引き算の医療 臨床現場のスチュワードシップ入門

  • ページ数 : 252頁
  • 書籍発行日 : 2026年2月
  • 電子版発売日 : 2026年2月6日
¥3,960(税込)
m3.com 電子書籍ポイント: 最大 72pt ( 2 %)
m3ポイント:1%相当
point-info
今すぐ立ち読み
今すぐ立ち読み

商品情報

内容

「スチュワードシップ」(医療資源を適正に使用することで、次世代に医療が持続可能な環境を残す組織的な営み)は抗菌薬だけの話ではありません。臨床判断全般に関わっています。現代医療は「足し算」の医療。問題があれば、検査や薬などを足し、治療を進めます。ただ、医師の働き方改革、抗菌薬適正使用、高齢化社会、医療費抑制などが注視され、特に社会保障制度の在り方は重要と考えられています。このような時代的要請のもと、医療現場では「何を足すか」だけでなく、「何を引くか(控えるか)」という判断も求められるようになりました。そこで、医療資源の考え方・向き合い方(=医療の引き算)について、海外での実践例や文献的考察を交えながら、医療現場におけるスチュワードシップを紹介します。医療の質を維持しながら、限られた資源(時間、人材、薬剤、検査、病床など)を適切に使うための考え方が面白いほどわかります!

序文

序文

筑波大学附属病院 病院総合内科の伊東完と申します。総合内科医の肩書ではあるのですが、心の中では感染症科医であり、これまで発信してきた情報も感染症診療にまつわる情報が大半です。詳しくは、CareNeTV で公開している『Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬』や『抗菌薬のセカンドチョイスとスチュワードシップ』(金芳堂)などを見ていただけると幸いです。これらのコンテンツは、抗菌薬を使おうとした時に、どのように抗菌薬を選ぶかを、とにかく覚えやすい形で発信することを意識して磨き上げてきたものです。

しかしながら、実際のところでは抗菌薬を使うかどうかの判断もとても大切です。使わなくてもよい抗菌薬が実臨床では多く使われていて、それが薬剤耐性菌の出現に影響していることは、読者の皆さんもご存じかと思います。薬剤耐性菌だけでなく、抗菌薬の副作用もしばしば問題になります。無駄な医療が問題になっているのは、抗菌薬だけにとどまりません。例えば、やらなくてもよい検査も頻繁に見かけますし、それが医療コストの増大などの問題を引き起こしていることも、読者の皆さんであれば容易に想像がつくかと思います。

特定の疾患を疑ったわけでもない中で検査をして偽陽性が出てしまうと、その偽陽性が本当に真の陽性でなく偽陽性なのかを確認するための追加検査をたくさんする羽目に陥ります。そして、これらの追加検査にはお金がかかってしまいます。このような無駄な検査を行って、余計な医療コストを発生させたところで、医師の給料がその分だけ“ 即座に” 差し引かれるということはまずないでしょう。しかし、追加検査をして結果を解釈する手間が、場合によっては他診療科の医師にコンサルトする手間まで生じてしまうので、時に残業することになります。みなし残業制度をとっている病院に勤務している場合は、時給換算での給与が減ってしまうかもしれません。

無駄な医療が医師の不利益につながるだけならまだマシかもしれないのですが、実際には偽陽性の説明を受けた患者さんの心理的苦痛も馬鹿になりません。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗体のスクリーニング検査を実施する時には、患者さんに説明の上で同意を得る必要があることは皆さんもご存じでしょう。その際の説明内容に「検査した100 人に1 人弱は偽陽性になる」、「検査陽性で必ずしもHIV 感染症と確定するわけではない」という内容を含めるのが一般的なのですが、その理由の一つとして、HIV 抗体のスクリーニング検査が偽陽性と出てしまった時に患者さんが衝撃を受けて、その後の説明が頭に入っていかなくなるという問題が挙げられます。場合によっては自殺する患者さんが出てもおかしくはありません。というのも、治療法の進歩した現代においても「HIV 感染症は不治の死に至る病」という認識を持っている患者さんがいまだにいるのですから。

このように、検査の偽陽性は患者さんの心理的苦痛につながることがあるので、侮ってはいけないのです。もちろん、患者さんにとって、繰り返し通院する負担や採血する時の肉体的苦痛も忘れてはいけません。こういった無駄な医療を削る方策の一つに、スチュワードシップが挙げられます。「管理責任」と訳されることもありますが、スチュワードシップが何なのかという細かい定義の話は第1 章の「2.そもそもスチュワードシップとは何なのか」に譲ります。かなり大雑把に言えば、「医療資源を適正に使用することで、次世代に医療が持続可能な環境を残す組織的な営み」と考えていただければと思います。持続可能と言えば、Sustainable Development Goals(SDGs)を想起される読者もいらっしゃるかもしれないですが、筆者としても考え方としては遠からずという印象を抱いています。

この書籍では、諸外国での実践例を引用しながら、医療現場におけるスチュワードシップを紹介していきます。スチュワードシップの考え方は感染症領域を中心に発展してきた経緯があるので、まずは感染症領域から話を進めていきます。感染症領域でのスチュワードシップの話をある程度した段階で、非感染症領域でも似たようなことが可能であるという話へと進んでいきます(最近になって気がついたのですが、循環器領域などでもスチュワードシップの考え方を適用しやすいのではと考えることが多いのです)。

本格的な話に入る前に、まずは、筆者がどうしてスチュワードシップという概念と出合ったかをお話しします。感染症以外の領域で医療をしていると、スチュワードシップは耳慣れないキーワードと考えます。実際に、筆者も感染症科医としてトレーニングを始めるまではこの概念をまったく知りませんでした。筆者がどのような体験をした結果、スチュワードシップの考え方に惹かれるようになったのかからスタートしたいと思います。


2026年1月

伊東完

目次

第1章 引き算の医療としてのスチュワードシップとは

1 私とスチュワードシップの出合い

進路に悩んだ学生―研修医時代

出会いに導かれて感染症科医に

無駄な医療の撲滅に目覚めて

2 そもそもスチュワードシップとは何か

いまや環境問題だけでなく金融業界にも及ぶ概念

医療におけるスチュワードシップの始まり

抗菌薬スチュワードシップとそうでないものの境界線

スチュワードシップとChoosing Wiselyの違いは

なぜスチュワードシップが組織的な介入なのか

3 スチュワードシップの御利益

なぜ「感染制御部」が「管理部門」なのか?

感染対策には診療報酬、病院にとっては「買い」

4 スチュワードシップの実際(前編)-抗菌薬適正使用チームの奮

ASTと主治医のすれ違い

抗菌薬の使用許可制

使用許可制の問題点

代替手段としての抗菌薬の使用届出制

使用許可制・届出制の裏で増える代替抗菌薬の使用

5 スチュワードシップの実際(後編)―行動経済学を生かした工夫

細菌検査室通いのすすめ

ASTにおける臨床検査技師の役割

人間の行動変容を促す間接的な方法

薬剤感受性報告の最適化

6 不適正な医療を測定することの難しさ — 広域抗菌薬を例に

広域抗菌薬か、狭域抗菌薬かクイズ

世界保健機関(WHO)によるAWaRe分類

AWaRe分類の問題点

AWaRe分類以外の基準

7 AIはスチュワードシップを担えるか

感染症科医の稀少性

感染症科医を人工知能(AI)で代替できるか

ChatGPTには何が足りないのか

AIを医療現場で使う上での問題点

第2章 引き算の医療の実践①:抗菌薬のスチュワードシップ

1 急性気道感染症

「風邪に抗菌薬は不要」を患者さんにどう納得してもらうか

普通感冒なのか、そうでないのか

「のど型」で絶対に見逃してはいけない疾患群

「はな型」代表の急性副鼻腔炎は抗菌薬が必要な症例も

「せき型」……超多忙な外来で肺炎を見分けるコツ

「頑固さから自由になること」こそ医師が学ぶ意義

2 急性下痢症

診断エラーが生じやすい急性胃腸炎

急性胃腸炎に抗菌薬を使う例外的状況

旅行者下痢症でも抗菌薬は必須でない

3 皮膚軟部組織感染症

意外に難しい蜂窩織炎の診断

蜂窩織炎の誤診パターン

炎症反応だけでは分からない

蜂窩織炎の誤診を減らす炎症以外の着眼点

4 尿路感染症

無症候性細菌尿の定義とその周辺

無症候性細菌尿はありふれている

無症候性細菌尿に抗菌薬を使う時―例外の熟知が大切

無症候性細菌尿に対する抗菌薬スチュワードシップ

5 嫌気性菌カバーの適正性

嫌気性菌カバーの今昔

なぜ余計な嫌気性菌のカバーがよくないのか

誤嚥性肺炎で嫌気性菌をカバーするべきか

腹腔内感染症で嫌気性菌をカバーするべきか

6 抗菌薬アレルギーの脱ラベル化

薬剤副作用がアレルギーなのか否かで対応が随分異なる

バンコマイシン輸注反応とアレルギーを区別せよ

真のペニシリンアレルギーは意外に少ない

ペニシリンアレルギーと誤認すると何が問題か

アレルギー誤認対策には詳細なカルテ記載が重要

7 抗菌薬アレルギーの脱感作

代替薬を考えてもどうにもならない状況

抗菌薬の選択肢が一つに収束する代表的状況―妊娠中の梅毒

ペニシリン脱感作療法とその仕組み

ST合剤に対する脱感作療法

結核治療薬に対する脱感作療法

8 周術期抗菌薬

周術期抗菌薬は「術後24時間まで」でも長い?

周術期抗菌薬の延長投与による実害

周術期抗菌薬の投与期間に例外はあるのか

手術未満の処置でも抗菌薬投与期間を短縮

9 歯科処置前の予防的抗菌薬

口の中の細菌数は糞便に匹敵

抗菌薬の予防的投与が必要な歯科処置

歯科処置時の感染性心内膜炎の基礎疾患別リスク

歯科処置時の予防的抗菌薬は狭域抗菌薬で可

歯科領域における抗菌薬スチュワードシップの課題―80%が不適正使用か

10 術後熱の鑑別診断と対処法

術後熱は広範な概念

術後熱の自然経過

術直後の発熱でも注意すべき感染症

バイオマーカーは術後熱の鑑別診断に有用か

11 細菌感染症の再発予防の抗菌薬

抗菌薬をやめるのが怖い?

蜂窩織炎の再発予防

尿路感染症の再発予防

誤嚥性肺炎の再発予防

12 ST合剤による感染症予防

救急外来でよく遭遇する用途不明の処方

なぜニューモシスチス肺炎予防にST合剤なのか

ST合剤は他の感染症も予防するのか

ST合剤の副作用は多彩

ST合剤スチュワードシップの可能性

その副作用は本当にST合剤「アレルギー」?

13 抗真菌薬スチュワードシップ

年に1回は診る真菌感染症

侵襲性カンジダ症治療におけるガイドライン不遵守

抗真菌薬の不適正使用

抗真菌薬スチュワードシップ、最短の道はコンサルト

バイオマーカーを活用する方法には罠がある―東大病院でも80%が不適正使用

14 抗ウイルス薬スチュワードシップ

抗ウイルス薬スチュワードシップとは

サイトメガロウイルスと臓器移植の話

移植患者さんに対するバルガンシクロビル

アシクロビルも不適正使用されがちか

第3章 引き算の医療の実践②:診断のスチュワードシップ

1 不適正な診断プロセスを放置する弊害

検査カスケードという問題

診断スチュワードシップとは何なのか

診断スチュワードシップの具体例

2 血液培養

菌血症の検査前確率が大切

血液培養検査の不適正使用による実害

血液培養のフォローは必要か

血液培養スチュワードシップの試み

3 尿培養・ドレーン排液培養

尿路感染症の診断検査の階層構造

尿定性検査の問題点

Reflex urine cultureという方策

尿培養スチュワードシップの実際

検体採取の方法も重要

4 喀痰培養

喀痰検体の質が重要

低質喀痰での培養検査

良質喀痰での培養検査が抗菌薬の適正使用に直結

「熱・即・培」、再び―ナンセンスなことばかり

喀痰PCR検査の台頭

5 表面膿培養

膿検体の採取方法

表面膿スワブ培養は本当にダメなのか

表面膿スワブ培養結果の制限付き報告

6 便培養

さらば、無駄な便培養

便培養検査の適応

微生物検査室では何が行われているか

便培養スチュワードシップの実例

7 Clostridioides difficile 検査

Clostridioides difficile 検査結果の解釈

CD検査の不適正使用

CD検査スチュワードシップ

8 真菌検査スチュワードシップ

そもそもなぜβ-Dグルカンが役に立つのか

検査カスケード:検査前確率を無視した診断プロセスの顛末

不適正使用の横行する非培養真菌検査

真菌検査スチュワードシップ介入の実際

第4章 引き算の医療の実践③:スチュワードシップの非感染症分野への応用

1 非感染症分野にも見られる不適正医療

患者さんを危険に晒さなければ許されるわけではない

非感染症における診断スチュワードシップ

2 モニター管理

バイタルサインのモニター過剰

不要になった段階でモニターを外す

バイタルサイン以外のモニターも過剰な可能性

3 絶食・補液

絶食・補液に思いやりを

不適正な絶食・補液管理がまかり通ると危惧されること

検査前の絶食がどこまで必要か

術前の絶食はどこまで必要か

誤嚥性肺炎に対する絶食・補液

4 心臓検査

ルーチンの検査では結果確認を忘れがち

入院時にルーチンで実施する心電図検査は妥当か

その症状や所見に対する心電図検査は妥当か

胸痛を訴える患者さんの経過観察入院

心臓超音波検査も過剰に実施されている可能性

5 甲状腺機能検査

セットオーダーも不適正検査の温床か

入院患者さんに対する不適正な甲状腺検査

甲状腺スチュワードシップの実際

6 凝固検査と腫瘍マーカー

救急外来での凝固スチュワードシップ

術前の凝固検査の適応

術前の凝固スチュワードシップ

不適正な腫瘍マーカー検査

無駄だらけの血液検査

7 画像検査

日本のCT大国化は進歩と呼べるのか

外傷診療における頭部CTや頚椎X線

腰椎穿刺前の頭部CT

超音波検査とCTの同時利用

8 留置デバイス

カテーテル関連血流感染症を完封する唯一の方法

カテコラミンのためだけに中心静脈カテーテルを使わない

転院調整のために中心静脈カテーテルが過剰使用されていないか

末梢静脈カテーテルの交換を定期的に行うべきか

尿道カテーテルも不必要に留置されていないか

9 降圧薬

降圧と転倒の天秤

厳格な血圧管理を何歳までするべきか

入院中に生じた高血圧症を治すべきか

血圧高値に驚いて救急外来を受診する高齢者

10 抗血小板薬・抗凝固薬 前編

ボケ防止の抗血小板薬

入院患者さんに対してルーチンで深部静脈血栓症予防策を講じるか

フットポンプや下大静脈フィルターも不適正使用に注意

11 抗血小板薬・抗凝固薬 後編

クリニカルイナーシャ

心房細動で抗凝固薬を使っている患者さんへの抗血小板薬

12 制酸薬

プロトンポンプ阻害薬の見えづらい副作用

PPIの不適正使用

ストレス潰瘍予防が不要になるとき

PPIスチュワードシップ

13 睡眠薬

ポリファーマシーといえば睡眠薬

睡眠薬を処方する以前の問題として「安直な原発性不眠症の診断」

実際に睡眠薬をどう減らしていくか

せん妄に対する抗精神病薬

14 その他の薬剤

スタチンによる一次予防

アナフィラキシーに対するステロイド

インスリンのスライディングスケール

「やせ薬」―SGLT-2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の不適正使用

15 処置前投薬と輸血

パリンブリッジ

処置前の出血性合併症予防

輸血用血液製剤の適正使用

コラム

情報を読む時の心がけ

INSPIRE 試験

本当に最初から「正解」を選ばないといけないのか

日本における風邪に対する抗菌薬処方の実情

オンライン診療での気づき

どうしても感染症の再発予防に抗菌薬を使いたい主治医

ピンチはチャンス―ただし、期間限定

好中球減少症における尿所見

移植患者さんでのスチュワードシップにおける悩み

研究者目線でのスチュワードシップの悩み

電子カルテがダウンした日

監査とフィードバックの重要性

正しさだけで人は動かない

診断基準と過剰診断

法制度に対する医師の無知が招く患者負担

ナッジの位置づけ

おわりに


索引

著者プロフィール

便利機能

  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応
便利機能アイコン説明
  • 全文・
    串刺検索
  • 目次・
    索引リンク
  • PCブラウザ閲覧
  • メモ・付箋
  • PubMed
    リンク
  • 動画再生
  • 音声再生
  • 今日の治療薬リンク
  • イヤーノートリンク
  • 南山堂医学
    大辞典
    リンク
  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応

対応機種

  • ios icon

    iOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:9.5MB以上(インストール時:25.2MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:38.0MB以上

  • android icon

    AndroidOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:9.5MB以上(インストール時:25.2MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:38.0MB以上

  • コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
  • コンテンツの使用にあたり、m3.com電子書籍アプリが必要です。 導入方法の詳細はこちら
  • Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
  • Androidロゴは Google LLC の商標です。

書籍情報

  • ISBN:9784765320771
  • ページ数:252頁
  • 書籍発行日:2026年2月
  • 電子版発売日:2026年2月6日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

まだ投稿されていません

特記事項

※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。

※コンテンツの使用にあたり、m3.com 電子書籍アプリが必要です。

※eBook版は、書籍の体裁そのままで表示しますので、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。