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- 精神科治療学 第40巻01号〈特集〉現在の精神科診断における「境界」そして「グレーゾーン」を考える
商品情報
内容
序文
特集にあたって
今世紀は「心の時代」とも呼ばれ,心の健康についての関心が高まっている。特に現在社会は,益々多様化・複雑化,不透明化し,不安やストレス要因も多種多様で個別性が著しい。例えば,今回のコロナ感染症流行下で,自身や家族への感染の恐れのみならず,就労や対人関係様式,生活環境などの激変,雇用や収入の不安定化,感染者や医療従事者に向けられた差別や偏見など,現在社会が抱える脆弱性や病理が多面的に露呈した。さらに個々の事情も重なって,多くの人で不安や抑うつ傾向が高まり,自殺者の増加も社会的に問題視された。実際,コロナ感染症経験の有無に関わらず,抑うつや不安,不眠など,様々な身体・精神症状を訴え,精神科への受診に至る者の増加が指摘されている。
一方,このような状況下での臨床場面では,正常域か,あるいは病的,すなわち診断閾値を超えた「疾患」水準の状態なのか,治療的に対応すべきか否かなどの決定に難渋する場合も少なくない。
さらに現時点で診断閾値下,例えば正常域とのグレーゾーンと判断されても,いずれ「疾患」へと発展しうるリスクが高い場合もあるだろう。すなわち社会の中で精神科診断が果たすべき機能を考えた場合,正常と異常の狭間にあるグレーゾーンへの対応,その臨床的意義を明確化することが肝要となろう。これを強迫症(OCD)に関していえば,コロナ禍で増えたであろう強迫症状を有する者の多くは,いわゆる診断閾値下,「潔癖症」レベルに留まるかもしれない。しかし中には4 ~ 5年のうちに臨床的に有意な機能障害を伴い,OCDと診断される状態に発展するケースも一定数存在すると考えられる。逆にいえば,一時期に強迫症状の経験を有しても,その大半はOCDには至らない。しかしいったんOCDを発症すれば,未治療期間(DUI)は平均で7 ~ 8年とされ,この間に社会的機能や生産性,QOLは著しく低下し,難治化・遷延化する可能性もあるため,発症予防あるいは早期対応が重要となる。
このようなグレーゾーンに関する総論的見解として,古茶は身体医学との比較から論じ,精神科における多くの類型概念が理念型であるがゆえに,その周囲に必然的に生じうるものとしている,また松本(ちひろ)は,現在の精神科診断における課題として,精神疾患間の境界,特に「鑑別」か「併存」かを挙げ,疾患間の関係性について峻別すべきか,あるいは同時に生じる状態を想定可能か,を判断することの実臨床での難しさ,さらにはこの点に関しICD─11改訂でなされた配慮,およびその記述について具体的に提示している。そしてこの両者の妥当性は,今後の知見の積み重ねの中で,将来的にさらに変わりゆくものという重要な示唆を加えている。一方,黒木は,イギリスの精神科医,Kendell, R. による考察に触れながら,精神疾患には自然の境界は存在せず,カテゴリー定義は妥当性に欠くとし,この臨床的有用性を担保するためには,ディメンジョン的診断モデルとの併記が必要であろうと論じている。
グレーゾーンに関わる問題を,疾患単位で各論的にレビューしていくことも非常に興味深い。例えば広沢は,統合失調症およびそのスペクトラム障害に関するグレーゾーンについて,自然科学的にも精神病理学的にも妥当な病態理解を模索する中で,男性脳(左脳)と認知的機能様態,女性脳(右脳)と感情的機能様態に基づく発展経路が,精神病群の中の臨床的特徴のあり方や予後などのバリエーションに関わる可能性を指摘している。
その他,各領域のエキスパートにより,双極症(本村),あるいはこれと統合失調症との間(松本(康一)ら),さらに抑うつ障害(田村),不安症(塩入),強迫スペクトラム(松永ら),身体症状症(名越ら),物質使用症(湯本),嗜癖行動症群(比江島ら),解離症(新谷),神経発達症(本田)などについて,疾患特性に基づくグレーゾーンの捉え方,正常からの連続性,あるいは疾患間の境界や特異的関連性などに関する見解が,明確かつ緻密に記載されている。加えて,いくつか特定の社会的場面,例えば精神保健相談(原田)や産業精神保健(田中ら)などで遭遇するグレーゾーンの現状と課題に関しても,具体的に解説いただいた。
本特集では,現在の精神科診断におけるグレーゾーンの立ち位置,臨床的意義に関し,総論的かつ疾患横断的・各論的な議論を目指したが,現代社会の中で,あるいは実臨床でみられる各疾患の複雑な病像,個別的価値の理解やそれが包含する問題が顕在化されるという観点(本村)からも,重要な示唆を提示しているのではないかと思う。
すなわち,今後臨床場面に限らず,職場や学校など様々な社会的領域において我々が経験するであろうメンタルを病む者の理解や支援のあり方に,必ずや一助となる有意義な情報を提供しうるものと考えている。最後に,難解なテーマではあったが,いずれも有益かつ充実した力作をご執筆いただいた各先生方に深謝しつつ,これが読者の皆様にとって有用なものとなり,精神科診断の発展や日々の臨床に活用されるとすれば,これ以上の喜びはない。
(文中の引用は本特集からのものであり,敬称は省略させていただいた)
松永 寿人
目次
【特集】現在の精神科診断における「境界」そして「グレーゾーン」を考える
特集にあたって
松永寿人
純粋精神医学の見地から見た精神症候学上のグレーゾーンについて
古茶大樹
現在の精神科診断におけるもう一つの課題─「鑑別」か「併存」か?─
松本ちひろ
精神の病に境界は存在するか─ディメンション的診断モデルの視座─
黒木俊秀
自閉スペクトラム症では,なぜ「グレーゾーン」がこれほど話題になるのか?
本田秀夫
統合失調症におけるグレーゾーンの問題
広沢正孝
双極症のグレーゾーン
本村啓介
統合失調症と双極性障害のグレーゾーン─非定型精神病を考える─
松本康一,金沢徹文
抑うつ障害のグレーゾーン
田村真樹
現在の精神科診断における不安症の「境界」そして「グレーゾーン」を考える
塩入俊樹
強迫スペクトラム概念のカテゴリー化とグレーゾーンの臨床的意義─正常域の強迫症状あるいは関連疾患との境界および連続性を含めて─
松永寿人,向井馨一郎
身体症状症におけるグレーゾーン
名越泰秀,富永敏行
物質使用症におけるグレーゾーン─アルコールを中心に─
湯本洋介
嗜癖行動症群における「境界」そして「グレーゾーン」を考える─ギャンブル,ネット・ゲーム,買い物,窃盗,性行動について─
比江島誠人,武藤岳夫
解離症におけるグレーゾーン
新谷宏伸
精神保健相談におけるグレーゾーンへの支援─相談の「御三家」から「新:御三家」へ─
原田 豊
産業精神保健における精神疾患の「境界」と「グレーゾーン」の問題
田中和秀,市村麻衣
臨床経験
精神運動性焦燥や希死念慮が前景に立つ大うつ病性障害に気分安定薬の投与を先行し抗うつ薬で改善した3症例
田上真次,小林克治,角 典哲 他
カレント・トピックス
精神科医がメディアに関わる意義─NHKドラマ「Shrink─精神科医ヨワイ─」の監修を通して─
加藤忠史
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書籍情報
- ISBN:9784022004001
- ページ数:116頁
- 書籍発行日:2025年1月
- 電子版発売日:2025年11月7日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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