精神科治療学 第41巻08号〈特集〉中学生を診よう 症例編

  • ページ数 : 128頁
  • 書籍発行日 : 2026年8月
  • 電子版発売日 : 2026年9月1日
¥3,190(税込)
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内容

ベストセラーとなった本誌40巻11号(2025年11月発行)特集「中学生を診よう—一般精神科医における中学生診療の基礎知識—」の続編。
一般精神科医が中学生診療に必要な“知識”を“臨床の智恵”へと発展させるため、児童精神医学のエキスパートが実際の症例をもとに診断・治療の思考過程や工夫を詳説。困難例から学ぶ実践的な知見が、日々の診療に生かせる、臨床現場に役立つ特集。

序文

特集にあたって

本特集は,本誌40巻11号(2025年11月)の特集『「中学生を診よう」─一般精神科医における中学生診療の基礎知識─』(以下「基礎知識編」)の続編である。

「基礎知識編」の巻頭言(「特集にあたって」)でも述べたように,わが国の精神科医療において,児童思春期を専門とする精神科医は限られており,診療の需要と供給のバランスは大きく崩れている。その結果,専門医療機関の初診までに長期間を要する状況が続いている。これは,精神科医療における最も深刻なアンメットニーズの一つであり,その解消に取り組むことは,われわれ精神科医に課せられた重要な使命である。

その解決策の一つとなることを期待し,前回の特集では,一般精神科医が中学生を中心とする児童思春期症例を診療するために必要な基礎知識をまとめた。前回の特集を十分に読み込むことで,中学生を診るための土台は築かれるものと考えている。しかし,実際の診療には,「知識」だけでなく,それを個々の症例に応じて適切に活用するための「智恵」が求められる。

では,その「智恵」は,どのように身につければよいのだろうか。最も有効な方法は,自ら症例を経験するとともに,医局などで日常的に行われている症例検討会のような場で,エキスパートの助言や臨床的思考を繰り返し学ぶことであろう。そこで今回は,児童精神医学のエキスパートの先生方に,「基礎知識編」の内容を踏まえながら,実際の症例とどのように向き合い,どのような判断と工夫を重ねてきたのかをご提示いただいた。本特集は,その臨床の手腕と,判断に至る思考の過程を学ぶ場として企画したものである。

本特集で紹介するのは,治療が順調に進んだ,いわゆる「うまくいった症例」ばかりではない。むしろ,対応に苦慮しながらも,さまざまな工夫を重ねて困難を乗り越えてきた症例を中心に執筆していただいた。そのような症例にこそ,日々の診療に応用できる多くの学びが含まれていると考えたからである。

本特集は「基礎知識編」と同様に総論と各論から構成されているが,中心となるのは診断・病態別の症例提示である。それぞれの症例では,臨床現場で何が起こり,治療者が何を考え,どのように対応したのかが,臨場感をもって具体的に描かれている。

読者は,「これであれば,成人を主に診療している精神科医でも,これまでの経験を生かして対応できそうだ」と感じる場面がある一方で,「子どもの診療では,このような点にも注意しなければならないのか」という新たな視点にも数多く出遭うだろう。成人精神科診療の延長線上にある部分と,児童思春期診療に固有の視点の双方を学ぶことのできる,実践的で学びの多い症例集となっている。

* * *

「中学生を含めた子どもたちは『傷つきやすいが,成長して力を獲得していく存在』である」,「小児科から精神科へ移行するということは,ジェネラリストがスペシャリストにパスを出す状況である」,「治療関係を維持しつつ子どもの安全を守る,ということは時に矛盾し,難しい判断を求められることがある」,「児童思春期の臨床では,操作的診断基準を踏まえつつも,継続的な診療と観察の中で,症状の質,生活機能の推移,他の病態でより適切に説明される可能性を評価し続けることが重要である」,「中学生という発達段階に特有の,自己同一性の混乱や親からの心理的離脱といったダイナミックな変化の渦中において,その圧倒的な苦痛をやわらげるためのOD(オーバードーズ)は,『手段』であったといえる」

これらは,編集子が本特集を読み進めるなかで,特に印象に残った言葉である。ほかにも紹介したい言葉は数多くあるが,紙幅の都合から,その一部のみを挙げた。いずれも,児童思春期精神科臨床に長く携わり,一人ひとりの子どもと真摯に向き合ってきたからこそ導き出された言葉であり,まさにエキスパートの「金言」と呼ぶにふさわしい。

児童思春期の診療において,すべての症例を児童精神科医だけで担うことはできない。一般精神科医が適切な知識と視点を身につけ,対応可能な症例を診療し,必要な場合には専門医療へつなぐことができれば,現在の深刻なアンメットニーズを緩和する大きな力となる。

前回の「基礎知識編」と今回の「症例編」を併せて読むことで,中学生をはじめとする児童思春期症例に向き合うための知識と実践的な智恵を得ることができると信じている。本特集が,一般精神科医にとって,中学生診療への過度な不安を軽減し,必要な慎重さを保ちながらも,勇気をもって最初の一歩を踏み出すための確かな支えとなることを願っている。


松尾 幸治

目次

【特集】中学生を診よう─症例編─

・特集にあたって  松尾幸治

・入り口は身体症状─中学生のこころと身体の臨床─  小林穂高

・症例から考える中学生に対する精神療法  森 祥子,村上伸治

・中学生の薬物療法導入時のアセント形成と維持期の安全管理─注意欠如多動症とうつ状態の2症例を通して─  平井靖明,川西悠加,水井 亮 他

・小学生(小児科)から中学生(精神科)への移行に工夫を要した症例─小児科・児童精神科の立場から─  佐竹隆宏

・中学生で小児科から精神科へ移行した時に工夫を要した症例─精神科医の立場から─  桑原 斉,池谷 和

・中学生の診療における不登校に対して,親子への対応で工夫を要した症例  池谷 和

・中学生の診療において,虐待を疑った際の親子への対応で工夫を要した症例  池谷 和

・中学生の神経発達症の心理社会的支援に工夫を要した症例  門馬拓未,村杉謙次

・睡眠障害の評価を踏まえて薬物療法を調整した中学生の神経発達症の2症例  倉石雄太,荒井勇輔

・中学生の統合失調症で診断に工夫を要した2症例  青木芳子,藤田純一

・中学生から高校生の統合失調症に対する薬物療法・心理社会的治療支援の実際  宇賀神北斗,藤田純一

・中学生の気分症で診断に工夫を要した症例  馬 敏宰,宇佐美政英

・身体症状と不登校を契機に受診し,治療方針の調整に工夫を要した中学生の気分症の1例  川西悠加,水井 亮,平井靖明 他

・中学生の物質使用症─実践編─  沖田恭治

・中学生の摂食症で工夫を要した症例  幅田加以瑛,小和田航太郎,眞田 陸 他

・中学生の不安症で診断・対応に工夫を要した症例  平岩明子,辻井農亜

・中学生の不安症で治療に工夫を要した症例  山形祥礼,辻井農亜

・中学生の睡眠障害で工夫が必要だった症例  加藤久美,近藤大樹

・中学生の性別違和で成人とは異なる工夫─症例を通して─  松岩七虹,織田裕行

・中学生でみられるてんかん症例  西田拓司

臨床経験

・Clozapine投与により非感染性心外膜炎をきたした後,非clozapine系抗精神病薬と電気けいれん療法の併用療法に切り替えた治療抵抗性統合失調症の一例  中島 鑑,綾仁信貴,松岡照之 他

・一般精神科医に対する不安症患者のベンゾジアゼピン系薬剤を漸減中止する外来森田療法心理教育案  舘野 歩,酒井祥行,中田浩二

資  料

・文芸作品から見た「狂気」,そして精神医療について─作家島尾敏雄の妻・ミホの場合─  飯島幸生

カレント・トピックス

・炭酸リチウムの禁忌から妊婦が外れることについて─「安全になった」のではなく「個別判断が可能になる」と理解する─  尾崎紀夫,奥村啓樹

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書籍情報

  • ISBN:9784022004108
  • ページ数:128頁
  • 書籍発行日:2026年8月
  • 電子版発売日:2026年9月1日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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