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- 精神科治療学 第38巻08号〈特集〉複合的困難を抱える人達のための精神科医療
商品情報
内容
本特集では、対応が難しい複合的困難事例の臨床に役立つヒントが満載。多種多様な複合的困難を抱える人たちに対する精神科医療の現状、障害の特性、治療ケアの実際、社会制度上の矛盾などを取り上げた。この分野に精通する研究者や実践家が複合的困難に対処するための最新の知見を提供。若手からベテランまで多くの医療者が迷う事例、初めて出会う事例に対応する際に役立つ特集。
序文
特集にあたって
精神疾患は,“不眠”と“不眠症”との違いなどで例示されるように,症状の存在だけでなく,その症状による生活機能の支障をもって,初めて継続的な支援の対象となる。これは,種々の身体疾患の診断基準と大きな違いをなしている。身体疾患の場合,『生活活動の制限』を診断基準に加えているものは,慢性疲労症候群など数少ない。精神疾患の概念には,その症状による活動制限,参加制約も含まれており,精神科医療のみならず社会的支援を必要とする状態が慢性的に続くことが想定されている。その意味で,あらゆる精神疾患は,複合的困難を生じる潜在的可能性をもっており,社会的支援の適不適によって,その病悩が大きく異なることにも合点がいく。
家族にとっても,自分の子ども,配偶者,親などが精神疾患になった場合,家族の人生は大きな進路変更を余儀なくされる。精神科臨床の現場では,本人の混乱以上に,同席する家族の疲弊や怒り,慟哭を受け止めざるをえない場面が往々にしてある。疾病の影響が本人に留まらず,周囲に長期間波及し,家族の人生を変えてしまうことを振り返っても,複合的困難に陥らない事例を想起するほうが難しい。
しかし,1つの精神疾患の病悩を抱えているだけでなく,例えばその背景に先天性疾患や知的発達症があり,より複雑な病像と重い生活機能障害を呈している人達がいる。また,疾患や障害の重複のみならず,例えば,日本国籍を有していないこと,経済的困窮にあること,家族を喪失し,社会からの手助けを得られないことなどから,社会的マイノリティに置かれてしまい,さまざまな支援の仕組みから弾かれ,その存在が見えづらくなっている人達もいる。そして,複合的困難にある人を支える家族や支援者の声はさらに埋もれてしまいがちである。
このような現状を踏まえ,複合的困難を抱える人達の実像を記録し,また,その方々を黙々と支えている声なき家族や支援者に光を当てる必要を感じ,今回の特集を企画した。本特集のテーマは,以下のような構成を意識した。
① 発達症と統合失調症や先天性疾患といった疾病の複合性や,強度行動障害のように対応支援の観点の複合性
② 家族が引き受ける複合的困難の例として,小児がん患者と自死遺族の悲嘆
③ 社会的マイノリティとしての外国籍の人の入院医療と地域支援
④ 精神疾患と貧困,逆境と非行,被虐待児支援,ヤングケアラーなど,社会的課題として注目されている支援の最前線
⑤ 発災12年目になっても未だ苦悩の続く原発事故と精神科臨床の現状
本分野に精通している研究者,実践家からご尽力を賜り,それぞれの複合的困難の現状,疾病や障害の特性,治療ケアの実際,社会制度上の矛盾や課題を詳らかにしていただいた。紙面を借りてお礼を申し上げる。想定していたことではあるが,どのテーマも重く厳しく,疾病・障害としての,そして本来疾患そのものに帰結することではないはずの社会的制約の複雑さを知り,粛然たる思いになった。とくに,自らも福島で被災しながら,その地で支援活動を続けておられ,今回の特集の依頼において,自身の当事者性と向き合い,つらい執筆を引き受けていただいた,熊切力先生には,深く頭を垂れて感謝を申し上げたい。
複合的困難を抱える人達を支えるために,1人の支援者がすべてを担うことは非現実的であり,多職種による連携・協働が必要となることはもはや言うまでもない。しかし,現実には,少数の対象のために,多くの人的資源を投入しなくてはならず,時間生産性の観点からは課題も多い。また,医療と福祉の制度の違いに阻まれ,円滑な連携・協働ができないことも経験する。1例を挙げれば,強度行動障害に対して,福祉施設が対応する場合は種々の補助金制度が利用できるのに,医療機関では対象外となってしまうなど制度の不整合や不備に阻まれることは少なくない。
もう1つの支援方法として,当事者性を有する専門職による支援という可能性に期待している。この方向性は,例えば家族に当事者をもつ精神科医療者による真摯な自己開示の姿勢と,具体的な体験をもとにした活発な情報発信に見出せる。さらには,自身の当事者性を冷静に分析しながら,あらたな支援方法を開発・提唱している新進気鋭の専門家も注目と共感を集めている。本特集でも,そのような方向性の中で,複合的困難に取り組んでいる人達の姿に触れることができた。
多くの読者にとって,どのような対応をすべきか迷う事例,知識としては知っていても実像に触れることのなかった事例などが多く提示されていると思う。もちろん,今回の特集以外の複合困難事例は枚挙に暇がなく,すべてを網羅することは適わなかった。本特集を手に取っていただいた方々が,同様な場面に取り組む際のヒントになるならば,編集子として何よりの喜びである。
渡邉 博幸
目次
【特集】複合的困難を抱える人達のための精神科医療
特集にあたって
渡邉博幸
統合失調症と成人期発達障害の併存
武士清昭
22q11.2欠失症候群メンタルヘルス専門外来─複合的困難の声を聴く─
熊倉陽介,高橋優輔,澤井大和 他
ウィリアムズ症候群の臨床的特徴とその対応
木村 亮
強度行動障害を持つ人のための行動療法・薬物療法
加藤志保,吉川 徹
強度行動障害患者の入院治療の問題点─入院と行動制限の長期化─
菊池周一
医療的ケア児の家族の困難と支援
上別府圭子,村山志保,鈴木征吾 他
複雑性悲嘆─自死遺族の悲嘆を中心に─
清水加奈子
日本国内の在留外国人のメンタルヘルス─精神科救急の臨床現場から─
花岡晋平,中西健太
在留外国人のメンタルヘルス─地域支援の場面から─
福井英理子,根本隆洋
貧困と精神障害者─救護施設における精神障害者の支援─
酒本知美
逆境と非行─非行臨床から見えるもの─
澤根優子,門本 泉
精神科病院で被虐待児を一時保護するということ
松木悟志
精神科診療におけるヤングケアラー
田中顕正
福島被災者の心の問題を考える─あいまいな喪失とmarginality─
前田正治
震災と地域精神科臨床
熊切 力
臨床経験
持効性抗精神病薬注射剤が皮下組織内へ施注されていないだろうか?─筋肉注射手技とCT画像による皮下組織所見の検討:1症例報告─
林 眞弘,中村美姫,岡口明日香 他
カレント・トピックス
アルツハイマー病新薬について
小田陽彦
連 載
〔オピニオン〕ドパミンパーシャルアゴニストaripiprazoleとの出会い
段野哲也
〔脳波読解Q&A〕(第13回)
兼本浩祐
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書籍情報
- ISBN:9784022003808
- ページ数:128頁
- 書籍発行日:2023年8月
- 電子版発売日:2025年12月30日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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