なぜ抑うつは指数分布に従うのか

  • ページ数 : 160頁
  • 書籍発行日 : 2022年11月
  • 電子版発売日 : 2025年11月5日
¥1,980(税込)
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内容


「うつ病は時代とともに増えているのか?」。このシンプルなテーマの研究を進めてきた筆者が、「抑うつの分布には数理パターンが存在する」という驚きの法則を提言。 抑うつスコアの分布が指数分布を示す仕組みや、「抑うつ症状」の分布の数理パターン、患者の抑うつの経過を知ることができる知見などについて、詳細に解説。 抑うつという現象を理解するための新たな材料を提供する一冊。

序文

はじめに

私は精神科医である。したがってうつ病患者を診察する機会は多い。毎日のようにうつ病患者に調子を尋ねたり,相談を受けたりしている。

そんな仕事に従事していることもあり,うつ病という病気について考えることはすでに私の生活の一部になっている。私は研究者でもあるのだが,特にうつ病の仕組みについてよく考える。

しかし,うつ病の仕組みを解明するのは簡単ではない。もちろん世界中の研究者が熱心にうつ病の仕組みを解明しようと取り組んではいる。だが残念ながらまだ明確な答えは見つかっていない。

研究者が研究テーマを決めるにあたっては,何とか自分の力で対応できそうなテーマを選ぶことが大切である。いくら関心があっても,難しすぎるテーマを選ぶとうまくいかない。打算的に聞こえるかもしれないが,未解決だが,自分で解明できそうなテーマを見つけることが大切と思う。

私の場合,未解決だが解明できそうなテーマとは,具体的には下記のようなテーマである。

1 .うつ病はどの年齢に最も多いのか?

2 .うつ病は時代とともに増えているのか?

いずれもシンプルなテーマである。こんなシンプルな疑問はすでに解決済みではないか,と思う人もいるかもしれない。

確かに専門書や論文を調べると,こういった疑問に対する何かしらの定説が見つかる。しかし残念ながらそういった定説は証拠が不十分であることが多い。

何かを実証するには,現象の再現性を確認し,そういった現象が起きる仕組みを明らかにする必要がある。そうした点からすると,先に述べた2つの疑問ですら十分に実証されたとは言い難い。つまりまだ未解決ということである。

先に挙げた疑問を明らかにすることは,臨床的にも重要である。たとえばうつ病の多い年齢や,うつ病が増加した時代が明らかになれば,うつ病が増加する要因を特定できる。そしてうつ病が増加する要因が明らかになれば,当然うつ病の予防や治療にも役立つ。こういった地味なテーマに取り組む研究者は少ないが(現在のうつ病研究の主流は遺伝子や脳画像研究である),臨床的には大切と思う。

こういった研究テーマを明らかにするため,データを地道に分析する日々を送っていると,ときに思いがけない方向に研究が展開することがある。先入観を捨ててデータを観察していると,予想していなかった事実に気づくことがある。

ある日一般社会における抑うつスコアの分布を分析していると,どの分布も同じ形を示すことに気づいた。抑うつスコアの分布は,図A に示すように,いずれも右肩下がりの形を示すのである。まるでスケートボード競技に使われるウォール(壁)のようである。この右肩下がりの分布が意味することは,世の中には抑うつ的でない人が最も多く,抑うつが重い人ほど少ないということである。

一般的に心理現象のデータは,図Bのような釣り鐘型の正規分布に近い形を示すことが多い。しかし抑うつスコアの分布の形はどう見ても正規分布には見えなかった。

疑問に感じたので,日本も含め様々な国のデータを取り寄せて解析してみた。その結果,どの国でも社会における抑うつスコアは右肩下がりの分布を示すことが確認できた。さらにこの右肩下がりの分布を数学的に解析してみると,いずれも「指数分布」に従うことが明らかになった。つまり社会における抑うつの分布は数学的な秩序に従うということである。

分布の形が右肩下がりだろうが,釣り鐘型だろうが,興味がない人もいるかもしれない。しかし私自身はこの事実にとても興味を惹かれた。それは主に3 つの理由からである。

理由の1 つとして,分布の数理パターンはその現象の基本的な仕組みを反映するからである。

たとえば身長の分布は正規分布に従う。これは身長が環境や遺伝子といった様々な影響の総和,つまり「足し算」によって成立するからである。世の中に正規分布を示す現象が多いのは,様々な影響の足し算によって成り立つ現象が多いということである。しかし,抑うつのスコアの分布は正規分布ではなく,指数分布を示す。ではなぜ抑うつスコアは指数分布を示すのだろうか。それを本書のなかで説明したい。

2 番目の理由として,臨床的な関心がある。そもそも精神科医なら,世の中にうつ病患者がどれだけ存在するか知りたい。そのためには抑うつの全体図,つまり抑うつスコアの分布モデルが必要となる。抑うつスコアの分布のモデルを理解することは,世の中のうつ病の全体像を理解するのに役立つはずである。

そして最後の理由として,この事実が自分にとって想定外だったことがある。

世の中には,抑うつを感じていない人もいれば,重い抑うつに苦しむ人もいる。そういった個人の抑うつのレベルは,個人を取り巻く環境や,個人の特性から生み出されるように見える。そういった見方がこれまでのうつ病研究の常識だった。

しかし社会全体から見ると,抑うつの分布は数理モデルに従う。つまり集団として見ると抑うつは自然の法則(ルール)に従っているということである。抑うつという心理現象について科学的に理解したいと思う人なら,抑うつを司る法則を知りたくなるのではないかと思う。

本書は次のような構成になっている。

最初は「うつ病は時代とともに増えているのか」「うつ病はどの年齢に最も多いのか」という2 つの疑問を切り口として話を進めていく。実はこの2 つの疑問に取り組むなかで,抑うつスコアの分布の数理パターンや性質が明らかになっていった。言い換えると,この2 つの疑問を明らかにしようとすれば,最終的に抑うつスコアの分布が指数分布に従うという事実について理解する必要があった。ではなぜ先ほどの2 つの疑問が指数分布へとつながるのか,それを最初に明らかにしたい。

次に,なぜ抑うつスコアの分布が指数分布を示すのか,その仕組みについて述べる。前述したように,抑うつスコアが指数分布に従う仕組みを知ることは,うつ病の仕組みを理解することにつながる。なぜ抑うつスコアの分布が正規分布ではなく,指数分布に従うのかを説明したい。

さらに,一般社会における「抑うつ症状」の分布の数理パターンについて述べる。これまで知られていなかったが,最近の研究により,不眠,憂うつ気分,自殺念慮といった抑うつ症状の分布はいずれも共通の数理パターンに従うことが明らかになった。こういった事実は,不眠や自殺念慮を持つ人々が世の中にどう分布しているのかを理解するのに役立つ。また抑うつ症状が出現する仕組みを考える上で重要な手がかりになると思われる。

最後に臨床面への応用について論じる。分布とは個人の集合である。逆に考えると,分布の数理パターンや特徴を理解すれば個人の動きを推測できるということである。つまり個人の抑うつの経過について理解するのに役立つ。こういった臨床に役立つ知見を紹介したい。

不思議なことに,抑うつの分布に関する研究は最近まであまり行われてこなかった。こういった抑うつの分布の知見が明らかになったのはここ数年のことである。したがって本書は精神医学や統計学の専門家にとっても初めて知る内容が多いと思う。幅広い分野の人に理解してもらえるよう,専門用語や数式をなるべく使わず,わかりやすい記述を心がけた。

本書が,抑うつという現象を理解するための新たな材料を提供できれば幸いである。


2022年

冨高辰一郎

目次

第1章 研究のきっかけ:うつ病はどの年齢に最も多いのか?

第2章 うつ病は時代とともに増えているのか?

第3章 抑うつスコアが指数分布に従う仕組み

第4章 世の中における抑うつ症状の分布

第5章 分布の安定から見た抑うつの経過の特徴

第6章 抑うつスコアの分布モデルの意義

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書籍情報

  • ISBN:9784791111046
  • ページ数:160頁
  • 書籍発行日:2022年11月
  • 電子版発売日:2025年11月5日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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