小児メンタルヘルスケアの手引き

  • ページ数 : 220頁
  • 書籍発行日 : 2026年3月
  • 電子版発売日 : 2026年3月27日
¥7,920(税込)
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商品情報

内容

これまでの小児医療は「病気を治す」ことに主眼を置いてきました。しかし、病気に伴うこどもたちの苦痛や、命の灯が消えてしまうかもしれないという不安、そして家族の思いは、十分に顧みられてきたとは言えません。医療者には「声なき子どもの声」に耳を傾け、「こどもの代弁者(アドボケイト)」となることが期待されています。一方、医療者もまた一人の人間です。現場で疲弊していく彼らの心は、一体誰が支えるのでしょうか。本書では、成長・発達段階、地域や児童精神科、小児プライマリケア、闘病中における小児メンタルヘルスケアを考えます。また、遺族外来、スタッフケア、遠隔医療などの実践を通して、こどもと家族、そして医療者も含めたWell-beingを支えるために、いま何が必要なのかを問い直します。

序文

序文

小児集中治療科医として臨床の前線で働いてきた私が、小児のメンタルヘルスケアの本を著述することになるとは、数年前には想像もしていませんでした。

私が「心のあり方」の大切さを初めて真剣に考えたのは、2011年の東日本大震災の時です。私たち小児集中治療科医は、小児救急科医と共に、こどもたちの救命のため被災地へ派遣されました。しかし、そこに広がっていたのは、言葉だけでは受け止めきれない現実でした。突然すべてを失い、それでも生きるしかなかったこどもたちの「これから」を、心の面から支える経験や知識は、当時の私たちには十分に備わっていなかったのです。

その後、災害時におけるこどもの心の支援体制は整えられていきましたが、コロナ禍が世界を再び混乱に陥れました。長期にわたる隔離や制限により、学校や友人とのつながり、そして日常の居場所が断たれ、こどもたちの心は静かに追い詰められていきました。…自殺企図、薬物過量摂取、治療の拒否── PICU(小児集中治療室)に運び込まれるこどもたちの「SOS」を前に、自分自身に問い続けていました。私たちは本当にこどもたちの病を治しているのだろうか。医療者が向き合っている「病」とは、一体何なのだろうか。

医療の現場もまた、極度に疲弊していました。コロナウイルスで仲間の医療スタッフが命を落とし、その家族も失われていくなか、米国では医師の5人に1人が離職を考えるほど、その負担は限界に達していました。私も例外ではありませんでした。

当時の私はPICUでこどもの命を救う司令塔として働く医師であると同時に、子育てをする母親でもありました。不安で食事もとれなくなっていた娘を家に残し、それでも仕事に向かわなければならない日々。母親としても、医師としても、自分は至らない存在ではないか。こどもの命を救う現場に立ちながら、わが子の心を守りきれていないのではないか。その思いが、何度も私を立ちすくませました。

その時、心の支えとなったのが、「COME BACK TO ME(わたしのところに帰ってきて)」と書かれた、幼い娘のおまじないのような手紙でした。古今和歌集には、「言の葉は人の心を種として生まれ、力をも入れずして天地を動かす」と記されています。その言葉の意味を、この時、初めて実感として理解しました。娘の言葉は、私には帰る場所があり、だからこそ前に進んでもよいのだと、心を立て直す礎になりました。何があっても生き延びて、不完全なままでも「ただいま」と言おう。どんな間違いも、大事な何かを失ったとしても、回り道であっても、後で考えて正す時間がある。だから、ただ息を深く吸って「今」を、私として生きようと。

医療者は支援する側の専門家ですが、同時に、ただの一人の人間です。強くあろうとしても、完璧でいることはできません。自らの弱さを通してこそ、共に生きる方法を学び、誰かの隣に立つことができるのだと信じています。それでも私たちは、患者さんやそのご家族、仲間、自身の家族など、これまで多くの人の言葉に支えられてきました。そして、私たちが受け取ってきた言の葉の力を源に、今度は誰かの心を動かす番がやってくるのだと思っています。

こどもやその家族、そして医療者も、時に様々な理由で存在価値が揺らぎます。不安につぶされそうになった時に寄りかかれる場所をつくり、「今」を生きる希望を共に探すこと。そうしたメンタルヘルスケアの実践こそが、私たち医療者にとって未来への恩返しと考えます。しかし、従来の小児医療の枠組みだけでは、支援の届かない場所があります。その支援の光を照らすためには「誰に、どのように支援が届いているのか」を問い続けながら、医療者自身の関わり方や価値観を更新していかなければなりません。そして、本書におけるそれらの問いは複数の視点を重ねることで、初めてメンタルヘルスケアの輪郭を持ち始めました。この本は、私一人によるものではありません。この思いに共鳴し、それぞれの立場、それぞれの現場から力を尽くしてくださった執筆者の方々と共に紡いだ一冊です。夜空の星は、一つひとつが孤立して光るように見えますが、人はそれらを結び、星座として意味を見いだします。本書もまた、教育、医療、家庭といった現場で働く筆者らの経験や問いを結び合わせ、星座のように編み上げたものです。

最後に推薦の言葉をお寄せくださった黒川清先生に心より御礼申し上げます。また忙しい臨床のさなか、本書のために原稿執筆や校正にご尽力いただいた執筆者の先生方に深く感謝申し上げます。本書が、こどもの心に向き合うすべての人にとって、そして医療や社会が心の回復へと歩み寄るための一助となることを、心から願っています。


2026年1月吉日

編著者 島袋  梢

目次

Section 1 小児メンタルヘルスケアとは?

Chapter 1 なぜ今、メンタルヘルスが必要なのか? (島袋 梢)

Chapter 2 虐待とネグレクト (菊池 祐子)

Chapter 3 成長・発達段階と共にあるメンタルヘルスケア (阪下 和美)

Chapter 4 児童精神科外来とカウンセリングによる支援 (河嶌 讓/河嶌 美穂/新川 瑶子)

Section 2 闘病中や喪失後のサポート

Chapter 5 小児プライマリケアから行うメンタルヘルスケア (島袋 梢)

Chapter 6 闘病中のこどもに対するメンタルヘルスケア (森本 健司/島袋 梢)

Chapter 7 ハイリスクPICU患者退院後のフォロー (森本 健司/島袋 梢)

Chapter 8 遺族外来 (笠木 実央子)

Chapter 9 医療従事者のメンタルヘルスケア (松永綾子/島袋 梢/森 天音)

Section 3 メンタルヘルスケアの環境整備

Chapter 10 テレヘルスと児童のメンタルヘルスケア (笠木 実央子)

Chapter 11 メンタルヘルスケアの地域での取り組み (河嶌 讓/沖野 昇平/新川 瑶子)

Chapter 12 教育現場での支援 (飯塚 紘司)

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書籍情報

  • ISBN:9784621312827
  • ページ数:220頁
  • 書籍発行日:2026年3月
  • 電子版発売日:2026年3月27日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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