小児看護2025年7月号（48巻7号）研究をとおして小児看護を解き明かそう

特集にあたって

筆者は30数年前に病院外来で「看護外来」を始め，毎週10例ほど，こどもとその家族に遊びや対話を中心にした心理社会的ケアを行うようになって数年が経ったころ，ふと気がついたことがありました。それはアセスメントのための心理検査で，母親がこどもに対し，拒否的かつ服従するという相反する養育態度を同時に示していたということでした。当時筆者が担当していた，神経症性障害や適応障害で身体症状を訴えて不登校になっているケースに共通する特徴ではないかと考え，それまでに蓄積していたデータを分析し，学会で発表したことがありました。臨床実践から仮説を得て，データを収集して統計的に分析し，プロセスレコードから特徴のある内容を取り出して裏打ちするという一連の研究により得られた知見を，実践にフィードバックするというこのときの展開は，今ふりかえるとケアの質向上と筆者自身の研究志向に重要な役割を果たしたと思えます。

そもそも，こどもとその家族，さらにこどもを取り巻くさまざまな状況や環境，人々や組織，制度などの仕組みなどをとらえて，現況を把握し，種々の事象の関連を注意深く探索して明らかにし，解決策を考案し実行し，その成果を評価するという取り組みは，小児看護に携わるわれわれが日常的に行っている実践そのものであり，また研究のプロセスそのものなのです。さらに，実践と研究は相利共生の関係にあるといえるでしょう。実践のなかで研究的な視点をもつ，もしくは研究をとおして実践を支えることはきわめて重要なことなのです。

研究をとおして小児看護を解き明かし，発展させていくためには，実践とは異なる知識やスキルが必要になります。研究について書かれた書籍はたくさんありますが，初めて研究に取り組む人にとって，その内容は理解と活用という点では少し難しいものが多いように思います。かつて筆者自身も，研究をしようとして本を開いたとき，内容が絶望的に難解で打ちひしがれましたが，研究に精通している先輩教員に解説をお願いし，しつこいくらいに質問して何度も失敗を繰り返すうち，少しずつ理解度が高まっていきました。

本特集は「研究をとおして小児看護を解き明かそう」と題し，小児看護学領域で日々研究とその指導に携わっている先生方に原稿の執筆を依頼し，研究活動に関連する重要な内容について噛み砕いて，丁寧かつ具体的に説明していただきました。また，研究手法の指南書ではなく，研究活動に資する基盤的知識をまとめ，公表されている研究論文もしくは学会抄録を読み解くための手引きを目指しました。研究成果は同じ知の共同体に属する同志との対話のなかで醸成されるものです。まずは既発表の論文を読んで理解するところ，学会に参加して研究成果を把握するところから始め，そして次に自分の疑問を解き明かすことに挑戦してもらえればと考えています。

お忙しいところ本特集の原稿をご執筆いただいた先生方に衷心よりお礼を申し上げます。本特集が少しでも小児看護における研究の後押しとなれば幸いです。

塩飽　仁
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻
小児看護学分野教授