消化器内視鏡第38巻7号 自己免疫性胃炎2026

  • ページ数 : 112頁
  • 書籍発行日 : 2026年7月
  • 電子版発売日 : 2026年7月29日
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内容

自己免疫性胃炎2026

序文

序説 自己免疫性胃炎
Introductory remarks: Autoimmune gastritis

自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis:AIG)の歴史について,春間が詳細に記述している1)。1900年にFaberとBlochが悪性貧血症例の胃を病理組織学的に検索し,胃体部優位の萎縮性胃炎を認めることを明らかにした2)。その後,悪性貧血の症例で抗内因子抗体や抗胃壁細胞抗体といった自己抗体が発見され3, 4),悪性貧血の原因となる本疾患が自己免疫機序によって引き起こされることが明らかとなった5)。

AIGの類似語として「A型胃炎」という用語がある。Stricklandらは胃炎をA型胃炎とB型胃炎に分類し,A型胃炎の特徴として抗胃壁細胞抗体陽性,高ガストリン血症,無酸,胃体部を中心とした胃粘膜萎縮をあげ,それ以外のものをB型胃炎〔現在からみるとその多くがHelicobacter pylori(H. pylori)胃炎〕と定義した6)。一方,日本消化器内視鏡学会の附置研究会として「A型胃炎の診断基準確立に関する研究会」が設置され,AIGの新しい診断基準に関する提案が行われた7)。そのなかでAIGの病期を早期,進行最盛期(中期),進行終末期(終末期)の3期に分け,それぞれの病期における①血液検査所見(抗胃壁細胞抗体,抗内因子抗体,ガストリン値,鉄欠乏性貧血や悪性貧血),②内視鏡所見,③病理組織学的所見)の特徴を明らかにした7)。すなわち,AIGの臨床経過がほぼ解明され,従来A型胃炎といわれていた疾患はAIGの進行終末期に相当すると考えられる。

AIGが進行すると,胃底腺の萎縮によって無酸状態となり,そのfeedback現象で高ガストリン血症をきたす。そのため,胃粘膜内の内分泌細胞の増生や胃神経内分泌腫瘍(neuroendocrine cell tumor:NET,Randi分類Ⅰ型)がしばしば認められる。また,AIGの進行終末期には,分化型胃癌や胃腺腫が稀ならず発生する8)。さらにビタミンB12の欠乏により,悪性貧血や末梢神経障害が出現することがよく知られている。これに対して病期とは関係なく,AIGに慢性甲状腺炎やⅠ型糖尿病などの自己免疫異常による多腺性内分泌異常を合併することがある。

AIGに対する治療について,早期に診断しても積極的に治療介入している施設は皆無である。現在のところ,定期的に経過観察を行って腫瘍性病変は早期発見に努め,ビタミンB12欠乏症に対しては補充療法を行っているのが一般的である。一方,欧米ではかつて,ステロイド治療が有効であったという報告がある9)。本邦ではある学会のAIGに関する主題のなかで,筆者がAIGに対する治療介入の可能性について質問すると,3施設より突発性難聴などの別の疾患の治療目的でステロイド投与を行った症例においてAIGの改善がみられたとの回答があった。さらに会場より,ステロイド投与によってAIGはいったん改善するものの,ステロイドを中止すると再燃するため,近年欧米でもAIGに対する積極的な治療介入は行っていないとのコメントがあった。

AIGの病態と自然史がほぼ判明し,比較的早期の診断が可能になった現在,他の自己免疫異常による疾患と同様に,今後治療介入の可能性について模索していく必要がある。特に有効で安全な維持療法の確立が必須と考えられる。なお,H. pylori感染を合併しているAIGに対して除菌療法を行うと,胃体部胃炎が改善した報告10, 11)と逆に急速に胃粘膜萎縮が進展した報告12, 13)があり,AIGに対する除菌治療の有効性はcontroversialである。

文献

1.春間 賢:自己免疫性胃炎の疾患概念と診断基準.胃と腸54:957-961,2019

2.Chanarin I:Historical review: a history of pernicious anemia. Br J Haematol 111:407-415, 2000

3. Taylor KB, Roitt IM, Doniach D et al:Autoimmune phenomena in pernicious anaemia: gastric antibody. Br Med J 2 (5316):1347-1352, 1962

4. Jeffries GH, Sleisenger MH:Studies of parietal cell antibody in pernicious anemia. J Clin Invest 44:2021-2028, 1965

5. Mackay IR:Autoimmune serological studies in chronic gastritis and pernicious anaemia. Gut 5:23-26, 1964

6. Strickland RC, Mackay IR:A reappraisal of the nature and significance of chronic atrophic gastritis. Am J Dig Dis 18:426-440, 1973

7. 鎌田智有,渡辺英伸,古田隆久ほか:自己免疫性胃炎の診断基準に関する附置研究会からの新提案.Gastroenterol Endosc 65:173-182,2023

8. 池上孝治,蔵原晃一,大城由美ほか:自己免疫性胃炎を背景とした胃癌の臨床病理学的特徴.胃と腸59:47-61,2024

9. Jeffries GH:Recovery of gastric mucosal structure and function in pernicious anemia during prednisolone therapy. Gastroenterology 48:371-378, 1965

10. Müller H, Rappel S, Wündich T et al:Healing of active, non-atrophic autoimmune gastritis by H. pylori gastritis eradication. Digestion 64:20-39, 2001

11. Kotera T, Nishimi Y, Kushima R et al:Regression of autoimmune gastritis after eradication of Helicobacter pylori. Case Reg Gastroenterol 17:34-40, 2023

12. 角 直樹,春間 賢,浦田矩代ほか:H. pylori除菌療法後に急速に進展した自己免疫性胃炎の1例.胃と腸54:1053-1057,2019

13. Ihara T, Ihara N, Kushima R et al:Rapid progression of autoimmune gastritis after Helicobacter pylori eradication therapy. Intern Med 62:1603-1609, 2023


長野県立信州医療センター 赤松泰次
Taiji Akamatsu

目次

【総論】

・自己免疫性胃炎の疾患概念と診断基準……布袋屋 修

《Note》自己免疫性胃炎の診断に必要な自己抗体の知識……伊藤公訓

《Note》自己免疫性胃炎の発生機序と病因……岸野真衣子

・自己免疫性胃炎の病理……河内 洋

・自己免疫性胃炎の自然史―長期観察からの検討を含めて―……泉川孝一ほか

【各論】

Ⅰ.自己免疫性胃炎の内視鏡診断および診療

・自己免疫性胃炎の内視鏡診断―特徴的所見および病期診断……丸山保彦ほか

《Note》AIGの内視鏡所見の特徴である固着粘液とweb-like mucus(蜘蛛の巣様粘液)は何が違う?……金子裕明ほか

・Helicobacter pylori感染胃炎と自己免疫性胃炎との鑑別点とは?……鎌田智有ほか

《Note》Helicobacter pylori胃炎に併存する自己免疫性胃炎の内視鏡診断……小寺 徹ほか

《Note》Helicobacter pylori除菌により萎縮性胃炎は進行するのか?……伊原隆史ほか

・胃がん内視鏡検診における自己免疫性胃炎の取り扱い……青木利佳ほか

《Note》自己免疫性胃炎は胃X線造影検査で診断できるか【動画付き】……中島滋美

《Column》自己免疫性胃炎の治療は可能か?……春間 賢

Ⅱ.自己免疫性胃炎に生じる合併疾患

・自己免疫性胃炎にみられる悪性貧血……隅田ちひろほか

・自己免疫性胃炎にみられる過形成性ポリープ……福田昌英ほか

・自己免疫性胃炎に合併する早期胃癌……高須綾香ほか

《Note》自己免疫性胃炎に発生した胃底腺型腺癌……岩坪太郎ほか

・自己免疫性胃炎に生じる胃神経内分泌腫瘍……塙 悠佑ほか

《Topics》自己免疫性胃炎と口腔内細菌感染……岩田英里ほか

《Topics》自己免疫性胃炎のESD後に生じるポリープ様結節状瘢痕(PNS)に関して【動画付き】……山崎健路ほか

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書籍情報

  • ISBN:9784885638145
  • ページ数:112頁
  • 書籍発行日:2026年7月
  • 電子版発売日:2026年7月29日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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