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- 実験医学別冊 最強のステップUPシリーズ 知識ゼロから始める AIによる動物行動解析
商品情報
内容
「行動解析にAIを導入したいけど敷居が高い…」と悩んでいませんか? 本書では,行動実験や解析ツールの基本知識や,主要なツールの使い方,実際のプロトコールまで丁寧に解説し,さらに高精度な手法も紹介.マウス・ラットをはじめ,サルや魚,ハエなど多様な動物種を網羅し,共通点・相違点から学びを深められます.定量性・客観性のあるデータを得るための実践的な道標となる一冊です.プログラムコードのダウンロード特典付き.
序文
序
動物と“会話”する科学を目指して:AI行動解析の可能性と責任
地球上には,昆虫,魚類,両生類,爬虫類,鳥類,哺乳類など,さまざまな動物が存在し,我々人は,これらの動物に興味を持ち,時に利用して生きています.特に私たちの生活に身近な動物として,実験動物,展示動物,家庭動物,産業動物などが挙げられます.その利用の目的や程度に違いはあっても,これらの動物に共通するのは「人がその命を管理している」という事実です.こうした人と動物との関係は,人間の文化や歴史,科学の発展と深く交わってきました.
筆者自身も,子どもの頃に父から虫とり,釣り,さまざまな動物の飼育と観察などを学び,経験させてもらいました.人が住む地球上には,多様な生き物が相互に影響を及ぼしあいながら,それぞれ独自の進化を遂げて存在し,そのうえで我々が生かされていることを理解するために必須の経験だったと思います.これらの経験をきっかけに,私は大学進学後に獣医学を専攻し,実験動物を用いた基礎研究者の道を歩むこととなりました.しかし,研究経験を積むにしたがい,わくわくした感情をもって生き物と接していたころの自分とは違い,生理反応の解明や人の病の原因を探る「データの源」としてしか動物を見ていない自分に気づきました.幼い頃に感じていた「動物が好きだ」という感情を,科学の名のもとに失っていた感覚すら覚えました.また,研究室を主宰する身になると,毎年入れ替わる学生が安定した結果,統計学的に優位な差を得るために,何度も何匹もの動物を使いながら新しい知見を見いだそうとする動物実験に,大きなストレスと課題感を感じるようにもなりました.
科学とは,「知らないことを知ろうとする」人間の営みです.とりわけ言葉をもたない動物を対象とする場合,その行動を丁寧に観察し,そこに込められた意図や感情,背景を読み解こうとする努力が欠かせません.動物の“声なき声”に耳を傾けること──それは科学者としてだけでなく,人としての想像力と共感力を育てる行為でもあることを,我々は認識しておかねばなりません.
主観から客観へ:行動解析の技術革新
近年,AI(人工知能)やディープラーニングを用いた画像解析技術の急速な進歩により,動物行動解析は大きな転換点を迎えています.特に,DeepLabCut(DLC)に代表されるオープンソースソフトウェアは,動画中の動物の身体各部位をトラッキングし,動きや姿勢の変化を定量化することを可能にしています.これまで主観的に評価されてきた動物の行動を,“数値化”できる時代が来たわけです.
我々の研究室でも,2017年から動画を解析することで,マウスやラットの自発運動や,引っ掻き行動やグルーミングといった行動,社会的相互作用などを,1日24時間,数日にわたって解析できるシステムの開発を進めてきました.多くの哺乳類は「痛ければ顔をしかめてうずくまる」わけです.行動薬理学,神経科学,精神疾患モデルの研究のみならず,幅広い基礎研究科学において,信頼性と精度,情報量を各段に向上させるツールとして,AI画像解析は不可欠な存在となりつつあります.また,AI画像解析の特筆すべき点は,既存の仮説に依存せず,探索的に新たな行動パターンを発見する「データ駆動型研究」の基盤を提供することでもあります.未知の兆候や行動の“異常性”を抽出し,従来気づかなかった動物の生理・病態の手がかりを得ることも可能となってきました.
同時に,加速度センサー,圧力センサー,赤外線センサーといった各種センサーデバイスの感度向上や小型化の進歩も,行動解析の深化に大きく寄与しています.これらのセンサーを用いることで,動物の体動,震え,運動量,体重の移動,心拍や体温など,生体状態に関わるデータを非侵襲的かつ高頻度に取得することも可能です.
観察から対話へ:研究者に求められる姿勢
以上のように,行動解析技術の進化は目覚ましいものがあります.しかし,それは同時に,研究者に新たな責任をも課しています.機器やアルゴリズムが発展しても,最終的に「行動の意味」を読み解くのは人間の知性と想像力です.AIは困ったときに泣きつけば,求めたものを出してくれる“ドラえもん”ではありません.使用する者の理解・工夫・正しい倫理がなければ,その力は発揮されないどころか,誤った結論や非倫理的な利用にもつながりかねません.
また,行動解析が“客観的な数字”ばかりを追う作業になったとき,私たちは再び動物から目を背けてしまうかもしれません.技術はあくまで補助です.大切なのは,動物を研究の「材料」としてではなく,対話すべき対象,地球上に共に住む仲間として尊重し,その存在に責任をもって向き合うことです.私たちは今,動物の表現を多くの数値として捉えることができるかつてない道具を手に入れつつあります.そしてそれは,「動物と会話する」ための新しい言語にもなり得ます.
本書では,そうした“見る力”と“対話する力”を育てるために,行動解析の基本からAI・センサー技術の活用法,実践的な導入方法,再現性の高いデータを取得するコツ,そして発展的な手法に至るまでを体系的に紹介します.本書で紹介する技術が,研究者のスキルを深め,ライフサイエンス研究の推進に貢献するのみならず,皆さんの動物へのまなざしを育む一助となれば幸いです.
2025年11月
村田幸久
目次
序【村田幸久】
基礎編
基本知識
1 実験動物を用いた撮影に必要な法令・指針の基礎知識 〜動物行動動画解析を行う前に知っておくべきこと【村田幸久,坂本直観,宮﨑優介,小林幸司】
2 人工知能の基礎知識 〜人工知能,機械学習,ニューラルネットワーク【小林幸司】
3 公開されている動物行動解析用ソフトウェアを知る【坂本直観,掛野仁志,村田幸久】
4 既存動物行動解析手法の系譜とその限界,そしてAIへの期待【宮川和也,黒川和宏,髙橋浩平,持田(齋藤)淳美,武田弘志,辻 稔】
主要ソフトウェアの使い方
5 DeepLabCutの使い方【杉永友美,渡辺英治】
6 はじめてのMATLABコーディング:YOLOを動かす【松尾隆嗣,大西啓太】
7 OpenCVを使った画像処理【小林幸司,坂本直観,宮﨑優介,村田幸久】
実践編
齧歯類の行動解析
1 DeepLabCutを用いたラットの歩行分析【出澤真乃介,高島一郎】
2 DeepLabCutとSimple Behavioral Analysisを用いたマウスの社会性評価【大橋信彦,田渕克彦】
3 ラットの発声と行動のオープンソース環境による統合解析【岡ノ谷一夫,鎌谷美希,博多屋汐美,齋藤優実,外谷弦太】
霊長類の行動解析
4 FulMAIを用いたマーモセットの行動解析【圦本晃海,佐々木えりか】
5 マーモセットの頭部固定下での行動と神経活動の同時計測システム構築【蝦名鉄平】
6 AIによるサル複数個体の姿勢推定【松本惇平,兼子峰明,井上謙一】
魚類や虫の行動解析
7 YOLOを使った水槽内の魚類の検出—トラフグを例に【八杉公基】
8 AI技術を活用した昆虫の行動解析・介入ツール【山ノ内勇斗,田中良弥,上川内あづさ】
9 姿勢推定アルゴリズムによる線虫の行動解析【豊島 有】
番外編
1 マウスホームケージモニタリング 〜長期・自動的なデータ取得とその運用【古瀬民生】
発展編
プログラミングによる高精度な行動解析
1 動画解析を用いた実験動物の自発運動の評価法【宮﨑優介,小林幸司,村田幸久】
2 深層学習を利用したマウスのひっかき行動,グルーミング行動の解析【坂本直観,小林幸司,村田幸久】
3 深層学習を用いた複数匹のマウスを追跡する技術【坂本直観,村田幸久】
4 深層学習モデルを用いた高精度なマウスの行動分類【竹村 裕】
5 機械学習と情報理論によるゼブラフィッシュの行動解析【河野 輝,政井一郎,Greg J. Stephens】
6 ゼブラフィッシュ実験のAI品質管理システム【田中利男】
汎用化された解析システム・委託解析
7 マウスのAI行動解析システムSHIGUSAを用いた解析【村田幸久,小林 唯,福田将大,大崎真里亜,余田修助,木田美聖,大森啓介】
8 共同研究・外注解析のコツ 〜創薬のDXに向けた正しい解析のために【村田幸久】
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書籍情報
- ISBN:9784758122870
- ページ数:231頁
- 書籍発行日:2025年12月
- 電子版発売日:2025年12月26日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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