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- 精神科治療学 第40巻02号〈特集〉SOGI(性的指向・性自認)について─精神科医療従事者に理解してほしいこと─
商品情報
内容
本特集では、精神科医療従事者が知っておきたいSOGIの基礎知識、医学教育における取り組み、GI(性別不合)診療における精神科の役割などに加え、当事者として精神科医療に望むことや座談会も収載。SOGIを意識した臨床実践と医学教育に役立つ特集。
序文
特集にあたって
精神医学における「性の問題」の取り扱いは,最近50年で大きく変化してきた。たとえば同性愛は,かつてDSM初版(1952)において「社会病質パーソナリティ障害」の下位診断と位置づけられ,治療対象とされていた。しかし,こうした考え方は,1970年代初頭,ゲイ・レズビアン解放運動の勃興に伴い,激しい批判に曝されることとなった。その結果,DSM-Ⅱ第7版(1974)では,診断カテゴリー名から「同性愛」という表現を除いて「性的指向障害」となり,さらにDSM-Ⅲ(1980)では「自我異和的同性愛者」へと変更されたのだった。最終的には,DSM-Ⅲ-R(1987)において自我異和的同性愛者という診断カテゴリー自体を削除するに至り,これをもって,同性愛という言葉はDSMのリストからは完全に姿を消し,いかなる意味においても精神障害ではなくなった経緯がある。
一方,「性同一性障害」はDSM-Ⅲで初めて登場し,その後,各国における性別適合手術を認める基準として,精神科医による性同一性障害の診断が必須となった。しかしそのことが,当事者団体の反発を招き,「自分にとって快適な性的身体を手に入れるのに,精神障害というラベリングを受け容れなければならないのか」という抗議へと発展したのだった。最終的に,DSM-5(2013)においては,診断カテゴリー名から「障害」という言葉を除いて「性別違和」へと変更され,さらに,2018年に公表されたWHOの診断分類ICD- 11では,性同一性障害そのものが完全に精神障害の診断カテゴリーから姿を消し,あくまでも身体医学の範疇で手術適応を検討することとなった。
このように大きな変革が見られた,精神医学における「性の問題」であるが,現実には,社会は精神医学よりもはるかに先へと進んでいる。わが国の平均的な精神科医療関係者は,セクシュアルマイノリティを総称する表現として,「LGBT」ないしは「LGBTQ+」こそが,当事者に配慮した用語であると信じ込んでいるが,実はそれすらも時代遅れといわざるを得ない。すでに2011年頃より,従来の「LGBT」に代わって,「SOGI」-- SexualOrientation(性的指向),Gender Identity(性自認)という2つの概念を示す単語の頭文字をとったもの--なる呼称が使われるようになっているからだ。
いうまでもなく,これは大きな前進である。というのも,従来の「LGBT」が,特定の少数派を名指し,多数派が少数派に配慮すべきことを強調する用語であるとすれば,「SOGI」は,人間という存在をそもそも多様な性的指向と性自認を持つ集団として捉え,すべての人に「性の問題」を自分事として考えさせる言葉--多数派も少数派もなく,「誰もがそれぞれ違う」ことを前提とした言葉--だからである。
本特集は,SOGIを意識した精神科臨床実践と精神医学教育を実現する一助となることを目指して企画された。性的指向や性自認が「精神障害」ではなくなった今日,精神科臨床においては,「性」に関して新たな配慮が求められている。私たちはまず,SOGIをめぐる無理解や差別,法制度の不備が,当事者を社会的に孤立させ,その結果,健康格差を生じる健康の社会的決定要因(social determinantsof health:SDH)として,患者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしている現実を理解しなければならない。実際,精神科医療関係者の何気ない一言で患者,あるいはそのパートナーや家族を傷つけ,さらには医学教育の現場においても,教育者のちょっとした無配慮が,研修医や医学生を傷つけて,前向きな意欲や希望を阻喪させてきた現実がある。おそらく単に「性のあり方の多様性」を理解しているだけでは足りないだろう。必要なのは,かつて少数派とされてきた人々が,それまでの人生における様々な局面で体験してきたであろう,傷つきに対する想像力を持つことだ。これは,まさしく昨今その重要性がつとに強調されている,トラウマ・インフォームド・アプローチの考え方そのものといってよいだろう(本特集の向坂論文を参照)。そして,そのような想像力がなければ,なぜ,「一見すると何ということもない言葉に,あの人はかくも深く傷ついたのか」を理解することなど,到底おぼつかないだろう。
本特集は,編集委員の松尾幸治先生(埼玉医科大学)の発案によって企画に着手がなされ,さらにこの問題のエキスパートである武田裕子先生(順天堂大学),吉田絵理子先生(一般社団法人にじいろドクターズ/川崎協同病院),康純先生(関西大学),宮田瑠珂先生(ダイバーシティアドバイザー)の全面的なご協力のおかげで,具体化させることができた 。5人の先生方にはこの場を借りて深謝申し上げたい。また,すばらしい原稿を執筆して下さったすべての著者の先生方,座談会にご参加下さった当事者のみなさまにも心から感謝している。
おかげさまで,本特集は,臨床場面や医学教育現場でただちに役立つだけでなく,読む者に文字通りの「目から鱗が落ちる」体験と行動変容をもたらし,医療者・援助者のマインドセットを一気に「最新版」へとアップデートしてくれる一冊に仕上がった。ぜひご一読いただきたい。
松本 俊彦
目次
【特集】SOGI(性的指向・性自認)について─精神科医療従事者に理解してほしいこと─
特集にあたって
松本俊彦
性のあり方が社会に受け入れられた経緯とその後の経過
山内俊雄
SOGI(sexual orientation and gender identity:性的指向および性自認)の多様性に関する基礎知識
吉田絵理子
「健康の社会的決定要因(SDH)」と医学教育におけるSOGI(性的指向と性自認)
武田裕子,吉田絵理子
子どものGI(性別不合)について
康 純
GI(性別不合)診療における精神科の役割
針間克己
性別適合手術における精神科の役割
松永千秋
性別不合(GI)診療におけるホルモン療法の保険適用について
早馬 俊,池袋 真,新井久稔 他
見えにくいSOGI,手が届きにくいSOGIにどうアプローチするか
林 直樹
相談支援の現場から見た精神科領域に求められるLGBTQ+インクルージョンのためのトラウマ・インフォームド・アプローチ
向坂あかね
性的指向・性自認の多様性をふまえた精神科作業療法
松本武士
埼玉医科大学病院におけるSOGI(性的指向・性自認)に関する職員研修の取り組み
松尾幸治,木内恵子,綿貫 誠
順天堂大学におけるSOGI(性的指向・性自認)をめぐる取り組み─附属病院から学部教育への広がり─
武田裕子,髙木辰哉,宮田瑠珂
カナダ・マギル大学におけるSOGI(性的指向・性自認)をめぐる公正性,多様性,包摂性(ED&I)の取り組み
武田詩織
トランスジェンダー当事者として精神科医療に望むこと─精神科医の立場から─
森井智視
トランスジェンダー当事者として精神科医療に望むこと─精神科医療サービスユーザーの立場から─
宮田瑠珂
〔座談会〕精神科領域に求められるSOGI(性的指向・性自認)への配慮─当事者から精神科医へ伝えたいこと─
松本俊彦(司会),吉田絵理子,翁長祐太,遠藤 桂(仮名)
資 料
退院請求・処遇改善請求の権利保障に関する患者・家族の認識
山岸昌平
カレント・トピックス
精神展開剤シロシビンによるうつ病治療
内田裕之
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書籍情報
- ISBN:9784022004002
- ページ数:120頁
- 書籍発行日:2025年2月
- 電子版発売日:2025年11月7日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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