長寿時代の臨床倫理 高齢者医療・ケアの考え方と実践

  • ページ数 : 208頁
  • 書籍発行日 : 2026年6月
  • 電子版発売日 : 2026年10月6日
¥3,190(税込)
m3.com 電子書籍ポイント: 最大 58pt ( 2 %)
m3ポイント:1%相当
point-info
今すぐ立ち読み
今すぐ立ち読み

商品情報

内容

長寿社会において、ひとりひとりの高齢者を人として尊重し、それぞれの人生の物語りを尊重した医療とケアをいかにして提供できるか。臨床現場の医療・ケア専門職が知っておくべき理論と実践的な方法を丁寧に解説した好評テキストの第3弾。


【主要目次】
I 理論編
第1章 意思決定支援のあり方:臨床倫理を実践する(会田薫子)
第2章 長寿と医療(会田薫子)
第3章 「人生の最終段階」と“end of life”の考え方(服部ゆかり)
第4章 高齢者総合機能評価(CGA)を診療とケアの個別化に活かす(秋下雅弘)
第5章 高齢者のための安全な薬物療法(小島太郎)
第6章 誤嚥性肺炎とエンドオブライフ・ケア(小宮幸作)
第7章 保存的腎臓療法という選択肢(丹波嘉一郎)
第8章 老化が進んだ患者のためのがん治療のあり方(佐伯俊昭)
第9章 エンドオブライフにおけるcomfort feedingの考え方(山田律子)
第10章 認知機能が低下した多疾患併存状態の高齢者のための意思決定支援(斉藤凡ほか)
第11章 可能力アプローチに基づく意思決定支援の倫理(早川正祐ほか)
第12章 対話によるスピリチュアル・ケア(大賀由花ほか)
第13章 <情報共有-合意モデル>とアウフヘーベン(小原優吉)
第14章 人生の終わりをめぐる終わりのない対話(西岡千尋)
第15章 臨床現場で考える「尊厳」の意味(会田薫子)

Ⅱ 実践編
1.「カンファレンス用ワークシート」と「益と害のアセスメントシート」(会田薫子)
2.高齢者の抗がん剤治療(塗木京子)
3.がん治療に対して本人の意向が不明瞭ななか,家族間で意見の不一致がみられる場合(佐々木理衣)
4.高齢者の誤嚥性肺炎(千田一嘉)
5.気管挿管するか否か(渥美生弘)
6.腹膜透析が選択肢となる場合(北村温美)
7.高齢神経難病(ALS)患者のエンドオブライフ・ケア(髙道香織)
8.看取り期にある状態を家族が受け入れられないとき(三浦直子)
9.精神障害を有する高齢者の療養場所の選択に関する事例(戸田悦子)
10.独居高齢者が在宅で最後を迎えることを希望しているが、家族の理解が得られないとき:経度認知症で多疾患併存状態の場合(石田奈緒巳)
11.在宅看護介護を受けている多疾患併存状態の高齢者:安全な薬物療法のあり方とは(渡壁晃子)
12.血液透析の終了と看取り(田中順也)

序文

ま え が き

医療・ケア専門職は臨床現場における日々の仕事のなかで,患者/介護サービス利用者(以下,「本人」)のために「どうすべきか」と思い悩む場面に遭遇することが少なくありません.それが臨床倫理的な検討を要する場面です.それらの多くは,本人が直面する治療・ケアや療養場所などの選択・意思決定に関わります.多職種が医療・ケアチームとして協働することが求められている現在,臨床倫理的な諸問題に対してもチームとして対応することが求められています.本書は老化が進行した高齢者のための意思決定支援に焦点を当て,これらの諸問題に対応するための考え方と実践法を提供します.

日本は多くの人が長生きできる社会になりました.世界保健機関(WHO)によると,世界一です.しかし,医療技術が汎用されるなか,臨床現場では長命が長寿とはいえない事態に図らずも至ってしまうことがあります.医師は通常,「標準治療」を治療法の第一選択として勧めますが,「標準治療」はおもに一般成人を対象とした治験や臨床試験で得られたデータに基づいて確立されており,老化が進んだ身体に対しては過剰侵襲になる恐れがあります.それは本人を苦しめ,本人の苦しむ姿は家族をも苦しめます.そうした本人・家族の煩悶は,医療・ケアチームをも苦しめます.専門職が仕事の意義を見失うと,明日への意欲も低下しかねません.

他方,社会保障財政の逼迫が伝えられるなか,高齢者差別(エイジズム)によって高齢/超高齢者は十分な医療を受けることができないのではないかという懸念や,社会の経済格差の拡大のなか,過少医療に陥るのではないかという危機感も聞こえてきます.

そこで必要なのは,過剰でも過少でもない医療を提供するための考え方と実践法です.ひとりひとりの高齢者への適切な医療・ケアのあり方を判断するための方法を知ることで,老化が進行した人に対する最適な医療・ケアの選択とその実現を目指すことができます.

まず,暦年齢で一律に判断しないことが大切です.老化の程度は人によります.従来,「まだ70代だから積極的治療を」や「もう90代だから自然に」など,暦年齢による判断が一般的でしたが,この考え方は科学的ではありません.非科学的な判断は臨床倫理的にも不適切な判断のもとになります.

老化の進行に伴い,緩和ケアが一層重要になります.緩和ケアは痛みや症状の緩和を含め,本人の人生そのものを支える全人的なアプローチでQOL(quality of life)の維持・向上を目指す医療・ケアであり,21世紀初頭から基本的人権の一環として国際的に位置づけられています.緩和ケアは高齢者に対する医療・ケアの最適化のために必須とされており,日本老年医学会が高齢者医療・ケアに携わる専門職のための職業倫理として策定した「高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025」も緩和ケアの精神に基づいた医療・ケアの提供を謳っています.

しかし,日本では,緩和ケアは消極的な諦めの医療という誤解がいまだに少なくなく,これが最善の医療提供の障壁となっています.そこで本書では,改めて緩和ケアの精神で対応することの意義について,多分野の医学・看護学の専門家にご執筆いただいています.

本書は「I理論編」と「II実践編」から構成されています.「I理論編」では上述の課題に関し,各分野の第一人者が解説しています.また,哲学・倫理の研究を背景として,意思決定支援および対話に関して新たな探求の道を示す論考も掲載されています.これらは臨床倫理の地平をより広く深く拓こうとする学問的な挑戦であるととともに,伝統的な哲学・倫理の研究知見を現在の臨床現場で活かそうとする応用倫理の取り組みでもあります.

「II実践編」では,日本のさまざまな臨床現場において第一線で活躍しておられる臨床家と臨床経験豊富な大学教員に,高齢者医療・ケアをめぐって現場でありがちな倫理的ジレンマを抱えた11の仮想事例を提示していただきました.そして,臨床倫理プロジェクト(主宰:清水哲郎)の方法論を用いた臨床倫理カンファレンスの進め方について解説していただきました.臨床倫理プロジェクトの方法論は日本で独自に開発された臨床倫理の理論を基盤としており,カンファレンスのツールとして「カンファレンス用ワークシート」と「選択肢の益と害のアセスメント・シート」を用います.

臨床倫理の方法論は米国で開発された4分割法を含め世界で複数開発されていますが,国によって意思決定に関わる社会的文化的な特徴が異なりますので,諸外国で開発された方法論を用いる際には留意すべき点があります.例えば,米国では建国の歴史を踏まえ,個人主義・自由主義的な意思決定を重視する人が多くみられますが,日本は歴史上,家族主義的な考え方を重視してきましたので,現在の臨床現場においても家族が意思決定に深く関与することが一般的です.そのため,臨床倫理プロジェクトの方法論では家族についても位置付け,本人の意思を尊重しつつ現実的なよりよい着地点を見出すためにも,家族の気持ちや事情を理解し支援することも考慮しています.

また,社会は法・制度によって運営されており,意思決定には法・制度が深く関連します.臨床現場の意思決定に関わる法・制度は日本と諸外国では異なるところが多々あるので,諸外国のテキストや臨床実践の翻訳版を活用しようとする際には注意を要します.

従来,日本では,臨床倫理もそれに先行した医療倫理も生命倫理も,米国において主流であったアングロサクソン系のテキストや論文に依拠することが一般的でした.そのようななか,編者らの先行書『臨床倫理の考え方と実践──医療・ケアチームのための事例検討法』(清水哲郎・会田薫子・田代志門編,東京大学出版会,2022)では,医療・ケア専門職との協働で研究と実践を積み重ねて開発してきた日本生まれの臨床倫理について解説しました.1980年代から哲学者の清水先生が患者家族として遭遇した臨床の問いについて,看護部長でいらした石垣靖子先生らとともに探求し生成してきた理論です.倫理原則を含め同理論の基本については,基礎編である『臨床倫理の考え方と実践』に詳述されていますので,併せてお読みください.

第二弾の『ACPの考え方と実践──エンドオブライフ・ケアの臨床倫理』(会田薫子編,東京大学出版会,2024)では,日本の社会的文化的特徴と法・制度を踏まえた日本型ACP(advance care planning)の考え方について詳述しています.北米由来のACPは事前指示書の作成と意思決定代理人の指名を核とする事前指示制度を基盤としていますが,その制度を有しない日本では本人・家族と医療・ケアチーム間の対話のプロセスを一層重んじ,医療・ケア専門職は本人・家族を支援することを念頭に声をかけて対話につなぎ,本人が大切にしていることや人生観・死生観を把握し,将来の意思決定支援に役立てるよう勧めています.こうした対話のプロセスにおいて,医療・ケアチームが本人・家族と一緒に考え,悩ましさも共有するという姿勢をもって対応すると,信頼関係が次第に厚く構築され,決定した内容に関する納得感も生じると考えています.また,日本思想の研究知見を取り入れ,意思決定に関する日本人の思考の特徴を踏まえた日本型臨床倫理のあり方を模索している点も同書の特徴です.

本書は第三弾です.先行書の精神と研究知見を受け継ぎ,本書が日本人の考え方に合った馴染みやすい臨床倫理のテキストとして現場で活用され,高齢者の心身に負担をかけない意思決定支援の実現につながることを願っています.

臨床倫理は医療・ケアに関わる応用倫理分野のなかでまだ歴史が浅く,研究知見の蓄積は依然として限定的です.また,医療技術の進展や社会の変化に沿って継続的な研究・開発が求められる分野でもあります.私どもは今後も,志の高い医療・ケア専門職との協働で現場の倫理的諸問題に取り組み,研究成果を社会還元することによって,ひとりひとりの人権と尊厳を最期まで擁護する医療・ケアの実現を目指してまいりたいと思っております.

本書の分担執筆者の皆様には大変お忙しい本務の傍ら,ご執筆をお進めいただきまして,ありがとうございました.おかげさまで,理論と現場の往還の成果をこのように刊行することができました.心から感謝申し上げます.

読者の皆様のそれぞれの臨床現場において,本書が臨床倫理の実践に少しでもお役に立つことを心から願っています.


2026年5月

編者 会田薫子

目次

Ⅰ 理論編

1章 意思決定支援のあり方:臨床倫理を実践する(会田薫子)

2章 長寿と医療:緩和ケアの重要性(会田薫子)

3章 「人生の最終段階」と“End of Life”の考え方(服部ゆかり)

4章 高齢者総合機能評価(CGA)を診療とケアの個別化に活かす(秋下雅弘)

コラム1 5Msの考え方と活用について:過剰でも過少でもない医療・ケアの実現に向けて(山本浩一)

5章 高齢者のための安全な薬物療法:ポリファーマシーへの対策(小島太郎)

6章 誤嚥性肺炎とエンドオブライフ・ケア(小宮幸作)

7章 保存的腎臓療法という選択肢:緩和ケアの重要性(丹波嘉一郎)

8章 高齢者のためのがん医療:支持医療の重要性(佐伯俊昭)

9章 エンドオブライフにおけるComfort Feedingの考え方(山田律子)

コラム2 人工的栄養・水分補給法の選択に関する家族の苦悩(篠原真純)

10章 認知機能が低下した多疾患併存状態の高齢者のための意思決定支援(齋藤凡・会田薫子・大賀由花・田中順也)

11章 可能力アプローチに基づく意思決定支援の倫理(早川正祐・会田薫子)

12章 対話によるスピリチュアル・ケア:「もう生きていても仕方がない」と言われたら(大賀由花・会田薫子・齋藤凡)

13章 〈情報共有―合意モデル〉とアウフヘーベン(小原優吉)

14章 人生の終わりをめぐる終わりのない対話(西岡千尋)

15章 医療・ケアの現場における「尊厳」とは(会田薫子)

Ⅱ 実践編

1 臨床倫理カンファレンスの方法:「カンファレンスワークシート」と「益と害のアセスメント・シート」の使い方(会田薫子)

2 高齢者の抗がん剤治療:本人と医療者が最善とは考えない治療を家族が強く望む場合(塗木京子)

3 がん治療に対して本人の意向が不明瞭ななか、家族間で意見の不一致がみられる場合(佐々木理衣)

4 超高齢者の誤嚥性肺炎:離れて暮らす代弁者の1人が患者の状態を見誤ってしまっているとき(千田一嘉)

5 気管挿管するか否か:患者・家族との共同意思決定を目指すtime-limited trial(渥美生弘)

6 介護者の負担増加が、高齢者の真意に沿った透析療法選択の障壁となるとき(北村温美)

7 認知症を伴う高齢ALS患者のエンドオブライフ・ケア(髙道香織)

8 看取り期にある状態を家族が受け入れられないとき:comfort feeding onlyが選択肢となる場合(三浦直子)

9 精神障害を有する高齢者の療養場所の選択に関する事例(戸田悦子)

10 独居高齢者が在宅で最期を迎えることを希望しているが、家族の理解が得られないとき(石田奈緒巳)

11 在宅看護介護を受けている多疾患併存状態の高齢者:安全な薬物療法のあり方とは(渡壁晃子)

12 血液透析の終了と看取り:複数回のカンファレンスを通じた共同意思決定(田中順也・会田薫子・大賀由花・齋藤凡)

便利機能

  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応
便利機能アイコン説明
  • 全文・
    串刺検索
  • 目次・
    索引リンク
  • PCブラウザ閲覧
  • メモ・付箋
  • PubMed
    リンク
  • 動画再生
  • 音声再生
  • 今日の治療薬リンク
  • イヤーノートリンク
  • 南山堂医学
    大辞典
    リンク
  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応

対応機種

  • ios icon

    iOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:9.4MB以上(インストール時:24.2MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:37.4MB以上

  • android icon

    AndroidOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:9.4MB以上(インストール時:24.2MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:37.4MB以上

  • コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
  • コンテンツの使用にあたり、m3.com電子書籍アプリが必要です。 導入方法の詳細はこちら
  • Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
  • Androidロゴは Google LLC の商標です。

書籍情報

  • ISBN:9784130624275
  • ページ数:208頁
  • 書籍発行日:2026年6月
  • 電子版発売日:2026年10月6日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

まだ投稿されていません

特記事項

※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。

※コンテンツの使用にあたり、m3.com 電子書籍アプリが必要です。

※eBook版は、書籍の体裁そのままで表示しますので、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。