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臨牀消化器内科 Vol.40 No.11 腸内細菌研究の最前線 ―社会実装へ向けて

  • ページ数 : 104頁
  • 書籍発行日 : 2025年9月
  • 電子版発売日 : 2025年9月18日
¥3,300(税込)
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商品情報

内容

本特集では、腸内細菌叢研究の最前線をテーマに、基礎から臨床、さらには社会実装に至るまで、多岐にわたる最新の知見を取り上げた。かつては「腸内の常在菌群」に過ぎないと捉えられていた腸内細菌叢が、現在では全身の健康や疾患に深く関与する「共生臓器」として認識され、医学・生命科学の研究領域において急速に存在感を高めている。

序文

巻頭言 腸内細菌研究の最前線


次世代シークエンサーの普及により,腸内細菌叢のメタゲノム解析が可能となり,細菌叢の構成や遺伝子機能の詳細が明らかになってきた.とくに,疾患に伴う腸内環境の変化,すなわちdysbiosisとの関連が多数報告されており,疾患との因果関係を追究する研究も進展している.その成果は,生体の恒常性維持にとどまらず,多様な疾患の発症や進行機序の解明,さらには新たな治療法の創出へと結びつきつつある.

腸内細菌叢は免疫系の発達や恒常性維持に深く関与し,とくに幼少期における腸内環境の形成が将来的な健康に大きな影響を及ぼすことが示されている.出生様式,母乳栄養,離乳時期,抗菌薬の使用など,腸内細菌叢の初期形成に関与する因子は多岐にわたり,これらは成人型腸内細菌叢への移行に決定的な影響を与える.3歳頃までに形成された腸内細菌叢の質的・量的異常は,成人期以降の疾患リスクとも関連することから,この時期の腸内環境を良好に保つことは,生涯にわたる健康戦略上,きわめて重要である.

腸内細菌は大腸癌の発症とも深い関連をもつ.乳酸菌や食物繊維を用いた臨床試験では,前癌病変である腺腫の発生抑制効果が報告されている.さらに,乳酸菌の長期投与による体重減少の抑制効果や,便中Enterococcus属が豊富な群で腫瘍発生が少ないことも明らかとなった.これらの知見は,予防医学的観点から腸内細菌叢の活用可能性を示唆している.

肝臓は腸管と門脈系で直接つながる臓器であり,腸内細菌叢やその代謝物,細菌由来成分(PAMPs)の影響を強く受ける.dysbiosisに伴う腸管透過性亢進(leaky gut)は,肝炎や肝癌の進展因子となる可能性が示されており,プロバイオティクスやプレバイオティクス,さらにはファージ療法や微生物コンソーシアといった新規介入法への期待が高まっている.

神経変性疾患であるパーキンソン病(PD)では,腸管神経叢が病変の起点となる可能性が指摘され,腸内細菌叢の変化がαシヌクレインの異常蓄積や脳内炎症に関与することが示唆されている.自己免疫疾患である関節リウマチ(RA)においても,特定菌種の増減が炎症や免疫異常と関連することが報告され,腸内細菌由来代謝物の治療的意義が注目されている.

また,肥満や2型糖尿病などの代謝性疾患においても,腸内細菌の関与が明らかとなった.これらの疾患では,短鎖脂肪酸やインドールなど腸内代謝物の変化が,ホルモン分泌,炎症,インスリン感受性に影響を及ぼすことが判明している.食事療法,運動,薬剤療法といった臨床的介入が腸内環境に作用し,その効果を発揮するという視点は,今後の治療戦略に新たな示唆を与えるものである.

日本人の腸内細菌叢に基づき,五つの「エンテロタイプ」が提唱されており,なかでもビフィズス菌が優位なType Dは日本人特有のものである.生活習慣病や機能性消化管障害との関連も示されており,「腸内細菌遺伝子マーカー」による疾患リスク評価法の確立が進みつつある.これは非侵襲的で迅速な診断ツールとしての臨床応用が期待される.

炎症性腸疾患(IBD)においても,腸内細菌叢は病態形成の中心的因子として注目されている.臨床研究では,IBD患者に特有のdysbiosisが認められ,動物モデルにおいては,幼少期のdysbiosisが将来的なIBD発症の引き金となる可能性が示されている.近年では糞便微生物移植(FMT)をはじめとした細菌叢を標的とする治療法が検討されているが,標準治療としては未だ確立されていない.この分野の研究進展はバイオベンチャーや製薬企業の参入を促し,2022年には再発性Clostridioides difficile感染症に対する糞便微生物製剤(FMP)が海外で承認された.日本でも潰瘍性大腸炎に対し,FMTが先進医療Bとして導入されている.

われわれは,乳酸菌由来の長鎖ポリリン酸が腸管バリア機能を増強することを発見し,臨床試験にて潰瘍性大腸炎に対する治療効果を明らかにした.また,乳酸菌由来のferrichromeやheptelidic acidに高い抗腫瘍効果があることも見出した.現在,これらの菌由来分子について,大量合成法の確立や安定化製剤の開発を進めるべくバイオベンチャーを設立し,臨床応用の実現に向けた研究開発を加速している.

腸内細菌叢は,単なる消化器内の細菌群ではなく,全身の健康と疾患に深く関わる「共生臓器」として捉えるべき存在である.本特集では,腸内細菌叢に関する最新の研究成果から臨床応用,さらには社会実装に至るまでの広範な話題を取り上げた.今後のマイクロバイオーム研究が,個別化医療および予防医学の実現に貢献することを強く期待する.


Guest editor 藤谷 幹浩

目次

【特集目次】 「腸内細菌研究の最前線-社会実装へ向けて」

巻頭言 腸内細菌研究の最前線/藤谷 幹浩

1 .総 論

(1)腸内細菌叢による宿主の生理・病態への関与/大野 博司

(2)小児期の腸内細菌叢の形成/赤川 翔平,金子 一成

2 .腸内細菌と疾患

(1)腸内細菌叢と炎症性腸疾患/三好  潤 他

(2)腸内細菌と大腸腫瘍/石川 秀樹

(3)腸内細菌と肝疾患/冨田 謙吾,穂苅 量太

(4)腸内細菌と神経疾患 ―パーキンソン病/大野 欽司

(5)腸内細菌と膠原病/米田 勝彦,三枝  淳

(6)腸管内代謝を応用した肥満糖尿病の治療戦略/上村 瑞葵,入江潤一郎

3 .社会実装・リスク評価

(1)腸内細菌叢タイプと疾患/髙木 智久 他

(2) 腸内細菌遺伝子マーカーによる消化器疾患のリスク評価とその臨床応用/藤井  匡,廣岡 芳樹 他

4 .社会実装・新規治療

(1)菌由来分子の臨床応用/小西 弘晃 他

(2)生きた腸内細菌製剤の臨床応用/金  倫基

(3)実装化に向けた潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌叢移植療法/石川  大

連載

見落とし症例から学ぶ胃癌内視鏡検査 症例8 再検査,ESD後フォローでも見落とされた病変/須藤理佐子,草野  央 他

「胃炎の京都分類」の使い方 第35回 残胃胃炎とは/村尾 久 他

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書籍情報

  • ISBN:9784004004011
  • ページ数:104頁
  • 書籍発行日:2025年9月
  • 電子版発売日:2025年9月18日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:2

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