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- 医療現場の会話は、なぜ噛み合わない
商品情報
内容
序文
序文
筆者がこれまでに出会ってきた人物の中には、グループを作ったり、イベントを企画したり、こじれそうな話し合いをまとめたりするのが不思議なくらいに上手な人が何人かいる。こういう人はたいてい、わかりやすく話すことができて、周囲の人を巻き込んでいく(≒エンパワメントする)エネルギーにあふれている。真正の陽キャ、ネットワーキングの申し子、人付き合いの達人、形容の方法はほかにいくつもあるだろう。いずれにしてもコミュニケーションが大きな要素であることは間違いない。
筆者は、コミュニケーションに長けたこういう人のことを、多少のやっかみを込めて「コミュニケーションお化け」と(内 心)名付けている。コミュニケーションお化けに出会うたび、憧れはするものの、同時に「こうはなれない」と思ってしまう。嗚呼、なんてアンビバレントなワタシ(うっとり)。それでも 人は齢を重ねるにつれてコミュニケーションの問題と向き合わ ざるを得なくなる。筆者もいつの間にか「自分にはできない」とあきらめてばかりもいられなくなっていた。
コミュニケーションお化けたちがさも涼しげな身のこなしでコミュニケーションの荒波を乗りこなすのを横目に見ながら、同じことをやれと言われてもとてもできない。筆者はコミュニケーションに迷える仔羊の一人(一匹?)だ。
メディカ出版から「医療現場のコミュニケーションの本を書いてみないか」というお誘いをいただいたのは2025年の春ごろだ。しかも、行動経済学に基づくコミュニケーション術について書いてほしいという。行動経済学はよく知らないので、その建付けではとても書けないと思った。でも、コミュニケーションというテーマにはどこか心惹かれるものがあった。不得意だからこそ向き合ってみたかったのかもしれない。そこで、「行動経済学」というお題目を外すことを条件に(生意気!)引き受けることにした。ちょうど大病をした後で、ちょっとした気分転換程度にしか考えていなかったが。
したがって、この本は、コミュニケーションに迷える仔羊が、羊飼いを気取って語るコミュニケーション指南書である。コミ ュニケーションの問題を思いつくままに一つひとつ解きほぐし ながら考えてみた。そのような要素分解は、コミュニケーショ ンの波乗りをスイスイ楽しんでいる人にはきっと不要に違いな い。でも、サラッとしなやかにコミュニケーションできない仔 羊たちには役に立つかもしれない。要素分解してみればこそ、陰キャでも、人見知りでも、かよわき大人の代弁者でも、少し はうまくコミュニケーションできるようになるかもしれない。
とはいえ、要素分解に熱中して理屈ばかりを並べていても実践の書にならない。そこで、コミュニケーションエラーの“ あるある” を集めてみた。理屈が苦手な読者は、part2から読み進めてもいい。また、本書における理屈編たるpart1も、なるだけ抽象的にならないよう、筆者自身の学びの過程をたどって構成した。ロールプレイ感覚でお読みいただければいい。筆者は医療者だから、この本で取り扱うコミュニケーションの事例は基本的に医療現場で見聞きするものだ(ということにしておこう)。実のところほとんど創作(または、かなり脚色したもの)だが、日本の医療現場のどこかで同じようなことが今日も起こっているのではないか。
未来は自分で切り開くものなんだよ。
2026年4月
日本医師会総合政策研究機構 主席研究員
森井 大一
目次
【part1 行動経済学という考え方~自己紹介に代えて~】
■1 はじめに:著者の正体
・私の“医師”としての働き方
■2 行動経済学の入り口
・行動経済学を知ったきっかけ
・不思議な響き
■3 リバタリアン・パターナリズム
・リバタリアン(リバタリアニズム)
・パターナリズム
・リバタリアンっぽいパターナリズム
■4 「選択のアーキテクチャー」と「状況の力」
・両者の定義
・両者の違い
■5 医療現場における複雑なコミュニケーション
・特殊性
・情報の非対称性
・患者自身の意思決定の要請が強く働く
■6 “行動経済学”“リバタリアン・パターナリズム”がなぜ役立つのか
・心の中のリトル・ノージック
・リトル・ノージックへの配慮
[column 1]行動経済学は「最強」なのか?
[column 2]リバタリアン・パターナリズムのベクトル
[column 3]パターナリズム回帰のパラドクスの正体
【part2 医療現場の“あるある”コミュニケーションエラー事例集】
〈先入観編〉
■事例1 “ブロック”違い
・言語情報を視覚情報で補う
・どの口が言ったか問題
・ステレオタイプ的認知
・「認識のさかだち」を利用する
・ステレオタイプにはまらないように注意する
・ポータブルトイレ? ポータブルレントゲン?
■事例2 何の確認?
・確認によるコミュニケーションエラー
・曖昧性のトラップ
・付加疑問文と付加命令疑問文
・疑問文が命令文として機能する
・「確認→命令」
・敬語・丁寧語の使用がおすすめ
・職場のカルチャーにする
〈聞き間違い・情報不足編〉
■事例3 入院病棟はC病棟? それともD病棟?
・“3代目スケバン”スペシャル
・目覚まし型ナッジと幻惑型ナッジ
・熟慮支援型ナッジと選択促進型ナッジ
・“3代目スケバン”スペシャルの2つの限界
■事例4 「あと少し」って何分? 何秒?
・「あと少し」の幅
・「あと少し」の問題点
・アンカリング効果の活用
・「ナニかあれば、ご連絡ください」の問題点
■事例5 待たされてイライラ
・待たされることを嫌う医療者
・オートマチックなコミュニケーション
〈連絡・確認の欠落編〉
■事例6 待たせてヒヤヒヤ
・行為者-観察者バイアス
・顔を合わせる機会の設定
・立ち話ブリーフィング
■事例7 性別と名前
・名前による推定の難しさ
・ICUにおける部屋分け
・ショートカットを防ぐための機能
〈人間関係編〉
■事例8 不思議な外来語
・医療現場の「ジャーゴン」
・「仲間」であることを確認するための道具
・不明確性の原理
・「エッセンいきましょか~~」
・宮さんの愛すべき作法
・帰ってきたディアベ
・普段からのコミュニケーションがキモ
■事例9 板挟みになった看護師
・論争無意味の推定
・指揮系統の混乱
・ホワイトナイト作戦
[column 4]推定の話
■事例10 採血は誰の仕事か?
・話し合うべきテーマを一つに絞る
・それぞれの「研修医像」の違い
・「抽象」と「具体」を取り違えることの危うさ
・価値基軸の必要性
・話し合って意味があるかどうかも考える
・相手を責める理由を後から足すとよくない
[column 5]「説得」は、リバタリアニズムかパターナリズムか?
[column 6]スタハノフ運動の気持ち悪さ
[column 7]スタハノフ運動っぽいもの
[column 8]Power to the Edge
【part3 もっと詳しく!本書に出てきた用語解説】
■1 3代目スケバン
■2 ホワイトナイト
■3 キャス・サンスティーン
■4 リチャード・セイラー
■5 ロバート・ノージック
■6 リバタリアニズム
■7 メダパニ
■8 行為者-観察者バイアス
■9 コア・カリキュラム
【part4 大・ど・ん・で・ん・返し!】
■1 強制を強制と見せかけない
■2 “せっかちモード”と“じっくりモード”
■3 医療現場のコミュニケーションの主体
・伝言ゲームの連なり
・一つの目的に向かって連動する
■4 自身のルール作りへの参加
■5 ナッジを過信しない
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書籍情報
- ISBN:9784840491426
- ページ数:160頁
- 書籍発行日:2026年7月
- 電子版発売日:2026年7月1日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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