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- 失音楽症
商品情報
内容
脳の障害で音楽能力が失われる「失音楽症」は、なぜ生じるのでしょうか。
本書では、脳神経内科医にして音大卒の著者が、医学と音楽双方の専門的視点から、
自験例を1つひとつ紐解き、音楽の脳内認知過程を見出します。
さらに、著名な音楽家の失音楽症例、音楽能力評価の検査、音楽認知の脳賦活化実験などの知見も網羅。
医学から音楽と脳に向き合うことで、脳の可能性、人間の脳の奥深さが見えてくる、唯一無二の「失音楽症」成書です。
【内容構成】
推薦の序(河村 満)
はじめに
第1章 失音楽症の歴史的症例
前奏 失音楽症とは
1.脳に閉じ込められた音楽―ラヴェル―
2.失語症と作曲能力―シェバリーン―
3.右半球の障害と作曲能力―山田耕筰―
第2 章 失音楽症の自験例
失音楽症の評価に用いられる検査
CASE 1.混線するメロディ―両側側頭葉前部の梗塞―
CASE 2.ある日突然,音痴になった―両側側頭葉の梗塞による聴覚失認―
CASE 3.左手で弦が押さえられなくなったヴァイオリン奏者―脳梁梗塞による脳梁離断症候群―
CASE 4.本態性音楽性幻覚―難聴がなく脳病変を持たない幻聴―・
CASE 5.歌唱てんかん―発作時に意識を保ったまま歌う―
CASE 6.演奏時の拍の障害―2 回にわたる脳梗塞―
CASE 7.生来の音楽能力の障害―先天的な発達障害―
失音楽症例から探る音楽の脳内機構
第3 章 音楽鑑賞の脳内機構
CASE 8・9. 脳が音楽美を失うとき―音楽無感症(musical anhedonia) ―
第4 章 絶対音感の脳内機構
CASE 10.脳損傷による絶対音感(AP) の喪失
第5 章 脳賦活化実験からみた音楽認知の脳内機構
音楽認知に関連した脳賦活化実験とその他の研究・
終章 音楽の受容と表出のメカニズム
音楽と脳はどこまでわかったか
文献
あとがき―神は与え,そして奪い給う―
索引
序文
はじめに
脳には局在(localization)がある.脳の特定の領域が特定の機能をもつ.その領域が障害されると,その機能が失われる.失われた機能をみることで,正常時にその領域あるいはそれがかかわる神経ネットワークが有する機能を知ることができる.失音楽症(amusia)とは,脳の損傷により音楽能力が失われた状態を表わす.“a”とは後天的障害すなわち一旦は正常な発達を遂げた脳が損傷を受けたことにより出現した障害であること,“musia”は音楽を意味する.病院で外来を担当していると,稀に失音楽症の患者に遭遇する.
歴史上もっとも有名な失音楽症の患者は,20世紀初めにフランスで活躍したモーリス・ラヴェル(Maurice Ravel)である.ラヴェルは,神経細胞が少しずつ失われていく病気にかかり,病変が広がるにつれて失音楽症をはじめとするさまざまな症状を引き起こした.音楽史上の傑作である「ボレロ」や2つのピアノ協奏曲は,病気との闘いのなかで作曲された.
筆者が遭遇したのは以下の症例である.
アマチュア合唱団に所属していた女性は,両側側頭葉前部の損傷により,自分の歌が調子外れに聞こえるようになった.また,若い頃に習っていたアルゼンチンタンゴの音楽を聞いても,それとわからなくなった(Case 1).
自ら設立した法律事務所の所長をしていた男性は,両側側頭葉の広汎な損傷により,歌が調子外れになった.また,周りで他のひとがしゃべっていると,自分の話し相手のしゃべり声が聞こえにくくなった(Case 2).
70歳台のアマチュアヴァイオリン奏者は,左右の大脳半球を結んでいる脳梁の損傷により,左手でうまく弦を押さえられなくなった.また,左手で握った物を離せなくなった(Case 3).
ある日の夕方,高齢女性の耳に突然音楽が鳴りはじめた.その音楽は,寝ているときとしゃべっているとき以外,ずっと鳴り響いた.音楽を止めようといろんな曲を歌っていると,聞こえてくる音楽のレパートリーが増えた(Case 4).
あるてんかん患者が,発作のたびに歌を歌うという症状が数十年続いた.よく聞くとそれは,患者が所属する宗教団体の聖歌の階名であった(Case 5).
アマチュアチェロ奏者の女性が,2回の脳梗塞の結果,アンサンブルができなくなった.他のひとの演奏を聞くときは間違いや音程やリズムのズレが詳細にわかるのに,自分が楽器を弾くときは周りとズレてもまったくわからなかった(Case 6).
生来,音楽が苦手な学生がいた.音楽に合わせて行進することができず,歌は調子外れであった.協和音と不協和音の区別もできなかった.彼自身はそれらを,生まれ持った性質と理解していた(Case 7).
高校の元校長先生(Case 8)とプロの合唱指揮者(Case 9)が,それぞれ脳卒中により音楽の美しさがわからなくなった.これまで感動して聞いていた曲を聞いても味気なく,何の感興も湧かなくなった.しかし,合唱指揮者の演奏のクオリティは病前と変わりなかった.
動静脈奇形から脳出血をきたした音楽学生がいた.失語症の消失後も,絶対音感は障害されたままであった(Case 10).
筆者は,音楽大学を卒業し高校の音楽教師を務めた後に医学部に入り直した.医師になってからは脳神経内科(neurology)を専門とし,なかでもひとの認知機能の障害の診断・治療を行う神経心理学(neuropsychology)を専攻している.このような背景から,音楽の脳内認知過程を研究するようになった.本書で紹介する失音楽症の患者は,筆者が実際に遭遇し,診察する機会を得た症例である.それぞれが際だった特徴を持ち,学術的に興味深い.Case 1 〜10の症例はすべて,医学国際誌に論文として掲載されている.
本書では,各症例を詳しく紹介し,そこで得られた所見をもとに,音楽の脳内認知過程について考察を進めていく.各症例はそれぞれ独立して報告されたものであるが,それらをまとめて通覧することにより見えてくるものがある.医学雑誌の字数制限から,関連する脳賦活化実験の結果など,論文中には書き切れなかった事柄がある.本書をお読みいただくと,当初は個別のものと思われていた症例が結びつき関係し合い,最終的に音楽の脳内メカニズムという1つの像を結んでいくことがわかるであろう.あたかも,各楽章の主題が関連し合い1つの芸術作品を形作っていく交響曲のように.
まず初めに,脳の成り立ちと神経心理学,そして失音楽症の総論的なことから話を進める.脳機能に慣れ親しんでいる読者は,前奏は飛ばしていただいて結構である.
目次
第1章 失音楽症の歴史的症例
前奏 失音楽症とは
1.脳に閉じ込められた音楽―ラヴェル―
2.失語症と作曲能力―シェバリーン―
3.右半球の障害と作曲能力―山田耕筰―
第2章 失音楽症の自験例
失音楽症の評価に用いられる検査
CASE 1.混線するメロディ―両側側頭葉前部の梗塞―
CASE 2.ある日突然,音痴になった―両側側頭葉の梗塞による聴覚失認―
CASE 3.左手で弦が押さえられなくなったヴァイオリン奏者―脳梁梗塞による脳梁離断症候群―
CASE 4.本態性音楽性幻覚―難聴がなく脳病変を持たない幻聴―
CASE 5.歌唱てんかん―発作時に意識を保ったまま歌う―
CASE 6.演奏時の拍の障害―2回にわたる脳梗塞―
CASE 7.生来の音楽能力の障害―先天的な発達障害―
失音楽症例から探る音楽の脳内機構
第3章 音楽鑑賞の脳内機構
CASE 8・9.脳が音楽美を失うとき―音楽無感症( musical anhedonia)―
第4章 絶対音感の脳内機構
CASE 10.脳損傷による絶対音感(AP)の喪失
第5章 脳賦活化実験からみた音楽認知の脳内機構
音楽認知に関連した脳賦活化実験とその他の研究
終章 音楽の受容と表出のメカニズム
音楽と脳はどこまでわかったか
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書籍情報
- ISBN:9784880029443
- ページ数:224頁
- 書籍発行日:2026年7月
- 電子版発売日:2026年7月3日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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