化の基礎:クライオ電子顕微鏡による単粒子解析を中心に【山下恵太郎】


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書籍情報

  • ISBN:9784758104296
  • ページ数:214頁
  • 書籍発行日:2025年9月
  • 電子版発売日:2025年9月4日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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