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- 実践&実戦 rTMS療法うつ病編
商品情報
内容
従来の治療法で良くならない長引くうつ病への新たな治療の選択肢として注目度が高まっているrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)療法。rTMS療法は、頭に密着させた専用の器具から磁場を発生させ、特定部位の神経細胞を繰り返し刺激して、うつ病による症状を改善させる治療法であり、2019年に保険適用となっている。本書はrTMS療法の豊富な経験をもつ著者が、その魅力や効果をさまざまな症例を紹介しながら興味深く解説した待望の書である。精神科医はもとより、この新たな治療選択肢に興味を抱く当事者、家族、そしてうつ病の問題に関わる全ての方々に!
序文
はじめに
最近はそうでもないが,若い頃に初対面の人に自己紹介をすると, 2通りのパターンがあることに気づいた。「精神科医として働いています」と言った瞬間,あからさまに敬遠するような態度を取るか,逆にすごく興味を持った態度に変わるかである。敬遠しようとするのは,この人物(筆者)に下手に話をすると,自分の内面を見透かされるような気がするからであろう。もちろん筆者は霊能力者でも超能力者でもないので,そんなことができるはずもないし,そもそも初対面の人への関心はそれほど高くない。そして妙に興味を抱く人の心情の根底には,「なんでわざわざそんな仕事を選んだのか,そこにはきっと何か大きな理由があるはずだ」との妄想的(?)発想による好奇心があるのではないかと勘繰ってしまう。あまりにもそういう例が続くので,大概そんな時には「いや,何となく」とか,「仲のよい友達に誘われたので」と言って適当にごまかすことにしていた。
しかし改めて自分で振り返って考えると,「不思議なことがたくさんありそうだから」と感じたことがこの道に入った正直な気持ちに一番近いかもしれない。確かに子ども時代,テレビで時々放送される「空飛ぶ円盤」の話に興味を持ってよく観ていた記憶がある。エーリッヒ・デニケンという作家が「地球上に残る謎の古代文明の多くは宇宙人が作った。そうでなければ,古代の未開の人間にピラミッドのような優れた建造物を作れるはずがない」と主張していたので,自分でも「なるほど」と感じ入って一時期それを信じるようになり,ピラミッドの地下に円盤が隠されているミステリー雑誌のイラストに強く惹かれたこともあった。しかし次のように考え直してオカルトチックな世界からは足を洗った。「なるほどピラミッドを作ったのは古代エジプト人ではなく,M30星から来た宇宙人だったとしよう。実はそのM30星にも同じようなピラミッドがあるが,古代M30星人は未開のため,それを作れない。本当にそれを作ったのは実はM31星から来た宇宙人であった。そしてM31星人の星にも古代のピラミッドがあるが,それを作ったのは文明の進んでいたM32星人であった……」。こういう物語展開を無限後退と呼び,その原因は最初の説明が間違っていることを意味する。
では正しい答えとはいったい何であろうか。科学者であり哲学者でもあるトーマス・クーンが唱えた「パラダイム・シフト」が起こったのである。累積的に蓄積されてきた技術の延長ではなく,全く新しい枠組みでの技術開花が突然に起こることを指す。そう,古代エジプトにおいてピラミッド建築に関わった集団が試行錯誤していく中,それまでの既成概念を超えた新しい技術体系が生まれた。その結晶として4000年以上経った今も残るピラミッドが完成したのだ。
ピラミッドの偉大さには遠く及ばないかもしれないが,うつ病治療の世界にもパラダイム・シフトが起こりつつある。全く新しい作用機序理論に基づくケタミン等の新薬の研究開発に加え,反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)の登場である。この本の目的は,磁気刺激療法とはいかなるものかをできるだけわかりやすく説明し,できるだけ多くの人にその秘めた可能性を知っていただくことにある。rTMS治療に興味はあっても敷居を高く感じる精神科の医師,精神科を将来の選択肢として考えている医学部生や研修医諸君,心理カウンセラー,心理学部の学生さん,うつ病の治療中だが効果が実感できなくて別の治療法を手探りしている患者さん,家族や知り合いにうつ病の方がいて,その人のために何とか役に立ちたいと考えている心優しい皆さんを読者の対象と考えている。そういった趣旨なので,エビデンス(統計的解析による証拠)最優先の堅苦しい専門家の世界からは距離を置き,想像や可能性重視の立場で述べていく。概略をつかめれば,この治療法がただ者でないことをわかっていただけると思う。
筆者自身は磁気刺激の研究には一度も携わったことはなく,ある意味全くのど素人である。だが,素人だからこそ専門家が当たり前のこととみなして何気なく見過ごすことに気づけたりもする(素人の治療を受けるのは心配だと思われると困るので,若干の謙遜が含まれているとのお含みおきを……)。
治療を担う側の魅力とすれば,治療理論のわかりやすさであり,受ける側の魅力は高い安全性と効果の高さである。もちろん,うつ病と一括りにしても様々なタイプがあるので,それにより効く,効かないが存在する。
筆者の考え,実際の手ごたえでは,慢性ストレスによるうつ病や神経炎症によるうつ病に効果がありそうである。そのあたりを具体的な事例を通じて一緒に考えていきたい。
執筆のお話をいただいた当初は,科学的知見や医学的所見を基盤にした内容満載で書きたいと思っていたのだが,浅学菲才の筆者の知識や力量では残念ながらわずか数ページの記事で終わってしまいそうなことに気がついた。実際に本を1人で書くのはたいへんな作業であり,次第にエッセイとか随筆のような書き方になっていったが,人生には無駄とか遊び心,ユーモアが案外必要だと思っており,『どくとるマンボウ』の北杜夫先生の大ファンでもあるので,そういう要素があってもよいかと自分の構想を切り替えていった。幸いにも星和書店の石澤社長と担当の岡部さんから,「(あまり期待していないので?)思っていることを自由に書いてくださいね。(でも大赤字では困るので,多少は売れる内容の本にしてください!……)」と温かくてありがたいお言葉をかけていただいたので,それに甘えながら何とか無知な自分に無理矢理でも鞭打ち,やっとのことで本としての体裁にまとめることができた。
「うつ病はこころの風邪」というキャッチフレーズの普及のためか,うつ病とは風邪のように一過性の軽症ですぐに治るのではないかとの印象を世間では持たれがちだが,それはとんでもない誤解である。うつ病は風邪のように多くの人がかかる病気だという意味では正しく,風邪のようにすぐに治る病気という意味では正しくない。実際にうつ病になれば,当人にしかわからない苦しみと闇が延々と続き,それまでのライフ(生活)の流れに影響を与え,場合によってはライフ(命)を奪い去ることさえある。
各人に与えられた人生は有限である点だけが唯一平等であり,誰しもが有意義で充実した時を前向きな気持ちで送りたいと願っている。長引くうつ病の暗闇に取り残され,ただひとり無限後退の日々を送っていくわけにはいくまい。ましてや病気の影響で完全な自由意志を失った状態で,人生の終止符を自分で打つなどあってはならないことである。その行為は自分だけの問題で終わらず,周囲の多くの人に後悔の念を深く刻み込んでしまう。
このrTMS治療は,うつ病で苦しむ多くの人たちのパリの灯ならぬ希望の灯となり,治療抵抗性うつ病を寛解までシフトする可変性の翼を秘めているのではないかと筆者は感じ始めている。もちろん,実際の精神科治療では理論通りにいかないことのほうが当たり前であり,外科系のように手術でスパッと結果が出るわけでもなく,泥臭い試行錯誤の連続であり,そこにはスマートさの欠けらも感じられない。社会や人間という存在の理不尽さ,そして自分の無力さに日々直面するだけで,カッコよさなど微塵もない。「話せばわかる」ことは少なく,何度話してもわかってもらえないことのほうが多い。精神科医の仕事とは,日陰でコツコツ取り組み続ける地味なものである。テレビに登場して,脳科学の名のもとに人物像や社会現象を小気味よく斬って料理していく有名な「脳科学者」とはかけ離れた存在である。確かに精神科医の仕事が世間の脚光を浴びる社会など,いかにも不健全で気持ち悪そうなのでこれはこれでよいのだろう。
大学の精神科に入局した若き日に,尊敬する年長の先輩から「(患者さんが不平や不満を吐き捨てる)ゴミ箱に徹しろ」と諭されたことを思い出す。「どうせ我々のできることは限られているので,せめて愚痴を聞いてやれ」との意味である。この捨て身の自虐性も矜持や美学としてならわかるが,本音がこれではこの道を目指そうとする若者は増えないであろう。
精神医学は,他の医学分野から遅れた分野だと長らくみなされてきた。
脳と心の因果関係さえ統一した定義ができず,精神疾患の原因がわからないのだから,治療法がわからないのも当然であろうと開き直るしかなかった。正直,偶然の発見,経験と手探りでやってきた歴史なので過度の期待はできない。
ただ様々な脳機能や免疫機構の解明が徐々に進むにつれ,少しずつではあるが潮目は変わりつつある。その初歩的な一端はこの本を読んでいただければわかると思う。rTMSをはじめとしたニューロモデュレーションと呼ばれる新たな治療法は,端緒に就いたばかりであり,これからますます進化していく領域である。この世界に飛び込んで,うつ病,さらには他の精神疾患治療にブレイクスルーを起こし,それを基にさらなるイノベーションに挑もうとする野心と情熱にあふれた精神科志望者が増えることを期待したい。まだ注目の少ないこの分野が発展し,より多くの患者さんがその恩恵を受けられる日が来ることを願いつつ,ゆっくりと,そしてじっくりと筆を進めていくことにしよう。
目次
はじめに
1 ある病院である患者さんに巡り合ったこと
2 うつ病の診断基準を学ぶ
3 神経回路の仕組みについて学ぶ
4 ストレスとストレス反応について学ぶ
5 神経調節物質についてもう少し学ぶ
6 前頭葉について学ぶ
7 扁桃体について学ぶ
8 海馬について学ぶ
9 うつ病と免疫について学ぶ
10 うつ病治療法としてのrTMSについて
11 痛みを伴ううつ病のケース
・症例1
・症例2
12 慢性ストレスによるうつ病のケース
・症例3
13 パニック障害を伴ううつ病のケース
・症例4
14 解離性障害を伴ううつ病のケース
・症例5
・症例6
15 睡眠時無呼吸症候群を伴ううつ病のケース
・症例7
16 患者さん・ご家族の疑問に答えるQ&A集
うつ病による自殺予防:メンタルヘルス面からの提言―結語に代えて
rTMS療法に関わって― 心理職の立場から(阿部直美)
あとがき
謝辞
引用・参考文献
付載:筆者の勤務する鳴門シーガル病院について
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書籍情報
- ISBN:9784791111367
- ページ数:220頁
- 書籍発行日:2024年6月
- 電子版発売日:2025年11月5日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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