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- 前頭連合野と作業療法 -脳科学の知識を臨床につなげる-
商品情報
内容
その働きを理解することは、作業療法士の関わりに「論理的思考」と「臨床的洞察」をもたらし、作業療法が人に変化をもたらす理由を明らかにする。
作業療法の領域は、身体・精神・小児・老年期など多岐にわたり、実践内容もさまざまです。では、作業療法が対象者の変化を導く理由は何か。――このような自他からの問いに対し、本書は脳科学の視点から一つの答えを提示しています。
それは、『作業療法の関わりには、脳の司令塔といわれている「前頭連合野が働きやすい環境」を整えるたくさんの技が詰まっている』(「はじめに」より)という点にあるということです。
本書ではこれを明らかにするため、基礎知識である前頭連合野の「構造と機能」「疾患との関連」と、実践面である「前頭連合野の機能を意識した作業療法の考え方」「実践」「評価」を詳述し、かつ両者を有機的に結びつける相互参照のページを丁寧に配置し、クロスして読むことで総合的かつ立体的な理解を得ることができる構成となっています。また最後の「解説」によって、前頭連合野の主要な機能の理解をより深めることができます。
本書は、作業療法の本質を「前頭連合野」という脳科学の視点から紐解くことで、その有効性と奥深さを明らかにするとともに、作業療法の関わりの背景を客観的視点から説明することを可能にする優れた一冊です。
序文
はじめに
なぜ「前頭連合野」と「作業療法」なのか
20数年前、私が「前頭連合野」を勉強してみたいと思ったきっかけは、当時臨床で担当していたAさんという方との出会いであった。
Aさんは、当時30代の統合失調症の女性の方だった。暴言・暴力行為がひどく、医療者、他の患者、そして家族からも疎まれる存在であった。そんなAさんと新人作業療法士だった筆者は、Aさんの希望に基づいて作業療法でワープロ(*今ではすっかり見かけなくなったWordのように文書が作成できる専用機)を一緒に行うようになった。Aさんの「できないです、私はだめです」という、自身を全否定するその思いに対して、どう対応したら良いか悩みつつ、①難易度を調整してできることを探し、②難しいことは行わず、③ワープロ日記を導入して、できていることと、できていないことを見える化し、④できていることを褒めて肯定し、思いや考えを受け止め、無下に否定しないといったアプローチを実施した。すると、Aさんの問題行動に一切介入することはなかったにもかかわらず、暴言・暴力行為は激減した。さらに、ワープロ自体にじっくり集中することが増え、自らやりがいや楽しさを見いだし、没頭するステージにまで上がっていった。ついには、ワープログループのリーダーとなり、仲間や周囲のことを考え、応援できる存在に変化していった。筆者がその職を離れることになった際には、「そのことって、先生にとって良いことなの?じゃあ応援するから先生も頑張って」と、爽やかな笑顔で送り出してくれた。
作業療法がこれほど人を変えるのかと強く実感した瞬間であった。同時に、Aさんの変化に対し、「どうしてこのような変化に繫がったのか」「なぜだろう、どのように説明したら良いのだろうか」という思いが強くなっていた。
その後、本格的に前頭連合野の機能を勉強し、研究し、様々な知見に触れてみると、Aさんの中で起こっていた変化は、作業療法士が「前頭連合野の働きやすい状況」を作った結果と考えることができた。教科書に載っていた「枠を設定する」といった関わりも、上司の「難しいことは行わず、できることからまずやってみよう」という言葉も、何をターゲットにしていたかと言えば、それは前頭連合野の機能が発現しやすい配慮や環境作りをしていたと説明できるように思えた。これらの配慮により、Aさんの前頭連合野がうまく働いたからこそ、「やりがい・楽しさ・充実感・没頭」「余計なことは気にならない」、さらには「相手の立場に立って考え、尊重できる」といった前頭連合野の機能が良く発現している状況に変化していったのではないかと理解することができた。
このように作業療法の関わりには、脳の司令塔といわれている「前頭連合野が働きやすい環境」を整えるたくさんの技が詰まっている。作業療法士自身があまり意識していなくとも、意図する方向性には、前頭連合野の機能を促すものが多いように思う。そして、前頭連合野が働きやすい配慮をし、環境を整えることは、対象者自身が楽しさややりがいを見つけ、日々の生活を自らでじっくり歩み始めていくという私たちが目指すゴールへの近道になるように思う。これらは、身体・精神・小児・老年期といった領域を問わずすべての作業療法に共通している。前頭連合野という「ヒトを人たらしめる領域」は、「人と作業」という最も人間らしい部分を大切にしている作業療法こそが大切にしたい領域である。また、前頭連合野が発現する機能は、私たち作業療法士が尊重する「対象者個々人の文脈、ストーリー、その人らしさ」を支える機能でもある。
そこで、本書では、第1章にて、前頭連合野の解剖学的および生理学的知識を解説し、第2章では、疾患との関連を解説することで、脳機能の知識の獲得とともに、前頭連合野という領域に興味をもってもらうことを目的とした。第3章では、第1章の内容をベースにし、①前頭連合野の働きやすい状況を整える作業療法のポイント、②前頭連合野の働きを高める作業療法のポイント、③前頭連合野を休ませる作業療法のポイントを解説した。そして、第4章では、3章で述べた内容を料理プログラムを通じて具体的に解説した。また、一般的な認知機能トレーニング等の説明も加えた。第5章では、前頭連合野に関わる評価を解説した。最後に、前頭連合野の主要な機能の理解を深めるための解説を専門家の先生に執筆頂いた。なお、実践面の知識から入りたい方は、第3章から読み進め、引用箇所で第1章や第2章の基礎知識を参照することを推奨する。
これらは、すでに作業療法場面で実施している内容で、目新しいことはないかもしれないが、前頭連合野というキーワードから見直すと、根拠ある取り組みとして日々のアプローチに自信を持って取り組むことができるようになる場合や、日々のプログラムの論理的な整理に繫がる可能性がある。また、新たな発見や関わりへのヒントになる可能性もあるように思う。よって、本書を通じて、①作業療法の関わりを神経科学的視点から紐解き、②神経科学的エビデンスに基づいた根拠ある作業療法の整理に繫げ、③これまで気づかなかったポイントへのヒントを獲得し、④日々の臨床において神経科学をベースにした論理的思考とその人らしさを尊重した作業療法の展開に繫げていく一助になれば幸いである。
なお、本書では、最新の論文の紹介というよりは、代表的論文やターニングポイントとなった論文、興味深い論文を引用している。また、「前頭連合野」というキーワードを全面に出して構成したが、本来、脳は様々な領域がネットワークの中で互いに協調し、神経伝達物質などの働きも含めた「システム」として働いている。最近は、むしろ単一領域にフォーカスするのではなく、こうしたネットワークやシステムとしての働きが注目されている。よって、こうした流れも踏まえつつも、『前頭連合野の機能を意識した作業療法の展開を目指す』手がかりとして、やや焦点化された構成内容であることを理解して読み進めていただけると幸いである。また、少し気が早いが本書を一読した後には「おわりに」を読んでいただけると幸いである。本書の内容をベースに“センスある作業療法士”を私なりに考察している。
竹田 里江
目次
第1章 前頭連合野の構造と機能(竹田里江・船橋新太郎)
1 前頭連合野の構造
2 ブロードマンの細胞構築学的脳地図
3 前頭連合野の働き
4 前頭連合野の3つの領域と入出力、情報の流れの特徴
5 前頭連合野背外側部(Area 46, 9)
6 眼窩部(眼窩前頭皮質Area 11, 47/12)
7 内側部(内側前頭連合野Area 8, 9, 10内側面~前部帯状回Area 24, 25, 32)
第2章 前頭連合野と疾患(竹田里江)
1 脳血管障害
2 頭部外傷
3 認知症
4 統合失調症
5 うつ病
6 注意欠如・多動症
7 自閉スペクトラム症
第3章 前頭連合野の機能を意識した作業療法の考え方(竹田里江)
1 前頭連合野の働きやすい状況を整える作業療法のポイント
2 前頭連合野の働きを高める作業療法のポイント
3 前頭連合野を休ませる作業療法のポイント
第4章 前頭連合野と作業療法の実践(竹田里江)
1 前頭連合野機能を意識した関わりを行う場合の例
2 前頭連合野の働きを意図したコアトレーニング
3 外的補助具
4 ストラテジートレーニング
5 認知リハビリテーション
第5章 前頭連合野に関する評価(竹田里江)
1 情報収集・観察
2 検査バッテリーを用いた評価の留意点
3 評価の実際
解説 前頭連合野の主要な機能の理解を深めるために(船橋新太郎)
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書籍情報
- ISBN:9784763995872
- ページ数:192頁
- 書籍発行日:2026年7月
- 電子版発売日:2026年8月29日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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