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臨牀消化器内科 Vol.40 No.10 特集「ヘリコバクター・ピロリ診療update」
- ページ数 : 100頁
- 書籍発行日 : 2025年8月
- 電子版発売日 : 2025年8月18日
商品情報
内容
序文
巻頭言
Helicobacter pylor(i H. pylori)の発見とその臨床的重要性の確立は,20世紀後半の消化器医学における最大の成果の一つである.オーストラリアのWarrenとMarshallにより,この小さならせん桿菌が発見されてから約40年が経過した.H. pyloriは慢性胃炎,消化性潰瘍,さらには胃癌の発症に深く関与することが明らかとなり,消化器疾患の診断・治療のパラダイムは一変した.
日本では2013年に,H. pylori感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となったことで,H. pylori診療は飛躍的に普及し,胃がん予防を見据えた国民的医療戦略として定着した.以降10年余が経過し,除菌治療の普及とともに感染者は減少しつつあり,H. pylori診療は今,H. pylori陰性者の増加に伴う胃疾患の多様化を考える局面を迎えた.かつてはH. pylori陽性を前提に胃疾患を考えることが常識であったが,現在ではH. pylori陰性胃癌,陰性MALTリンパ腫,NSAIDs非関連消化性潰瘍など,陰性者における病態が日常診療で増加しており,新たな鑑別が求められている.とくに胃MALTリンパ腫では,H. pylori陽性例では除菌により8割が寛解する一方,陰性例では放射線治療が選択肢となり,治療方針が大きく異なる.胃癌においてもH. pylori感染なしでは胃癌発症はまれであることがいわれてきたが,近年ではH. pylori未感染胃粘膜から胃癌が発生するとの報告はまれではなくなった.また,H. pylori感染胃炎だけでは説明できない胃炎や病態として,自己免疫性胃炎やNHPH( Non‒Helicobacter pylori Helicobacter)感染胃炎などの報告も増えてきた.わが国の人間ドック受診者を対象とした疫学調査では,自己免疫性胃炎の罹患率は0.49%1),NHPH感染率は3.0%2)と報告されており,いずれも「まれな疾患」ではない.これら新たな胃炎の臨床的意義を把握することが,今後ますます重要となる.
2024年には,日本ヘリコバクター学会による8年ぶりのガイドライン改訂がなされた.初版(2000年)から第3版となる2009改訂版では,「H. pylori感染症」という疾患概念を確立し,感染者すべてが保険診療で除菌対象となる道を開いてきた.「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」は,2024改訂版も多数の新規エビデンスが収載され,実臨床での判断を支える実践的な内容となっている.ただし,保険診療制度と実際の臨床エビデンスとの間には,なお一定のギャップが存在する点にも留意が必要である.たとえば,クラリスロマイシン耐性菌の有無を事前に把握し,感受性に応じた除菌レジメンを選択することで除菌成功率の向上が期待されるが,現行の保険制度ではその実施に制約がある.また,除菌判定時に尿素呼気試験が判定保留域(2.5~5.0‰)となった際の対応は,いわゆる「泥沼除菌」を避けるうえで重要であるものの,これについても保険診療上の制限により柔軟な対応が困難となっている.したがって,保険診療上認められた診療行為と,エビデンスに基づいた医療との乖離を理解し,現場では柔軟かつ慎重な対応が求められる.
また,H. pylori診断技術の進歩にも目を向けるべきである.従来の迅速ウレアーゼ試験や尿素呼気試験,便中抗原検査に加え,近年では胃内液を用いた核酸増幅法が保険適用となり,培養を行わずにクラリスロマイシン耐性菌を検出できるようになった.この技術はとくに小児や初回除菌例において大きな意義をもち,今後の耐性菌対策の要ともなる.また,H. pyloriは感染症であるため,薬剤耐性菌の動向を継続的に監視することも重要であり,JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス)との連携も必要といえる.
さらに除菌後の胃癌発症との関連において,胃内マイクロバイオータ(microbiota)の構造変化が注目されつつある.基礎研究の進展により,除菌後の腸内・胃内細菌叢の多様性と発癌リスクの関係が示唆されており,今後の分子診断や予防戦略に新たな知見をもたらす可能性がある.
本特集では,H. pylori診療の現状と課題を多角的に取り上げた.H. pylori診療は胃がん予防,医療経済効果も含めて重要な分野でもある.本領域の最前線を捉え,臨床現場における診療の質の向上と,次世代のピロリ対策を考える契機となれば幸いである.
徳永 健吾
文献
1)Notsu T, Adachi K, Mishiro T et al:Prevalence of autoimmune gastritis in individuals undergoing medical check‒ups in Japan. InternMed 58;1817‒1823, 2019
2)Tokunaga K, Rimbara E, Tsukadaira T, et al:Prospective Multicenter Surveillance of Non‒H. pylori Helicobacter Infections during Medical Checkups, Japan. Emerg Infect Dis 31;1121‒1130, 2025
目次
【特集目次】 「ヘリコバクター・ピロリ診療update」
巻頭言/徳永 健吾
1 .H. pylori 関連疾患のパラダイムシフト/竹田 努,永原 章仁 他
2 .H. pylori 感染の診断と治療のガイドライン―2024 改訂版の変更点/下山 克
3 .H. pylori 保険診療の課題を紐解く/古田 隆久
4 .新たなH. pylori 診断法 ―胃内液を用いた核酸増幅(PCR)法/加藤 元嗣 他
5 .ピロリ菌専門外来の実際/小野 尚子
6 .H. pylori 薬剤耐性の現状 ―JANIS データを含めて/柴山 恵吾
7 .高齢者の除菌療法/河合 隆 他
8 .若年者除菌の今後の展開/半田 修 他
9 .H. pylori 感染胃炎と自己免疫性胃炎の関連性/伊藤 公訓
10.H. pylori 感染症とNHPH 感染症の相違 塚平/俊久 他
11.H. pylori 関連疾患と胃内マイクロバイオータの新展開/平井 美和,鈴木 秀和
〈トピック〉
胃の病原菌であるH. pylori 菌以外のヘリコバクター属菌(NHPH)の感染率などの実態を解明 徳永 健吾
連 載
「胃炎の京都分類」の使い方 第33 回 好酸球性胃炎の内視鏡所見/藤原 靖弘
「胃炎の京都分類」の使い方 第34 回 好酸球性胃炎は内視鏡的にどのように診断するのか/石村 典久
「見落とし症例から学ぶ胃癌内視鏡検査 症例7 病変と捉えるか,良性のヘマチンと捉えるか/平澤 欣吾
「講座」上部消化管腫瘍における患者紹介の極意/山本 頼正
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書籍情報
- ISBN:9784004004010
- ページ数:100頁
- 書籍発行日:2025年8月
- 電子版発売日:2025年8月18日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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