胡散臭くならない精神科面接のコツ

  • ページ数 : 190頁
  • 書籍発行日 : 2026年3月
  • 電子版発売日 : 2026年3月5日
¥3,520(税込)
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内容

なぜ精神科医は胡散臭いのか?
長年にわたり臨床と教育に携わってきた著者が、独自の視点とユニークな筆致で精神科面接の基本と実践上の要点を解説します。初診・再診面接の進め方、引き継ぎ患者への対応、主要な精神疾患ごとの留意点などを取り上げ、「胡散臭くならない」ための具体的な視点と工夫を提示します。教科書では書けなかった実臨床におけるポイントや、効果的なトレーニング方法まで収録し、経験年数を問わず、精神科医の面接技術を確実に底上げする実践的な1冊です。

序文

はじめに


皆さまは精神医療,あるいは精神科医についてどのようなイメージをお持ちでしょうか.正直なところ,あまり好意的なイメージを持っている方は多くないのでは,と私は感じています.何しろ,かつての私自身がそうでしたから.一昔前までは,精神病院と言えば長期入院が当たり前で,一度入ってしまったら下手をすると一生出られない,というのが一般的でした.また,当時は強化ガラスがありませんでしたので,無断離院防止という名目で窓には鉄格子が設置されていました.子供向けのアニメなどでは牢屋のような病室の中でひたすら奇行にふける患者が描かれ,精神病院は恐ろしいところである,という認識が知らずのうちに頭に中にインプットされていました.また,精神科医についても,最初に目にしたのが漫画「ブラック・ジャック」に登場する精神科医でして,なんだか高慢ちきでいけ好かない,とか,胡散臭い,という印象しか持ち合わせていませんでした.それなら,なぜお前は精神科医をしているのか,という話になるのですが,そもそも私が医学部への進学を考え始めたのは覚せい剤の作用機序に関する記事を見たことがきっかけでした.当時,TVでは「覚せい剤やめますか,それとも人間やめますか」というキャッチフレーズで覚せい剤の危険性を啓発するコマーシャルが盛んに放映されていました.この「人間やめますか」というフレーズは,覚せい剤を使用したら人間じゃなくなるのか,という意味合いを含みますので,その後に重大な人権侵害を助長するものとして多くの批判を浴びることになる訳です.とはいえ,好奇心旺盛な中・高校生にとっては,人間の感情コントロールなどの高次脳機能は薬によっていとも簡単に変化を生じさせられる,ということが大きな衝撃でした.

それなら医学部に行って勉強してみよう,ということになった訳ですが,そこでもまだ精神科医を目指す,という考えは全くありませんでした.実際に,精神科への道を選んだのは病院実習が終わった後です.当時の脳神経内科,脳神経外科ではあまり高次脳機能を治療のターゲットとはしていなかったので,近い分野として精神科を視野に入れたのですが,そもそも私自身が精神科医に対して良いイメージがなかったので進路は悩みました.申し訳ないのですが,当時の大学病院精神科は建て替え前の古い病棟,それも閉鎖病棟で,どうしても怪しげな雰囲気が拭えませんでした.また,大変失礼ですが,精神科医が胡散臭い,という私のイメージも変わりませんでした.しかし,この怪しげな業界に足を踏み入れてみたい,という好奇心と,精神科は他と比べてそんなに忙しくなさそう,厳しい指導医もいなさそう,という打算がどこかにありました.まあ,ようするに,怖いもの見たさと消去法でこの業界を選んだのですね.

そういう訳でして,仕事を始めた当初はいつでも辞める気満々でした.途中で辞めて面倒なことにならないように,出身大学以外で,なおかつ病棟の怪しげな雰囲気が少ない,という観点で今の職場を選び,気がついたら30年近く経ってしまいました.精神科医が胡散臭い,というイメージは今でも変わらないですね.むしろ,胡散臭くない精神科医もいますが,胡散臭い精神科医は確実に存在する,という確信に変わっていたりします.そもそも,現状では精神疾患の診断には客観的なバイオマーカーがなく,面接所見から得られた医師の判断が論拠となっている,という構造自体が怪しげですよね.胡散臭くならない訳がないのです.私は医学部学生の教育にも携わっていますが,学生からは「なぜ精神科医になったのですか」という質問をよく受けます.その回答は前述した通りなのですが,こういう質問が出てくること自体に,精神医療の特殊性があるのでしょう.すなわち,なぜこんな変わったことをしているのか,という疑問を潜在的に皆さんは持っている,と.また,「患者さんの話を聞いていて先生自身が病んでしまうことはないのですか」という質問を受けることも多いです.こういう質問を受けると,やはり,自分たちが特殊な集団であると認識されていることを実感しますね.この質問につきましては大変重要な内容を含んでおりますので,一旦私なりの回答をここで述べておきます.患者さんは症状が辛く,いつ治るのかわからない,出口が見えない,という絶望した状態で受診されますが,精神科医は,精神疾患をどうやって治療していくか,あるいはその精神疾患がどのような経過をたどるか,ということをある程度知っています.私たちにはこうした知識がありますので,どうやれば良くなるか,出口に近づけるかについての具体的なイメージを思い浮かべることができるのですね.それなので,患者さんと一緒に絶望してしまうことはありません.また,患者さんの「辛い」,「苦しい」,あるいは「死にたい」という訴えは症状であり,所見でもあります.私たちはその訴えがどのような症状で,どのくらいの重症度で,なおかつ,どこからどこまでが疾患による症状であるのか,出来事や環境といった外因的な要素を含んでいるのか,はたまたもともとの性格や考え方,生活歴の影響を受けているのか,といったことについて,頭をフル回転させながら分析しつつ話を聞いている訳です.とても一緒に病んでいる暇などありません.しかし,これらの作業は基本的には全部頭の中でやっていることですので,適当に済ませてしまおう,手を抜こう,とすればいくらでもできるのです.それも,誰にもバレない形で.

一方で,私たちも生身の人間ですので,長時間にわたる診療業務において常にフルスロットルで臨む,というのは少々無理があります.私は,医師4年目のまだ十分なスキルがない時期に,パーソナリティ症や逸脱行動を伴う摂食症の患者さんを数多く抱えていました.その当時,過緊張が続いたことで手掌多汗症を生じ,手の皮がボロボロになったことがあります.非常に面倒見が良く丁寧な診療をする同期がうつ病で倒れたのもこの時期です.私につきましては,幸いにも不幸な転帰となった患者さんはおらず,文字通り「一皮むけた」感じになりましたので,今となっては良い思い出と言えるのかもしれません.精神科医は,自分の健康を守り,いざという時に十分な力を発揮するために,時には適度な力加減をすることも必要です.しかし,その場面を間違えますと,当然診療内容は不十分なものとなってしまい,患者さんに負担をかけることになります.それでも,高い回復力を持っている患者さんは,治療が適当でも内因性のレジリエンスを発揮して勝手に良くなってくれます.重要なのは,診療の各場面において,自分の全力度がどのくらいか,ということ,患者さんが改善したのは,それが治療の成果によるものなのか,あるいは患者さんのレジリエンスが発揮されたからなのか,ということを常に頭の中で考えていくことなのだろうと思います.自分が手を抜いていることに自覚がなかったり,患者さんが自然経過で改善しているのにそれを自分の成果と勘違いしてしまったりすると,ちょっと大変です.そういう精神科医の言葉って,どこか胡散臭いのですよね.さらに,自分が胡散臭くなっていることの自覚がないと,かなりまずいことになります.本書では,私自身が胡散臭い精神科医にならないように,また自分がおかしな診療をしないようにするために日々気をつけていることについて,私の診療スタイルを紹介しつつ解説していきたいと思います.胡散臭くない精神科医を目指す先生方,あるいは怖いもの見たさで精神科医について興味がある方の参考に少しでもなれば幸いです.


2025年12月

自治医科大学精神医学講座 教授
須田史朗

目次

1章 「胡散臭い精神科医」とは

1 精神医学は科学か,それとも似非科学か

2 胡散臭い精神科医と思われないために私が気をつけていること

3 患者の視点で考える,胡散臭い精神科医の特徴とは

知識がない

暗い

決めつける

核心をついてくれず,うわべだけ,言いたいことを引き出してくれない

面倒臭そうにする

怖い,話しにくい

精神科診療ではどうなるのか

4 胡散臭い精神科医にならないための十か条

壱 ヒトがヒトのココロを扱うことの限界をわきまえる

弐 診断技術は反復学習,頭の中にプロトタイプを作る

参 内因性レジリエンスに勝るものはない

肆 当たり前の治療は先人の経験の集積である

伍 治療は患者さんのためのものであり,医師の自己満足のためのものではない

陸 医療の現場に上下関係や利害関係を持ち込まない

漆 持っている力の出し惜しみをしない

捌 自分がいないと駄目になってしまう患者さんを作らない

玖 どうすれば良いかわからない時は少しおせっかいな選択を

拾 結果的に患者さんが改善すれば,大抵のことは許される

2章 「胡散臭くならない」ための精神科面接の基本

1 「胡散臭くならない」ための精神科面接における基本的な手法

精神科面接における基本的な手法

ラポールの形成

魚心あれば水心あり〜他人は自分を映す鏡である〜

ラポールの形成の意義

おまけ:診療録への記載における留意点

2 初診/再診での面接

初診での面接

再診での面接

3 引き継ぎ再診での面接における留意点

患者さん側の要因

精神科医側の要因

3章 精神科面接におけるコツ

1 精神科の臨床で絶対にやってはいけないことは存在する

絶対にやってはいけないこと

相対的にやってはいけないこと

2 五感をフルに使って診察する

視覚

聴覚

嗅覚

味覚

触覚

第六感

3 治療方針の相談の仕方 SDMとは

SDMを必ず行わなければならない場面

普段の臨床のSDM

おまけ:上級医との治療方針の相談の仕方

4 精神科面接で生じやすい誤解について

誤解のメカニズム

患者さんに生じやすい誤解

誤解を招かない対処法

5 患者さんからの依存(+ついでに依存性パーソナリティ症の解説)

依存性パーソナリティ症とは

依存の程度を見極める

通常の臨床現場では,依存の多くは良性である

面接法の具体例

6 患者さんからの転移(+ついでに受動的攻撃行動とボーダーラインパーソナリティ症の解説)

転移

投影

投影性同一視

ボーダーラインパーソナリティ症

7 切開は少ないほうが良い どこまで患者さんの感情に切り込むか

患者さんの転移,投影,投影性同一視をどう考えるか

精神分析療法は侵襲性のある治療になるかもしれない

必殺「なかったことにしてしまう」

流せない場合はどうするか

転移の対処とコツ

投影と投影性同一視の対処と具体例

8 胡散臭くならない手の抜き方 常に120%で挑むのは現実的でない

コラム

・患者を叱るべきか否か

・マスク越しの診療から考えたこと

・精神科診断は国境を越えるかもしれない,という話

・退かぬ,媚びぬ,顧みぬ

あとがきというか,まとめというか

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書籍情報

  • ISBN:9784498229785
  • ページ数:190頁
  • 書籍発行日:2026年3月
  • 電子版発売日:2026年3月5日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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