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精神科治療学 第40巻06号〈特集〉語り、ナラティブ、物語—その精神科臨床における機能と効用—

  • ページ数 : 108頁
  • 書籍発行日 : 2025年6月
  • 電子版発売日 : 2025年9月5日
¥3,190(税込)
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商品情報

内容

エビデンスの時代に「語り、ナラティブ、物語」の必要性・効用を探る。
患者さんとの対話から、生活が見えてくる。そして、訴える症状の背景を捉えることで、適切な診断や治療に結びつく。精神科臨床のさまざまな場面・局面において「語り」を考えてきた専門家が、独自の切り口で語る。「語り、ナラティブ、物語」の重要性を再発見する特集。

序文

特集にあたって

人はひとりひとり,自分の生を生きている。そこには意味があり,“自分の”生の物語がある。人は生きる中で語り,語ることで生きている。また,「語り」には様々なかたちがある。対話,問わず語り,一人語り,演説,証言,供述,等々。そのそれぞれに機能と効用がある。

医療もまた,「語り」を基盤として成り立っている。「語り」は,精神科臨床に限らず,医学全般の基盤の一つである。では,今日,“エビデンスの時代”にあって,「語り」(ものがたり,ナラティブ)の必要性,効用はどのように位置づけられるのか/位置づけられるべきなのか。また,ナラティブ・アプローチをはじめとする精神療法の諸学派において,「語り」はどのように用いられ,重視されているのであろうか。

今日,「電子カルテの画面ばかり見て,患者に向かって話さない医師」「睡眠と食欲のことばかり聞く(しか聞かない)ドリフ医者」が増えているのではないか,ということが言われている。そういった現状を乗り越え,エビデンスに基づいた医療(EBM)と相互に補完するものとしての「語り」(ものがたり,ナラティブ)について多面的に考えてみることにした。

本特集では,人が生きていくうえでの基盤,そして医療が成立するうえでの基盤としての「語り」について,精神科臨床に関連するさまざまな場面,局面において「語り」を考えてきた専門家に,それぞれの切り口から語っていただいた。その結果,最近取り上げられることが比較的多い「ダイアローグ」,「ナラティブ・アプローチ」をめぐる議論を含みつつ,より広範な領域についての論考が集まった。

*   *   *

本特集を編むにあたって編集子が意図したことが6 点ばかりある。

1 つには,「ダイアローグ」や「ナラティブ・アプローチ」といった,比較的目新しいトピックにとどまることなく,古くから精神医学が取り上げてきた事項や夙つとに知られてきた病態について,「語り」「物語」という切り口で論じることである。前田貴記論文が「自我論」を,田中克昌論文が「精神分析」を,岡島美朗論文が「慢性疼痛」を論じてくれた。

第2 に,議論を議論に終わらせず日常臨床に直結する,直截に言うならば“役に立つ”「語り」「物語」についても論じてもらった。古屋聡論文が「カルテ記載」を,廣瀬幸市論文が「事例研究」を取り上げてくれた。

第3 に,「語り手」についても目を向けることにした。語り手としての被害者についての萩原修子論文と松尾純子論文は,現場感にあふれた論考となっている。また,渡邊洋次郎論文は,そのまま被害者の直接の語りとなっている。

第4 に,隣接領域との関連と連携を視野に収めることである。今回はトピック的に,「エビデンスとナラティブ(EBM とNBM)」の関係を岸本寛史論文に,文化人類学ないし医療人類学における「エスノグラフィー」については高橋優輔・江口重幸論文に論じてもらった。

第5 に,比較的近年になって注目されてきた「ナラティブ・アプローチ」と「オープンダイアローグ」についても,やはり取り上げておく必要がある。それぞれ森岡正芳論文と浅井伸彦論文が議論を展開してくれた。

そして6 番目の観点として,そもそも「語り」「物語」を成立させているもの,あるいはそれらの成立を阻むものは何かという根本的な問いに,斎藤環論文と小林聡幸論文がアプローチしてくれた。今回も執筆者諸氏のご協力とご健筆に深く感謝する次第である。

実は,語り残した問題がある。他ならぬ精神科医の語りである。精神科医がその語り──臨床の中での,あるいは自らの生活の中での──を,萎縮せずに語ることの意味と方法論についてである。このことについては編集子自身の今後の課題とするとともに,読者諸氏の内省と発展を期待する。本特集がそのためのお役に少しでも立てば幸いである。

*   *   *

残された紙幅で,「語る」こと,「生きる」ことを奪われた人の「物語」について書いておきたい。ナチ政権下の精神病者殺戮の被害者の一人である,17歳の少女アンナ・レーンケリング(AnnaLehnkering)の伝記が,死後70余年を経た2012年になって出版された。著者はジグリット・ファルケンシュタイン(Sigrid Falkenstein)というノンフィクション作家で,アンナの姪にあたる人である。

ジグリットはある日仕事で公文書を見ているとき,そこに偶然自分の叔母であるアンナの名前を見つけた。その叔母についてジグリッドは,自分が生まれるずっと前に若くして死んだ,ということしか知らなかった。改めて父親(アンナの兄)に尋ねてみたが,父親が覚えていたのは,「可愛い妹だった」,「自分は妹と一緒に遊ぶのが大変好きだった」という,たったの2 点だけだった。ジグリットは失われたアンナの物語を再生することを決意した。

ジグリッドはまず,アクセス可能な公文書,データベースから,アンナについての記録を採集していくことを始めた。データベースで見つかったのは,ほとんどが人名や地名や日付を羅列したリストだった。しかし,その無名性のデータの塊からジグリッドは,徐々に叔母アンナの足跡(シュプールSpur)を根気強く再構成していった。その結果,拘束されてからのアンナはどの時点でどこの収容所にいたのか,一緒にいた多数の収容者はどのような名前の人たちだったのか,そして終末殺戮施設であるハルトハイムに移送された日時,さらにはその“最後の日”を特定することに成功した。げに無名性のデータの塊は,固有の名前と顔を持ち,かけがえのない人生を生きた,個人のデータとして再生したのである(Falkenstein, S. :Annas Spuren : Ein Opfer der NS─ ,,Euthanasie“.Herbig Verlag, München, 2012.)。

苦労してこのような仕事を成し遂げたところで,犠牲者の命は還らない。アンナの生なまの語りが現代に生きるわたしたちに届くことはない。それでも編集子がこの話をここで持ち出したのは,「語り」「物語」を扱うには,ひとりひとりの人間の生せいの物語を思いやる想像力なくしては,他人の「語り」が私に届く,ということがないと思ったからである。読者諸氏におかれては,どのような考えをもたれるであろうか。


岩井 圭司

目次

【特集】語り,ナラティブ,物語─その精神科臨床における機能と効用─

・特集にあたって  岩井圭司

・語りを促すもの,阻むもの  斎藤 環

・ナラティブ・アプローチの立場と基盤─科学的思考と個人の体験のはざまで─  森岡正芳

・一人語り,独白,問わず語り─それは頓挫した対話なのか?─  小林聡幸

・ことば遣いの身体性の自覚─譚ものがたりを織り上げる力を自在にするための二つの論理(質の論理と量の論理)─  前田貴記

・ナラティブとカルテ  古屋 聡

・精神科で痛みを語ることの意味  岡島美朗

・語りと対話─ナラティヴやオープンダイアローグから考える精神科臨床─  浅井伸彦

・「お話し療法」としての精神分析  田中克昌

・エビデンスとナラティブ,EBMとNBM  岸本寛史

・ナラティブ─変わり続ける世界と自分─  渡邊洋次郎

・被害者の語り,サバルタンの語り─トラウマの視点を含めて─  萩原修子

・語られない〈原爆の語り〉をナラティヴとして聴く  松尾純子

・臨床エスノグラフィー─臨床精神医学と人間科学の架橋にむけて─  高橋優輔,江口重幸

・語りの主観性と客観性─事例研究において─  廣瀬幸市

研究報告

・サービス提供量の多いケースマネジメント対象者の特性とサービス内容─精神科外来医療における調査から─  長谷川直実,小池純子,山口創生 他

臨床経験

・白血球減少によりclozapineを中止した結果,カタトニアを呈した1例  黒下彰喜,根本清貴,須藤真紀 他

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書籍情報

  • ISBN:9784002204006
  • ページ数:108頁
  • 書籍発行日:2025年6月
  • 電子版発売日:2025年9月5日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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