スポーツ運動医学

序文

「スポーツの力」，「アスリートの力」を感じたことがある方は，たくさんいらっしゃるのではないかと思います．スポーツやアスリートのもつそのような力を最大限に発揮するためのサポートをしたい，恩返しをしたいと思ったのが，スポーツ医学を生業にしようと思ったきっかけだったかもしれません．しかしスポーツ・運動は特別なものではなく，すべての人の日常に存在しています．それは時に病気を治療あるいは予防し，さらには人と人，社会，異なる国々をも繋げてくれるかけがえのないものだと思います．人体や社会は様々な仕組みが絶妙にバランスを取りながら存在していますが，それらをスポーツ・運動の側面からサポートするにも，総合的・多角的な観点が必要となります．

このように多領域・多職種にまたがる学問である「スポーツ運動医学」ですが，医学生における「医学教育モデル・コア・カリキュラム（令和4年度改訂版）」にスポーツ医学が導入され，多くの大学で授業の展開が期待されているものの，本邦においては，体系的な授業は，いまだ確立されておりません．様々な学部でスポーツ医学に携わりたいという学生の声を耳にする一方で，どのように勉強すればよいか？　という質問も同時にいただくことが多かったため，初学者がまず学ぶべき入門書として，我々はここに『スポーツ運動医学sports and exercise medicine』を刊行する運びといたしました．

本書は，導入的な教科書の位置づけとして「スポーツ運動医学を学びたいすべての学生」を対象としていますが，すでに臨床の現場で活躍されている方や，指導者・アスリート・運動愛好家などすべての方々にとっても様々な領域の正しい知識に触れる機会となるような内容・構成となっております．例えば，本来大切と知りながらも敬遠されがちな基礎医学の知識も，冒頭だけでなく，各項にちりばめながら理解を促しています．このため最初から通読するだけでなく，今まさに自身の身近に起きている諸問題に関する項から都度開いていただくのも，本書の良い利用の仕方と思います．また，教育担当の先生におかれましても，多岐にわたるスポーツ運動医学という学問のもつ奥深さに改めてふれていただくとともに，授業の参考の一助になれば幸いです．

本書が，皆さんがスポーツ運動医学を学び，将来スポーツ・運動のもつ力をすべての方々に還元し様々な問題を解決する，最初のきっかけとなることを心より願っております．

最後になりましたが，我々の思いに共感し執筆してくださった多職種からなる執筆者の方々に心より御礼申し上げるとともに，そのたくさんの思いをこのような形で表現する機会をくださり，構想から約2年サポートしてくださった文光堂の中村晴彦様と金子まどか様に深謝申し上げます．

2025年11月吉日

順天堂大学スポーツ医学
髙澤祐治　小松孝行