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- 超高齢者看護と看護倫理 倫理的課題をとらえなおす
商品情報
内容
❖安全を優先するあまりに,高齢者に行動をがまんしてもらう
❖高齢者の能力を低く見積もり,手厚い看護計画を立てる
❖意思表示は難しそうと判断し,高齢者の家族にだけじっくり話を伺う
高齢者や認知症のある人への看護・ケア場面で,このような対応をみかけることはありませんか。対象が成人患者であれば取らないであろう方法で,高齢者の看護・ケアにあたってしまう場面が,病棟や在宅,施設でみられているかもしれません。よかれと思った看護・ケアでも,倫理的視点から振り返ると,見直すべきかかわり・課題が浮かび上がってくる場合があります。
医学的対応に限らない,日々のケアにみられる日常倫理をとらえなおす。そのきっかけに,またその手引きに,本書をぜひお役立てください。
日本の高齢者の心身機能は向上しています。また疾病の治療効果は高まり,疾病があったとしても自己管理できるようになっています。いまや前期高齢者は成人後期といえなくもないでしょう。そこで本書では,85歳以上の超高齢者を老年期の特徴をもつ看護の対象であるととらえ,事例の分析や振り返りを行いました。
超高齢社会での看護・ケア場面に際して,エイジズム(年齢による差別意識),あるいは認知症の人に対する偏見や差別意識に基づく対応をしてしまっていないか,本書をご参考に,ぜひ振り返ってっっっっっっっっwみていただければ幸いです。
序文
はじめに
本書は,老年看護の分野での看護倫理について考え方を示す「総論」と,具体的な場面・事例を倫理という観点から紐解く「各論」の二部構成になっています。
日本の高齢者の心身機能は向上しており,今や前期高齢者は成人後期といってもよい時代です。つまり,老年看護の対象とすべきは後期高齢者でしょう。さらにいえば,70代では仕事をもち,社会的な活動を続けている人も多くなっています。また,疾病の治療効果が高まり,疾病があったとしても自己管理できるようになっています。そのため,加齢や疾病の影響を受け,いよいよ死が身近になってくるという老年期の特徴をもつのは85歳以上である超高齢者と考えます。そこで,本書の「各論」では超高齢者を看護の対象者として事例を執筆してもらいました。
超高齢者は脆弱性という特徴だけでなく,長年生きてきた経験と実績に立脚する心身の強靭性も併せ持つ複雑な存在と考えます。さらに,死が自然な経過となる超高齢者では,医学がこれまで重視してきた「生命を長らえること」が原則とはいえなくなります。がまんして治療すればよりよい状態になるとは限りません。治療が生命や生活を脅かすことさえあります。一方,治療の効果がないわけではなく,不確実性が増すことになります。ただ,治療の効果があって生命を長らえたとしても,苦痛を耐えつつ長期間生き続けることを超高齢者が望むでしょうか。超高齢者が死までの期間をどのように生きるかは,かかわる専門職の支援方針や支援のスキルにも左右されるのです。
「各論」の事例は,老人看護専門看護師に依頼し,日頃の実践のなかでよく遭遇する場面をもとに,倫理的な課題とその解決の筋道をわかりやすく記述してもらいました。その原稿の多くは,完成するまでに何回か手直しをしてもらっています。「倫理的葛藤を“ もやもや” と表現しているけれども,なぜ“もやもや”した思いが生じるのか」「それは本当に倫理の問題なのか」「倫理の問題だとするとどのような価値の対立なのか」と執筆者に問いかけ,考えてもらいました。そのやりとりのなかで,倫理的な課題という前に「超高齢者について多面的なアセスメントができていない」「アセスメントのための情報が不足している」と気づいたこともありました。また,“もやもや”という言葉には,倫理的な葛藤だけではなく,思うように看護が提供できなかった後悔・申し訳なさ・いらだち・怒りなど,さまざまな感情が含まれているように感じられました。
そういった感情やもつれた人間関係,隠された超高齢者や家族の思いなども探りながら整理していくことで,新たな気づきが得られます。それが倫理的な課題,つまり超高齢者と家族,そしてかかわる専門職たちの悩みの解決の糸口となるのです。超高齢者の場合,医学的にこうあるべき,あるいは一般的にこうすべき,という考え方ではうまくいかないことがあります。超高齢者の看護にかかわる倫理的な課題の解決には,一般論や感情論ではなく,論理的・客観的に事象を整理すること,そしてそれを他者・多職種で検討することが欠かせないと,原稿を読みながら強く感じました。
読者の皆さんには,まず「総論」で老年看護における倫理について知識を整理したうえで,「各論」の事例を批判的に読んでいただきたいと思います。批判的に読むとは,「なぜこのような事態になってしまったのか」「自分だったらこの場面でどのように助言するだろうか」「よりよい解決策はないだろうか」といったことを考えながら読むことです。事例を1つの教材として,職場の方々や学生たちと共に考えることもお勧めします。
そうして無意識のなかにあるエイジズム(年齢による差別意識),あるいは認知症の人に対する偏見や差別意識の存在,そしてそれらに基づく対応をしていないか,振り返ってみていただきたいと思います。この本をきっかけに,倫理的観点の見方,考え方の幅が広がり,超高齢者を看護する現場での倫理的な課題が解決に導かれることを願っています。
2025年5月
湯浅美千代
目次
Ⅰ章 総論
①老年看護と看護倫理
高齢者に対する認識と倫理的課題
さまざまな老年看護の場に生じやすい倫理的課題
②老年看護の場における倫理的課題をとらえ,解決するための基礎知識
高齢者の権利保障
意思決定支援
老年看護の場における倫理調整のためのアプローチ方法
③倫理的実践に向けた取り組み
倫理的感受性を高める看護師教育とその成果
超高齢者を看護するうえでの倫理的行動尺度の活用に向けて
倫理的課題にどのように向き合っていくか
Ⅱ章 超高齢者への看護場面にみられる倫理的課題
※本書掲載の事例はすべて架空の事例です
※事例内の患者例はすべて仮名であり実在しません
倫理的課題1 高齢者本人以外が優先される
夜間に眠れるようにするために,疲れていても日中は起こしておくほうが患者のためなの?
「ベッドに戻りたい」と訴えているのに…
症状が改善してきているのに,離床センサーを使い続けていいの?
本人も「監視されているみたい」といやがっているのに…
病院の規則を優先して,最期が近い終末期高齢者の望みに向き合わないままでいいの?
会いたいと願う人に会えないまま亡くなるかもしれないのに…
家族の意向が優先されて療養の場が決定されていいの?
本人の意向を聞き取っているのに…
摂取量を増やそうと全介助することが患者のためになるの?
時間をかければ自分で食べられる人なのに…
倫理的課題2 身体拘束
自己抜去防止の身体拘束が継続されていることに,誰も疑問を抱かないの?
本人ははずしてほしいと希望しているのに…
深夜,不穏状態だからと薬で眠らせたけれど,これって薬物による拘束じゃないの?
昼間も眠ってしまっているのに…
1人で行動しないことを強制できるの?
1人でも歩けるし,行動せずにはいられない人なのに…
倫理的課題3 高齢者本人の価値・自尊心を低めるスタッフの態度
一見反応がない高齢者に声もかけずに処置やケアをしてしまうのはどうして?
反応がない人へのコミュニケーションも意味があるのに…
親しみを込めて愛称で呼ぶことを,なぜ注意されなければならないの?
ケアがスムーズに進んでいるのに…
高齢者の身なりが整わないまま,ほかの人のいる場所に連れていくのはどうしてだろう?
自分だったらいやだろうに…
配偶者の死別を本人に伝えないのは誰のため?
認知症になって忘れてしまうことがあっても…
認知機能が低下してきた人が「自分でできる」と言っている。本人に任せたいけれど,任せられない。どうしたらいいの?
インスリン治療を行う糖尿病の自己管理には危険が伴うのに…
倫理的課題4 高齢者個々に適した医療・ケア提供への努力が行われていない
高齢者が理解できるように説明しないまま,治療を進めていいの?
救急治療の場だからこそ…
高齢者が痛みを訴えているのに治療・処置の方法を見直さなくていいの?
認知症があり判断力が低下しているからこそ…
家族と主治医だけで透析導入を決めてしまっていいの?
高齢者とはいえ,自分で判断できる人なのに…
家族から突然「透析中止」の意向が伝えられたけれど,本当にそれでいいの?
終末期とはいえない状態なのに…
倫理的課題5 本人の意思が反映されない決定
「受診はしなくていい」という本人の言葉どおりに対応することが,「意思の尊重」になるの?
状態が悪くなっているのに…
本人の意思を確認せずに胃瘻を造設しようとしているけれど,本当にそれでいいの?
意思疎通が図れるときもあるのに…
退院先の希望を本人に聞かないのはなぜ?
QOLに影響するのに…
独居生活を望む高齢者と,体調を心配し施設に入ってもらいたい家族との間で,どのようにかかわったらいいの?
本人は自宅でやりたいことがあるようだけれど…
倫理的課題6 介入されにくい・気づきにくい倫理的課題
高齢者・認知症というだけで「ケアが大変な人」と思い,ケア自体を避けたいと考えてしまうのはなぜ?
ほかの部署に押しつけようとしているのでは…
たくさんの人がいる外来の待合室で,プライバシーにかかわることを質問していいの?
高齢者だから恥ずかしくないわけじゃないのに…
介護の負担が大きいとわかっているのに家族の意向を確認しないまま自宅退院の方針を決めたけれど,それで大丈夫?
本人の意思は明確であるけれど…
在宅看取りの方針を決めるにあたって,家族について理解していただろうか?
本人の希望をかなえようとしたのだけれど…
延命治療を希望していない高齢のALS患者が状態悪化で搬送されてきたとき,救急外来でできることはあるの?
「延命治療はしなくていい」と表明していた人だけれど…
そのほかの想定される場面
清潔保持のため,シャワー浴を断る高齢者の意思を受け入れない
自分で更衣できる高齢者にも介助するよう指導される
食品の持ち込みや取り置きが禁止されているため,好みの食べ物を食べてもらえず栄養状態が改善しない
医療者の意向で退院後のサービスが決定される
高齢者が希望するからと,看護師にとって楽なケアを選択する
家族の要望により,自己摂取できる高齢者に全介助している
入院時に身体拘束具を準備し,前もって家族に拘束の同意を求めている
超高齢者の行動により同室者に不利益があるからと,薬物使用を検討している
危険だからと自由に出ていけないように自室に外から鍵をかけている
ナースコールが鳴っても対応せず,スタッフステーション内に連れてこられたまま放置されてよいのだろうか?
希望がかなわない高齢者から怒られ理不尽に思う
食事の後,衣服が汚れていてもそのままにしている
高齢者にがんの告知をしないよう家族が要望する
人の役に立ちたいという高齢者のニーズを満たしていない
高齢者の状況を考慮した対応ではないことをその看護師に伝えられない
看護師の感情が先立ち,高齢者の状況を考慮した対応をしていない
認知症の超高齢者に鎮痛薬が処方されない
安全な血液透析実施のために,毎回身体拘束が行われている
脳死状態となった超高齢者に対し,家族が延命治療・救命処置を希望している
家族の気持ちに配慮するために,在宅で終末期を過ごしたいという高齢者の望みがかなえられない
家族の同意によって,認知症の高齢者の意思を考慮せずに胃瘻造設が進められている
運動性失語の高齢者の意思を把握する努力をせずに胃瘻造設が進められている
家族も超高齢者自身も在宅療養の意向があるのに,主治医から施設入所を勧められる
認知症の妻の介護では心配と,本人と妻の意向に反した施設入所が勧められようとしている
食事を中断してしまう超高齢者に,「自分でできるかも」と思いながらも全介助している
外来での高齢者の排泄介助においてプライバシーが守られていない
受け入れの悪い家族と思い,自宅退院を選択肢に入れない
超高齢者は自宅退院を望むが,介護負担が増える高齢の配偶者が犠牲になりそう
BPSDを示す認知症高齢者の入院を継続できるか悩む
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書籍情報
- ISBN:9784867191170
- ページ数:192頁
- 書籍発行日:2025年6月
- 電子版発売日:2025年7月8日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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