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- 精神科治療学 第40巻07号〈特集〉精神科領域のガイドラインの作り方と使い方
商品情報
内容
精神科の臨床では多様な患者背景や症状を踏まえて個別に対応する必要があり、ガイドラインの利用には工夫が求められる。本特集では、主なガイドラインを取り上げ、それらの意義を整理するとともに、患者に合わせて柔軟に活用するにはどうすればよいかを解説。最新のガイドラインを適切に使いこなすための特集。
序文
特集にあたって
近年,精神科診療における診療ガイドラインの重要性は一層増している。診療ガイドラインはエビデンスに基づく医療(EBM)を促進し,臨床判断の質的向上をもたらす。一方,精神科領域では患者背景の多様性,症状の異質性,文化的・倫理的要素の複雑さなどから,ガイドラインの適用には特有の柔軟性が求められる。実際,心理療法の評価やプラセボ効果の存在,ランダム化比較試験(RCT)の困難さといった精神科特有の事情があり,エビデンスの構築が難しい領域も少なくない。このため精神科診療ガイドラインの作成と活用には独自の工夫が必要である。また近年,ガイドラインが医療訴訟において医師の過失を判断するための資料として引用されることも増えているが,本来ガイドラインは医師の判断を支援するものであり,その本質を正しく理解し,個々の患者の状況や価値観に応じて柔軟に適用する姿勢が重要である。
臨床現場では,ガイドラインに接するなかで多くの疑問が生じる。ガイドラインはどのようなプロセスで作成されるのか。実際に使用する際には,どのように解釈して臨床判断を下せばよいのか。常に準拠しなければならないのか。さらに近年では患者や家族といった当事者が作成プロセスに参画するケースも増えているが,それにはどのような意義があるのだろうか。また,臨床的な判断でガイドラインから逸脱した場合,医師は責任を問われるのだろうか。本特集「精神科領域のガイドラインの作り方と使い方」は,こうした疑問に応えつつ,ガイドラインの基本的な意義や背景を整理し,作成方法や活用法を多角的に検討するものである。
まず本特集では,ガイドライン作成の標準的手法であるMinds のフレームワークやGRADE アプローチについて概説している。特にGRADE アプローチはエビデンスの質評価,利益と害のバランスの考察を体系的に行うもので,国際的な標準として広く採用されている。本特集ではその具体的方法を詳述し,作成の実際について理解を深める機会としたい。また最新の精神科診療ガイドラインの特徴や動向を紹介し,国内の最新情報を体系的に把握できる内容を提供している。エビデンス評価の手法としては,システマティックレビューやメタアナリシスなど定量的手法に加え,臨床経験や専門的知識を活用するナラティブレビューの役割についても検討した。システマティックレビューやメタアナリシスはエビデンスレベルが高い手法として,例えば現在進行中のうつ病治療ガイドライン改訂でも中心的役割を担っている。一方,ナラティブレビューはエビデンスが乏しい領域や複雑な臨床状況で質的文脈を補完し,定量的手法と相補的に機能してガイドラインの質を高めることが期待される。さらに本特集の「コラム」では,患者や家族といった当事者,看護師,臨床心理士,作業療法士,精神保健福祉士など多職種の参画についても論じている。患者・市民参画は国際的にも標準基準であり,日本のMinds でも推奨されている。精神科領域でも多様なステークホルダーの参画により,より臨床現場に即したガイドラインとなり,現場での受容性が高まることが期待される。本特集のコラムを通じて,その具体例と意義を理解していただければ幸いである。
また,診療ガイドラインと臨床実践の間に存在するギャップ(guideline─ practice gap)の課題にも触れている。臨床現場では,患者の個別的事情によってガイドライン通りの診療が困難な場合もあり,そのギャップを正しく理解し,教育的アプローチやリビングガイドライン導入などの対策を講じることが重要である。さらに精神科診療ガイドライン特有の限界についても検討を加えている。精神科領域では,エビデンスが不十分な領域での推奨設定の難しさや迅速な更新・改訂の困難さ,現場との乖離といった課題が存在する。精神病理学的視点からは,診断カテゴリーの多くが理念型にとどまり,実在性の裏づけが乏しいという根本的な問題も指摘されている。身体医学と異なり,精神科領域では客観的な診断基準が乏しく,疾患定義自体が曖昧であるため,その特性上ガイドラインもある程度の曖昧さを許容して作成せざるを得ないのである。このような方法論的限界や診断学的基盤の脆弱性を考慮すると,精神科診療ガイドラインを身体医学と同じ水準で画一的に適用することには慎重であるべきだとする指摘は的を得ていると言わざるを得ない。実際の臨床経験に照らしても,精神科領域では患者個々の病態や体験世界への深い理解に基づいた柔軟な対応が不可欠であり,このような批判的視点を持ってガイドラインを活用することが,より豊かな臨床実践と医療の質向上に繋がるであろう。
本特集が精神科診療ガイドラインへの理解を深め,日々の臨床現場での適切な活用を促す契機となることを期待する。最後に,ご多忙のなか貴重なご寄稿をいただいた執筆者の諸先生方に心より感謝申し上げる。
戸田 裕之
目次
【特集】精神科領域のガイドラインの作り方と使い方
・特集にあたって 戸田裕之
・精神科診療ガイドラインの意義と課題─歴史的背景も踏まえて─ 尾崎紀夫,奥村啓樹
・最新の診療ガイドラインの特徴 内海智博,渡辺範雄
・ガイドラインの法的意義と臨床実践への影響 木ノ元直樹
・EBMと診療ガイドライン─うつ病診療ガイドラインを中心に─ 岸 太郎
・診療ガイドラインにおける「ナラティブレビュー」─その特徴と意義について─ 小笠原一能
・うつ病治療ガイドラインの患者・家族向けガイド作成における経験と意義 坪井貴嗣
・「統合失調症薬物治療ガイドライン2022」の特徴と臨床での使用方法 樽谷精一郎,金沢徹文,稲田 健
・「日本うつ病学会診療ガイドライン 双極症2023」の特徴と臨床での使用方法 新井久稔,松尾幸治
・「社交不安症の診療ガイドライン」の特徴と臨床での使用方法 朝倉 聡
・「精神疾患を合併した,或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド」の特徴と臨床での活用 鈴木映二
・うつ病診療ガイドライン2025大改訂の概要 加藤正樹
・「ヘルスケアサービス利用者・事業者も使用可能な認知症に対する非薬物療法指針」の特徴と活用方法 數井裕光
・精神科診療における診療ガイドラインの限界と課題 仙波純一
・精神病理学的視点から見た治療ガイドラインの問題について 古茶大樹
・ガイドラインの普及と実装 稲田 健
<コラム>
・「統合失調症薬物治療ガイドライン2022」作成における多職種・当事者の参画とその意義 武市尚子
・「日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023」作成における多職種・当事者の参画とその意義 黒沢雅広
・ガイドライン作成を経験して見えた多職種連携の可能性─心理職の立場から─ 越川陽介
・「ヘルスケアサービス利用者・事業者も使用可能な認知症に対する非薬物療法指針」作成における多職種・当事者参画とその意義 數井裕光
臨床経験
・Sodium picosulfateの服用中止後に便秘が改善した1例 佐藤つかさ,濱田洋大
連載
〔心に残る症例〕
・被災十余年を経て今,福島で交代人格に出会う 本間(照井)稔宏
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書籍情報
- ISBN:9784022004007
- ページ数:120頁
- 書籍発行日:2025年7月
- 電子版発売日:2025年9月5日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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