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- 運動器疾患の歩行分析と治療戦略
商品情報
内容
苦手意識をもちやすい歩行のバイオメカニクスを豊富なイラストでわかりやすく解説.運動器疾患の異常歩行について,歩容分析から臨床推論,治療戦略まで体系的に学べる一冊.歩行をより定量的に評価する手法も紹介!
序文
監修の序
人は二脚で,立位保持,移動に関するさまざまな活動を行う.なかでも歩行は,身体をある場所から他の場所まで移動するための基本的な手段である.健常者の歩行は,四肢の協調的な運動によって効率的に遂行され,特別な努力を要することなく自然に行われる.しかし,歩行に必要な身体構造に損傷が生じたり,機能不全が存在したりすると,歩行を制御する生理的システムは関節の可動性や筋活動を変化させ,身体の予備能力に応じて代償的な歩行を試みる.その結果,正常な歩行とは異なるものの,正常と異常が混在した,個々に特有の歩容が現れる.こうした代償歩行では,四肢の協調性が損なわれ,効率が低下し,歩行に多くの努力を要するようになる.
歩行パフォーマンス(walking)の測定には,理学療法士としての基本的評価スキルが求められる.臨床において歩行不能や歩行パフォーマンスの低下が明らかになったとしても,それだけでは対象者の問題解決には直結しない.臨床で最も困難なのは,歩容(gait)を生成する生理的システムと,それを構成する身体構造の機能不全が存在することを証明し,それに対して仮説を立て,検証を重ねながら「機能不全集合体」を構造化し,対象者の問題解決へと導くことである.この臨床的問題解決のプロセスは,以下のような段階を経て進行する:
1. 歩容分析
2. 歩容異常に関与する構造的・生理的機能不全の判断
3. 理学療法治療計画の立案
4. 治療の実施
5. 効果の検証
この一連の過程には,質の高い臨床経験と,臨床現場で培われる「臨床感性」がきわめて重要な役割を果たす.多くの運動器に問題を抱える対象者にかかわる理学療法士は,歩容分析の重要性を深く認識しており,高い関心を寄せている.歩行速度,ケイデンス,空間的・時間的パラメーターなどの測定は,歩行パフォーマンスを評価するための理学療法技術として方法論が確立されており,これらの指標は活動制限や疾患・外傷の予測にも活用されている.しかしながら,歩容分析に関しては,理論や方法が明確に体系化されているとは言いがたく,現状では多くが個人の経験則に基づいた暗黙の了解のもとに実施されている.
理学療法において,質の高い臨床経験と臨床のなかで培われる臨床感性は,しばしば「センス」とよばれる.歩容分析から理学療法介入の決定,そしてその実施に至るまでの一連のプロセスは,単なる技術(スキル)だけでは成り立たず,「センス」がきわめて重要な意味を持つ.そのため,学生や新人療法士にとっては,歩容分析や介入の判断において戸惑いや悩みを抱え,時には挫折を経験することも少なくない.理学療法が,質の高い臨床経験と臨床感性に基づく臨床推論を基盤として成立する以上,臨床実践のすべてを理論に落とし込み,体系的に整備するには,まだ時間を要するのが現状である.理論と実践の間には,経験に裏打ちされた感性が橋渡しの役割を果たしており,それこそが臨床理学療法の奥深さであり,臨床力の本質でもある.
本書の第1 章では,歩行能力測定方法と歩容分析のための基礎理論,そして最新のバイオメカニクスに関する知見について解説した.歩行に関する評価の枠組みを理解するための土台となる章である.第2 章では,各執筆者が自身の臨床経験に基づき,理学療法における「スキル」と「センス」を織り交ぜながら,実践的な視点で歩容分析を展開した.読者の皆様には,執筆者の質の高い臨床経験と臨床感性を感じとりながら,自身の臨床センスの向上に役立てていただきたい.第3 章では,歩容分析における客観性と定量性の可能性について考察した.理学療法士としての臨床スキルの一部として,歩容分析をどのように活用できるかを探る内容となっており,読者の臨床的判断力の強化に貢献することをめざした.
本書の内容は,歩容分析から治療戦略の立案,そして治療の実施に至るまでのプロセスを,理論体系へと結びつけようとする試みの集積である.中堅理学療法士たちが,それぞれの臨床現場で模索し,葛藤しながらも真に向き合ってきた歩みが,本書の随所に垣間みられる.本書の編集に携わった阿南雅也氏,城内若菜氏をはじめ,執筆者の皆様,そして原稿のとりまとめから出版に至るまで尽力された羊土社の皆様に,心より感謝申し上げます.また,本書の完成を支えてくださったすべての方々に,深く御礼申し上げます.
2025年10月
広島国際大学総合リハビリテーション学部
木藤伸宏
編集の序
本書は,理学療法士を志す学生や臨床で日々歩行を評価する若手の理学療法士を対象に,歩行のバイオメカニクスを基盤とした理解と臨床応用の視点を整理することを目的として企画された.
歩行は最も基本的な動作であると同時に,きわめて複雑な動きであり,関節や筋の協調,さらには身体重心移動や外力との相互作用といった多層的な要素が関与する.臨床において歩行を的確に評価し,治療へと結びつけるためには,その背後にある力学的原理を理解することが不可欠である.しかしながら,バイオメカニクスの専門的知識は数式や力学用語に偏りやすく,臨床現場の理学療法士にとって必ずしも理解しやすい形で提示されているとは限らない.そこで本書では,できる限り平易な表現と図表を用い,読者が実際の臨床場面をイメージしながら理解を深められるよう工夫した.
本書の監修をお願いした木藤伸宏先生は,私が川嶌整形外科病院に勤務していたときの上司であり,長年にわたり運動器疾患のバイオメカニクス研究をともに進めてきた師である.また,ともに編集を担当する城内若菜先生は,同院でともに過ごした同期であり,臨床と研究の双方において互いに刺激を受けながら今日に至っている.さらに執筆陣には,臨床・研究の両面で長く交流を続けてきた先生方にご参加いただいた.それぞれが培ってきた専門性と経験をもち寄ることで,本書は多角的かつ実践的な視点から歩行を捉える内容となっている.
本書が,臨床現場で歩行分析に取り組む理学療法士にとって,動作の背後にあるメカニズムを理解し,より適切な評価と介入につなげる一助となれば幸いである.また,学生にとっても,教科書的な知識の暗記にとどまらず,歩行を「科学的に観察する眼」を養う契機となることを願っている.本書を手にとられた読者が,歩行という人間の基本動作の奥深さに改めて触れ,臨床実践に活かしていただければ望外の喜びである.
2025年10月
大分大学福祉健康科学部理学療法コース
阿南雅也
歩行分析は,患者に適した理学療法計画を立案するために重要な評価の1 つである.しかし,その評価は決まった手順がなく,患者の症状も歩行パターンも一人ひとり異なり,歩行には多くの要素が複雑に影響しあっている.そのため,評価する側の見解は多様であり,臨床現場では“よくわからない”,“苦手”という声も多く聞かれている.私
自身,養成校を卒業してすぐは知識も経験も不足しており,患者の歩行を真似することでどこに負担が加わるのかを自分の身体で感じながら異常歩行の要因を推測することもあった.これでは患者の歩行特徴を言語化して説明することが難しい.そこで,必要だった知識が本書の第1 章でも書かれている歩容分析のための基礎的な理論とバイオメカニクスである.患者の歩行を動画撮影し,身体重心の位置や関節モーメントを推定して分析することでより客観的な見解を示すことができる.さらに,共通言語を用いて他の理学療法士と経験を共有し議論することが,自分自身の歩行分析能力を向上させる機会になったと強く実感している.本書の第2 章ではそのような筆者の臨床経験をふまえ歩行分析に必要な基礎的な理論やバイオメカニクスの知識を用いた思考が示されている.臨床現場で歩行を観察して“何かおかしいな”と思う動きに意味をもたせるヒントになることを願う.臨床において明らかに歩行パターンは改善し,患者満足度も向上した経験をもつ理学療法士は多い反面,その改善度を定量化し結果として示す方法に迷う場面も多いと感じる.第3 章では歩行に対する治療効果を示す方法についての可能性が示されている.臨床での成功経験を何かしら効果として示せるきっかけになることを期待する.
理学療法士として多くの学びに導いてくださった木藤伸宏先生に本書の監修を引き受けていただき,臨床と研究のそれぞれの視点で理学療法について議論を重ねてきた阿南雅也氏とともに本書の編集ができたことはとてもありがたい機会となった.執筆陣も普段から理学療法に真意に向き合われている方々であり,本書の完成に力をお借りできたことに深く感謝している.そして読者がより理解しやすいようにと多くの提案を重ねてくださった横内氏をはじめ羊土社の皆様にもこの場を借りて感謝を述べたい.
2025年10月
成尾整形外科病院リハビリテーション科
城内若菜
目次
第1章 正常歩行のバイオメカニクスと評価のチェックポイント 【阿南雅也】
1 臨床における歩行分析の重要性と基本
2 歩行を理解するためのバイオメカニクスの基礎
3 歩行のバイオメカニクス
4 歩行評価と臨床推論 観察からバイオメカニクス的に読み解く
第2章 異常歩行別の解釈と臨床推論
[A] 腰部
1 脊柱管狭窄症(保存)《movie》 【多々良大輔】
2 脊柱管狭窄症(術後)《movie》 【城内若菜】
[B] 股関節
1 変形性股関節症(保存)《movie》 【岩本義隆】
2 変形性股関節症(術後)《movie》 【川端悠士】
[C] 膝関節
1 変形性膝関節症(保存)《movie》 【八木優英】
2 変形性膝関節症(術後)《movie》 【德田一貫】
[D] 足関節
1 足部変形(扁平足などを含む) 【秋吉直樹】
第3章 客観的指標を得るためのツール紹介《movie》 【山科俊輔】
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書籍情報
- ISBN:9784758110099
- ページ数:198頁
- 書籍発行日:2025年11月
- 電子版発売日:2025年11月20日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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