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- 各論2 高齢者の認知症におけるマルチモビディティを考える<高齢者マルチモビディティ パーフェクトガイド>
商品情報
内容
認知症は単なる脳の疾患ではなく、身体疾患や老年症候群、心理社会的問題などが複雑に重なり合うマルチモビディティの典型といえる。
本書は認知症を軸に、高血圧・糖尿病などの生活習慣病、フレイル、ポリファーマシー、社会的孤立といった関連要因を体系的に整理し、その相互作用や循環的な構造を解説。認知症を全人的に理解し、包括的な医療・ケアの実践につなげるための視点を提示する。
序文
本書のねらい
─ 序に代えて─「認知症のマルチモビディティ」という視点─
超高齢社会を迎えたわが国では,認知症はもはや特別な疾患ではなく,多くの高齢者医療・介護の現場で日常的に向き合うべき課題となっている.高齢化の進展に伴い,認知症患者数は今後も増加すると予測されており,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI )を含めれば,その対象はさらに広がる.認知症は単に記憶障害や判断力低下をきたす疾患ではなく,身体疾患,老年症候群,心理社会的問題,生活機能障害など,多様な問題が複雑に重なり合う状態として理解する必要がある.
近年,高齢者医療において「マルチモビディティ( multimorbidity )」という概念が重視されている.一般には,複数の慢性疾患を併せもつ状態を指すが,認知症においては,その意味はさらに広い.高血圧,糖尿病,脂質異常症,心血管疾患,慢性腎臓病といった生活習慣病だけでなく,うつ,不眠,転倒,フレイル,サルコペニア,感覚障害,ポリファーマシー,社会的孤立など,老年医学的課題が相互に関連しながら認知機能や生活機能に影響を及ぼす.つまり認知症とは,「脳の病気」だけではなく,全身性かつ社会的な問題として理解すべき時代に入ったのである.
認知症医療の現場では,単一疾患モデルでは説明できない症例に日常的に遭遇する.たとえば,糖尿病を有する高齢者では低血糖が認知機能低下を引き起こしうる一方,認知症が進行すると服薬管理や食事管理が困難となり,血糖コントロールがさらに悪化する.高血圧治療では,脳血管障害予防のための降圧が重要である一方,過度な降圧が高齢者の認知機能や身体機能に悪影響を及ぼす可能性もある.また,睡眠障害,難聴,うつ,フレイルなどは認知症の危険因子であると同時に,認知症の症状としても出現しうる.このように認知症と併存疾患との関係は,一方向ではなく,相互作用的かつ循環的である.
さらに重要なのは,認知症におけるマルチモビディティが,単に疾患数の増加を意味するわけではない点である.高齢者では,身体機能,認知機能,社会機能が互いに影響し合いながら低下する.たとえば,難聴によるコミュニケーション低下は社会的孤立を招き,身体活動低下やうつを介して認知症リスクを高める可能性がある.転倒や骨折は活動性を低下させ,フレイルや認知機能低下を進行させる.ポリファーマシーはせん妄や転倒リスクを高め,生活機能障害を悪化させる.したがって,認知症を理解するためには,「脳」だけではなく,「身体」「生活」「社会」を含めた包括的視点が不可欠である.
近年の研究の進歩により,認知症の病態理解も大きく変化している.アルツハイマー病では,認知症発症の数十年前からアミロイドβやタウ病理が進行していることが明らかとなり,「前臨床期」や「MCI due to Alzheimer’s disease 」といった概念が定着した.また,血液バイオマーカーや画像診断技術の進歩により,より早期から病態変化を把握できる可能性が広がっている.一方で,実際の高齢者ではアルツハイマー病理だけでなく,脳血管障害,レビー小体病理,加齢性変化,全身疾患などが複雑に重なっていることも少なくない.認知症のマルチモビディティを理解することは,こうした“ 複合病理” を理解することにもつながる.
認知症予防研究の領域でも,「マルチモビディティ」の視点は重要になっている.Lancet国際委員会では,高血圧,糖尿病,肥満,難聴,うつ,身体不活動,社会的孤立など,複数の改善可能な危険因子が提示されている.これらは単独で存在することは少なく,多くの場合,複数のリスクが重なり合っている.このため近年では,運動,栄養,認知トレーニング,社会参加,血管危険因子管理を組み合わせた「多因子介入」が世界的に注目されている.認知症予防とは,単に認知機能だけを対象とするのではなく,高齢者の健康全体を支える取り組みとして再構築されつつある.
本書『高齢者の認知症におけるマルチモビディティを考える』は,こうした背景をふまえ,認知症を「複数の疾患・病態・生活機能障害が重なり合う状態」として包括的に理解することを目的として企画された.各章では,認知症と関連する代表的疾患や老年症候群を取り上げ,疫学,病態,診断,治療,ケア,予防の視点から整理している.また,薬物療法やポリファーマシー,在宅医療,地域包括ケア,多職種連携など,現場で直面する実践的課題についても扱っている.
本書の特徴は,「認知症を中心に据えながらも,認知症だけを論じない」点にある.高齢者を全人的に理解し,認知機能だけでなく,身体機能,生活機能,社会背景を含めて診るという老年医学の視点を重視した.執筆を担当いただいた先生方には,それぞれの専門領域から,認知症とマルチモビディティとの接点について最新の知見を整理いただいた.
読者の中には,日々,認知症の人の診療やケア,介護に携わっている方も多いと思われる.認知症の人を支える現場では,認知機能障害だけでなく,身体疾患,フレイル,転倒,睡眠障害,栄養障害,ポリファーマシー,社会的孤立など,多様な課題が複雑に重なり合っている.さらに,個々の患者ごとに背景や生活環境が異なるため,日々新たな課題に直面しながら,それぞれの現場で工夫を重ねておられることと思う.
本書では,最新の知見をふまえつつ,実際の臨床やケアの現場で役立つ考え方や対応についても解説いただいている.読者の皆様が日常診療やケアの中で感じている,「なぜこのような症状が起こるのか」「どのように対応すべきか」「どこに注意すべきか」といった疑問に対して,本書が少しでも答えを示し,新たな視点を提供できることを願っている.ぜひ,日々の診療,ケア,介護の実践の中で本書を役立てていただきたい.
認知症の人を支えるということは,「病気」を診るだけではなく,「生活」を支え,「人生」を支えることである.マルチモビディティという視点は,そのための重要な基盤になる.本書が,超高齢社会における認知症医療・ケアの新たな方向性を考える契機となることを願っている.
2026年7月
櫻 井 孝
国立長寿医療研究センター研究所
目次
Ⅰ 高齢者認知症×マルチモビディティ
1.認知症の診断(武田章敬)
2.可逆性の認知機能低下(池田篤平,小野賢二郎)
3.認知症の行動・心理症状(小田原俊成)
4.軽度認知障害・認知症の臨床経過と療養上の課題(梅垣宏行)
5.認知症の生命予後と機能的予後:疫学的知見より(二宮利治)
6.多剤内服がある場合(溝神文博)
7認知症のリハビリテーション(大沢愛子,前島伸一郎)
Ⅱ 高齢者認知症のコモビディティとしての疾患を考える
1.糖尿病がある場合の診療の要点(杉本 研)
2.高血圧がある場合の診療の要点(山本浩一)
3.脂質代謝異常がある場合の診療の要点(芳野 弘)
4.肥満がある場合の診療の要点(浅原哲子,加藤久詞,石川実里)
5.低栄養がある場合の診療の要点(前田圭介)
6.喫煙・アルコール過剰摂取の診療の要点(西田裕紀子)
7.脳小血管病がある場合の診療の要点(佐治直樹)
8.CKD・腎不全がある場合の診療の要点(三輪佳織)
9.心不全がある場合の診療の要点(清水敦哉)
10.バランス・歩行障害(転倒)がある場合の診療の要点(吉田健太郎,鈴木正彦)
11.ロコモ(骨関節疾患)がある場合の診療の要点(酒井義人)
12.睡眠障害がある場合の診療の要点(木村成志)
13.聴覚障害がある場合の診療の要点(内田育恵,下野真理子)
14.嗅覚・味覚障害がある場合の診療の要点(下野真理子,内田育恵)
15.口腔疾患がある場合の診療の要点(渡邊 裕)
16.摂食嚥下障害がある場合の診療の要点(加賀谷斉)
17.下部尿路症状がある場合の診療の要点(野宮正範)
18.便秘・下痢がある場合の診療の要点(松浦俊博)
19.隔離を必要とする感染症がある場合の診療の要点(長永真明)
20.がんがある場合の診療の要点(栁川 まどか)
21.褥瘡がある場合の診療の要点(磯貝善蔵)
22.てんかんがある場合の診療の要点 (横井克典)
23.パーキンソン症状がある場合の診療の要点(杉江和馬)
24.頭部外傷がある場合の診療の要点(百田洋之)
25.うつ、アパシーがある場合の診療の要点(安野史彦)
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書籍情報
- ISBN:9784521751900
- ページ数:296頁
- 書籍発行日:2026年9月
- 電子版発売日:2026年9月25日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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