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- 老年医学ケースディスカッション 総合診療編
商品情報
内容
序文
まえがき
2023年12月,ある日本の病院での5日間のベッドサイド回診が,この本の全ての始まりでした.臨床教育に力を入れているその病院で,僕は研修医や若手の先生方と連日,患者さんのベッドサイドを回り,ケースディスカッションを重ねました.実はこの時,少し不安な気持ちを抱えていたのです.
僕は米国の大学関連病院で老年医学の臨床と教育に携わり,老年医学の原則「5つのM」を使った診療やケアを日々行っていました.でも2020年からのコロナの影響で日本への渡航機会が数年途絶え,日本のベッドサイドにおける教育や回診の感覚が,正直,少し薄れてきていた頃でした.
同時に,その期間は深く考える時間でもありました.5つのMを実際にどう使いこなせば,複雑で不安定な高齢者の診療やケアを安定させられるのだろう.よりよい医療とケアが患者さんとご家族に届くのだろう.そして,それを実践し学ぶ全ての医療者が,共に支え合いながら成長していける環境をどのようにしたら作れるのだろう─そんなことを構想し試行錯誤する期間をくれたのです.
その実践のチャンスが2023年の末についにやってきたのです.不安と期待が入り混じる気持ちを胸に,数年ぶりに日本の臨床教育のベッドサイドに戻ってきたのです.実際,回診では
「本当にこれで,患者さんは良くなっていくのだろうか…」
そんな不安でいっぱいでした.でも,ベッドサイドでは初日から驚くようなことが起きました.難渋していた症例に新しいケアプランが生まれ,患者さんが笑顔で「ありがとう」と言ってくれました.医療者の前で心に秘めていた葛藤と苦痛をさらけ出し,涙を流す患者さんもいました.そして何より,研修医の先生たちの表情がパッと明るくなり,目に輝きが戻っていく(…あっ! そうか!)─そんな瞬間に何度も立ち会えたのです.
その後,ある講演会で参加者の方からいただいた言葉が心に残っています.
「先生の回診や講演を聞いて,心からワクワクしてきました.このような感覚は何年振りか…」
このベッドサイドでの出来事と,参加者の一言が,この本を作る大きな原動力になりました.ボストンへ戻る飛行機の中で,ひたすらベッドサイドで起こった会話や出来事を,思い出せるだけモレスキンのノートに書きなぐりました.それらのエッセンスをまとめたものを丸善出版の編集部の方に共有したところから,この企画は動き始めました.
高齢者診療は複雑です.終わらない慢性疾患リストと入院歴,残薬の山,認知症で病歴をうまく伝えられない患者さん,難聴や視力障害.疾患を治療しても,どんどん弱っていきます.家族は遠くに住み,安全に帰れる環境もない患者もいます.そんな中で「やっぱり高齢者だから…」という一種の諦めに似た言葉が漂い,僕たち医療者はどこから手をつければいいのか見失ってしまいます.
でも,その複雑さをほどいていく道具は,すでに僕たちの手の中にあるのです.それが老年医学の原則「5つのM」です.Mind(認知と心),Mobility(身体機能と日常生活動作),Medication(くすり),Matters Most(その人にとって大切なこと),Multi-complexity(ケアの複雑性と落としどころ)─この5つの視点で患者さんを俯瞰すると,カオスのような状況が少しずつ整理されていきます.
絡まった毛糸がするすると解けていくような感覚です.
2025年晩夏の教育回診でも,医学的にも社会的にも複雑な患者さんに出会いました.カルテには「せん妄」「認知機能低下」「食欲不振」「やる気がない」「歩行困難」といった言葉が並んでいました.でも,5つのMに沿ってチームで話し合うと,「そういえば…」「あれ?」という声があちこちから上がり始めました.「この薬,本当に現状を改善している?」「視力や聴力の低下が影響しているのでは?」「口腔の状態が嚥下を阻んでいないか?」─そうやって一つ一つ問いを立てていくと,見えなかったつながりが見えてきて,多職種からアイデアが次々と湧き,研修医の先生の顔がどんどん明るくなっていったのです.
この本は,総合診療医であり医学教育の専門家でもある橋本先生と老年医学の専門医である僕がディスカッションしていく形で進みます.診断名を当てることがゴールではありません.「何が起きているのか」→「なぜ起きるのか」→「どこに介入できそうか」→「その人が望むこと・大切なことは何か」→「それに並走するには何からできるだろうか」という順に,現場で使える判断の骨組みを一緒に組み立てていきます.
5つのMは,複雑さに秩序を与え,目の前の患者の一人に近づくための共通言語です.あなたの担当している患者さんを,5つのMで俯瞰し,問い直してみてください.きっと,次に踏み出す一歩が見えてきます.
この本が,あなたの現場に小さな変化を起こすきっかけになりますように.混沌を少しだけ整え,患者さんの「大切なこと」に近づき,医療者としてのワクワク感を取り戻す─そんな旅をご一緒できれば嬉しいです.
2025年11月吉日
夕日に照らされる秋の雲海を眺めながら,ボストンへ向かう機上にて
著者 樋口 雅也
目次
第1部 老年医学:総 論
1 物 忘 れ
1.認知症は「物忘れ」ではない
2.認知症はいずれ死に至る病である
3.認知症のステージに合わせた非薬物的介入する
2 誤嚥性肺炎
1.誤嚥性肺炎は5つのMで考える
2.多職種による専門職連携で包括的介入を試みる
症例検討:考えてみよう 83歳女性,独居(娘が隣町に在住)
3 背 部 痛
1.問診・診察を同時に進めるハイブリッド式情報収集を行う
2.老年医学の5つのMで方針を決める(包括的アプローチ)
3.疼痛コントロールのポイントは痛みの評価にあることを認識する
症例検討:考えてみよう 85歳男性,要介護1(妻と二人暮らし)
第2部 老年医学:各 論
4 せ ん 妄
1.せん妄は高齢者に超コモン,なのに見逃しが多い
2.せん妄発症後の予後は悪いと認識しておく
3.せん妄は予防が重要である
5 転 倒
1.転倒の評価は聞くことから始まる
2.高齢者の転倒に「つまずいただけ」はない
3.転倒後のマネジメントと再発予防は多職種による専門職連携が重要
症例検討:考えてみよう 78歳女性,独居
6 薬がほしいです
1.ポリファーマシーの定義と高齢者への影響を知る
2.知識不足だけでなく,医師の善意からも起こる処方カスケードに気づく
3.服薬リストを患者中心にレビューする(VIONEを活用した減薬を検討)
7 老 衰
1.予後予測は5軸で考える
2.患者・家族の価値観を生活の面も含め多面的に捉える
3.患者中心の意思決定は3ステージ・プロトコルを活用する
4.ポジティブな面とネガティブな面を聞き出し,価値観の解像度を上げる
8 多疾患併存
1.マルモを知り,包括的な視野で患者ケアを考える
2.多疾患併存高齢者の治療方針は5つの要因で決定する
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書籍情報
- ISBN:9784621312308
- ページ数:148頁
- 書籍発行日:2026年1月
- 電子版発売日:2026年1月20日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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