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- なぜ、看護師は勤務表を何度も確認するのか
商品情報
内容
働くなかで感じるわかりあえなさを「あの人は現場をわかっていない」「最近の若い人はすぐ辞める」「中堅が頑張れば回る」など、「誰かの考え方」「性格」「姿勢」「努力不足」の問題として考えてしまっていないか。看護師の志向性を新進気鋭の著者が解き明かす。
序文
はじめに
看護師は、勤務表を何度も確認する。
夜勤は何回あるのか。連休はあるのか。誰と一緒に働くのか。希望休は通っているのか。苦手な勤務の並びになっていないか。自分の生活は、今月どのように組み立てられるのか。
勤務表が出た瞬間、多くの看護師は、ただ出勤日を確認しているだけではない。自分の体力がもつのか、生活を保てるのか、家庭や予定と両立できるのか、そしてその勤務の中で自分がどのように働くことになるのかを、何度も確かめている。
勤務表は、本来は労務管理のための一つの表である。しかし看護師にとっては、それ以上の意味を持っている。勤務表は、生活のリズム、休息の取り方、人間関係、仕事への向き合い方を大きく左右する。ときにそれは、看護師の生活全体に大きな影響を与える、絶対的なもののように見える。
だからこそ、勤務表を見たとき、看護師はさまざまな感情を抱く。安心することもあれば、不安になることもある。納得することもあれば、「なぜこの勤務なのだろう」と感じることもある。
「なぜこの人と一緒なのか」「なぜ自分ばかりこの役割なのか」「なぜこの希望は通らなかったのか」。そうした小さな問いは、やがて「なぜ管理者はわかってくれないのか」「なぜ現場の事情は伝わらないのか」という、より大きな違和感につながっていく。
このように、看護の現場で働いていると、誰かに対して「なぜなのか」と感じる場面に、何度も出会う。
なぜ学生は、そんなに萎縮してしまうのか。
なぜ若手看護師は、そんなにすぐ辞めたいと思ってしまうのか。
なぜ中堅看護師は、不公平感やしんどさを強く抱えやすいのか。
なぜ看護管理者は、現場から「わかっていない」と見えやすいのか。
なぜ看護管理室は、遠くて冷たい存在のように感じられるのか。
なぜ病院経営層は、「現場を苦しめるもの」として受け取られやすいのか。
看護の世界には、こうした「わかりあえなさ」が数多く存在している。そして、そのすれ違いが生じたとき、私たちはつい、それを「誰かの考え方」「性格」「姿勢」「努力不足」の問題として理解してしまいやすい。「あの人は現場をわかっていない」「最近の若い人はすぐ辞める」「中堅が頑張れば回る」「管理者は上ばかり見ている」「経営は結局お金しか見ていない」。そのような言葉は、看護の現場で決して珍しいものではない。
しかし私は、看護師として働き、学び、研究を進めるなかで、こうした違和感の多くを、個人の問題として安易に片づけてしまいたくないと思った。同じ病院のなかで、同じ患者のために働いているはずなのに、立場が変わるだけで、見えているものがこんなにも違ってしまう。そして、その違いが十分に言葉にされないまま、「わかっていない人」「困った人」「仕方ない人」として処理されていく。その積み重ねが、看護の現場にズレを生み出しているのではないかと思うようになった。
この本を書こうと思ったきっかけも、そこにある。私はこれまで、看護師・患者・病院経営のあいだに生じるすれ違いや緊張関係に関心を持ち、研究を続けてきた。研究を進めるなかで見えてきたのは、看護の現場で起きている多くの問題が、「誰かが悪いから」生じているのではなく、それぞれが異なる役割と責任のなかで、異なる現実を見ながら働いていることに由来している、ということであった。
たとえば、学生が「病棟が忙しすぎて何もできなかった」と感じるとき、その背景には、認知的な負荷や評価されることへの緊張があるかもしれない。若手看護師が「もう辞めたい」と思うとき、その背景には、本人の忍耐力ではなく、期待と現実のズレや、失敗が許されにくい環境があるかもしれない。中堅が疲弊していくとき、その背景には、仕事ができる人ほど見えない調整役を担わされる構造があるかもしれない。看護管理者や看護管理室が現場から遠く見えるとき、その背景には、個人の共感力の問題ではなく、扱う情報や判断の単位そのものの違いがあるかもしれない。病院経営が冷たく見えるときもまた、それは単純な善悪ではなく、医療という公共性の高い組織が、持続可能であることを同時に求められている構造の問題かもしれない。
つまり、この本で扱いたいのは、「人の問題」に見えているものの背後にある構造である。
本書は、誰かを正すための本ではない。また、「こうすればうまくいく」という簡単なノウハウ本でもない。それぞれの立場の人が、なぜそのように見え、なぜそのように振る舞いやすいのかを、できるだけ丁寧に言葉にし直すための本である。
この本をとおして、読者である皆さんに届けたいのは、「相手にも事情があるのだから我慢しましょう」というメッセージではない。そうではなく、自分が今感じている違和感には、ちゃんと背景があるのだと知ってほしいと思っている。そして同時に、自分からは見えにくかった他の立場の現実にも、少しだけ視野を広げてほしいと思っている。
学生には、若手や中堅、管理者の世界が少し見えるように。若手には、自分のしんどさが「自分だけの弱さ」ではないとわかるように。中堅には、抱えてきた違和感を言葉にできるように。管理者には、現場とのズレが個人攻撃ではなく、構造から生まれていると捉え直せるように。看護管理室や病院経営にかかわる人には、自分たちの役割がどのように現場から見えているのかを、別の角度から考える手がかりになるように。
もしこの本が、一方的に個人の問題に帰結してしまいがちな気持ちを少しだけ和らげたり、「そういう見え方もあるのかもしれない」と立ち止まるきっかけになったり、あるいは、自分のしんどさを「自分のせい」だけにしないための言葉を手渡せたりするなら、これ以上うれしいことはない。
看護の現場には、優しさだけでは解決できない問題がある。努力だけでは越えられない構造がある。だからこそ必要なのは、誰かを悪者にすることではなく、何がどう嚙み合わなくなっているのかを、丁寧に見ていくことなのだと思う。
この本が、そのための小さな手がかりになれば幸いである。
目次
【一章 学生】
■なぜ学生は、病棟の「忙しさ」を過大に捉えて萎縮してしまうのか?
■なぜ学生は観察ポイントを「全部メモ」しようとするのか?
■なぜ学生は「失敗=終わり」と捉えて挑戦を避けるのか?
■なぜ学生は患者より「指導者の機嫌」を気にしてしまうのか?
■なぜ「〇〇さんに聞いて」と言うと、指示した人ではなく一番話しやすい先輩に聞きにいくのか?
【二章 若手看護師】
■なぜ若手看護師は退職代行を使ってでも辞めたいのか?
■なぜ若手は「評価されること」に敏感なのか?
■なぜ若手看護師は勤務調整に厳しく、「休み希望の通らなさ」に強く反応するのか?
■なぜ変化(ICT導入・効率化)には積極的なのに、人間関係には消極的なのか?
■なぜベテランの「昔はね」を聞くと心をシャットダウンさせるのか?
【三章 中堅看護師】
■なぜ中堅看護師は仕事ができるほど負担が増えてしまうのか?
■なぜ中堅看護師は「育成疲れ」を誰にも言えないのか?
■なぜ「あなたがいないと回らない」が負担にしか感じられないのか?
■なぜ中堅看護師は「不公平感」に敏感なのか?
■なぜ中堅看護師は、自分の限界より先に「病棟の限界」を心配するのか?
【四章 看護管理者】
■なぜ管理者同士で頼り合う文化が根づかないのか?
■なぜ管理者同士で「忙しい」の概念が嚙み合わないのか?
■なぜ師長は「悪者役」になりやすいのか?
■なぜ管理者は「同調圧力」から自由になれないのか?
■なぜ管理者は「評価業務」に疲弊してしまうのか?
【五章 看護管理室】
■なぜ看護管理室は「現場をわかっていない存在」と受け取られやすいのか?
■なぜ看護管理室の方針や基準は、現場にとって「負担」として立ち現れやすいのか?
■なぜ看護管理室は「守ってくれない存在」に見えてしまうのか?
■なぜ人員配置や育成方針の説明は、いつも「後出し」に感じられるのか?
【六章 病院経営層】
■なぜ現場は「経営視点を持ってほしい」と言っても響かないのか?
■なぜ病院経営層は中堅看護師をないがしろにしてしまうのか?
■なぜ経営層は看護師の「感情労働」を理解しにくいのか?
■なぜ安全と効率のバランスは「現場に委ねられる構造」になるのか?
■なぜ「患者ファースト」を掲げるほど財務が苦しくなるのか?
おわりに
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書籍情報
- ISBN:9784840491532
- ページ数:196頁
- 書籍発行日:2026年8月
- 電子版発売日:2026年7月21日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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