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精神科治療学 第41巻10号〈特集〉ダイバーシティ&インクルージョンと精神医学・精神科医療

  • ページ数 : 128頁
  • 書籍発行日 : 2026年10月
  • 電子版発売日 : 2026年11月6日
¥3,190(税込)
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商品情報

内容

多様性を尊重し、誰もが共に生きられる社会を実現するために、精神医学・精神科医療に何ができるのか。
本特集では、リカバリー、当事者研究、ピアサポート、生物学的精神医学、ニューロダイバーシティ、LGBTQ+、依存症、認知症、インクルーシブ教育や職場の合理的配慮など、多彩な視点から考察。臨床・研究・支援の新たな視野を拓く特集。

序文

特集にあたって

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は,SDGsの流れの一環として企業等でも一時は流行語のように用いられた。近年では,「ダイバイーシティ,エクイティ&インクルージョン」(DE&I),さらには「ダイバイーシティ,エクイティ,インクルージョン&ビロンギング」(DEI&B)と言われることもある。多様性を前提としたコミュニティづくりは意義のあることであり,精神科医療に期待される役割は大きい。かつての「性同一性障害」から「disorder」が外されたように,疾患あるいは障害概念でくくられていたものの一部が多様性におけるマイノリティ概念に置き換えられるなど,多様性に対する精神医学からのアプローチも進められている。また,インクルーシブな社会づくりは,Pinel以来の精神科医療における最重要テーマである。

一方で,D&I推進にあたっての課題にも留意する必要がある。マイノリティへの理解が乏しいコミュニティでは,差別や分断が助長されるリスクがある。社会モデルで障害を捉えることはきわめて重要であるものの,マイノリティを生物学的研究の対象とすることをタブー視するべきではない。D&Iが当たり前となっていく社会の中で,多様性を生物学的精神医学研究の対象とするための条件についても熟考しておく必要がある。

本特集では,D&Iをめぐる精神医学・精神科医療における課題について,さまざまな立場から論考していただくことを目指して,多彩な分野の専門家に執筆を依頼した。

石原孝二先生は,近代精神医学の誕生とも言える「鎖からの解放」以降の精神科医療の歴史を概観し,現在もほとんどの国で精神科医療と精神保健法制が強制性をその中核に残していることを指摘している。非自発的入院と同意のない治療による強制性を伴う「強制的な包摂」は「包摂的排除」となりうる危険性を有しているという著者の論考は,精神科医療のあり方を考える上で重要な一石を投じている。

小林聡幸先生には,D&I理念におけるリカバリー概念の位置づけについて考察していただいた。D&Iが企業理念として提示されてきたことを指摘し,社会に寛容さと余白が必要であることを説く,示唆に富む内容である。

古屋龍太先生,野村恭代先生,熊倉陽介先生,山口創生先生には,心理社会的立場からD&Iに関連するトピックについて執筆していただいた。精神保健医療福祉領域において日本は共生社会にはほど遠く,長きにわたって精神疾患を有する人を排除してきた歴史の負の遺産が残っている。法制度整備,スティグマを軽減し精神疾患のある人たちが地域で普通に住み生活するための試みについて,わかりやすくまとめていただいた。

中井好男先生は,当事者が自らの経験を語り,知に変えていくことの意義と課題について述べている。「異なる経験を持つ者同士が自らの経験を語り,聞き,ときには黙り,『わからなさ』を抱えながらともに考えることが必要」という論考にハッとする読者も多いのではないだろうか。宮本有紀先生らは,当事者と社会をつなぎインクルージョンを促進する際にピアサポートが重要な役割を果たすことを述べ,ピアサポーターの実践について紹介している。

住吉太幹先生には,D&Iと生物学的精神医学研究という難しいテーマについて執筆していただいた。精神障害の社会モデルと生物学的研究を対立概念として捉えるのではなく,「生物・心理・社会モデル」として脳科学の進歩に応じて洗練させた視点に昇華すべきであること,多様性に配慮した生物学的研究はむしろマイノリティを包摂する医療につながることを明示していただいた。ただし,そのためにも倫理的配慮の枠組みをしっかりと定めていくことが必要となる。日本統合失調症学会では,当事者を「経験専門家」と位置づけたDE&Iの取り組みを行っている。その考え方と実際の取り組みについて,福田正人理事長をはじめとする理事の先生方の連名で執筆していただいた。

領域ごとの各論では,神経発達症におけるニューロダイバーシティの考え方(本田秀夫),LGBTQ+のメンタルヘルス(日高庸晴先生),依存症治療におけるインクルーシブな支援体制(三輪岳史先生ら),若年性認知症の就労継続(宮川雄介先生),22q11.2欠失症候群に対する医療の分断化とインクルージョン支援(高橋優輔先生ら)について執筆していただいた。各領域特有の課題がありながらも,社会的マイノリティの支援のあり方を考える上で共通するところがあるように思われる。

D&Iを推進すべき現場として,大人では職場,子どもでは学校が主要な位置を占める。近年では障害者差別解消法のもとで合理的配慮が義務化されているものの,そのことが職場や学校で十分な理解を得て運用されているとは言い難い。出口裕彦先生には産業医として職場の合理的配慮を進めていくために必要な知識をまとめていただいた。野口晃菜先生は,インクルーシブ教育のあり方と課題について触れ,「多様性の包摂」や「社会モデル」が明記された次期学習指導要領において教育と医療の関係が変わる必要があることを述べている。

快く原稿執筆を引き受けていただいた先生方に深く感謝申し上げる次第である。本特集の論文を通読することによって,少しでも多くの精神保健福祉医療の関係者のD&Iに対する理解が深まり,臨床や研究に対する新しい視野が開けていくことがあれば,望外の喜びである。


本田 秀夫

目次

【特集】ダイバーシティ&インクルージョンと精神医学・精神科医療

・特集にあたって  本田秀夫

・モラル・トリートメントから障害者権利条約へ─精神医療における包摂と解放─  石原孝二

・リカバリー概念をダイバーシティ&インクルージョン理念のなかに位置づける  小林聡幸

・精神保健医療福祉におけるエクスクルージョン/インクルージョン政策─精神科医療の歴史的変遷と課題─  古屋龍太

・ダイバーシティ&インクルージョンと生物学的精神医学研究  住吉太幹

・精神科医療における施設コンフリクトの実態と課題  野村恭代

・ハウジングファースト─この社会の中で,共に住まうということ─  熊倉陽介

・精神障害に関するスティグマと心理社会的支援  山口創生

・「当事者研究」とインクルージョン─セルフケアと「あいだ」のケアから考える─  中井好男

・ニューロダイバーシティと精神医学  本田秀夫

・日本におけるLGBTQ+のメンタルヘルスと医療へのアクセスに関する現状  日高庸晴

・依存症治療におけるインクルーシブな支援体制に向けて  三輪岳史,松本武士,金久保祐介 他

・若年性認知症者における就労継続の課題  宮川雄介

・22q11.2欠失症候群にみる医療の分断化とインクルージョン─一人の人生を軸に支援をつなぎ直す「10の基本」─  高橋優輔,熊倉陽介,笠井清登

・産業医として精神科医が働くときの基礎知識─Diversity, Equity & Inclusion(DEI)と合理的配慮─  出口裕彦

・インクルーシブ教育はどうあるべきか?  野口晃菜

・精神科領域におけるピアサポートとピアサポーターによるインクルージョンの促進  宮本有紀,青木裕史

・精神医学学会のダイバーシティとインクルージョンに向けた取り組み─日本統合失調症学会は,何のために,誰のために─  福田正人,村井俊哉,笠井清登 他

臨床経験

・電気けいれん療法における過度な発作増強法が誘因となり遷延性発作後に遅発性発作を経てけいれん性てんかん重積状態をきたした2例  長尾達憲,大盛 航

カレント・トピックス

・Lithiumは双極症の他にどのような精神疾患に有用か?  寺尾 岳

自著海外誌論文の紹介

・日本の統合失調症入院患者における死亡前3年間のBMIおよび腎機能バイオマーカーの縦断的変化─予備的研究─  三舩義博

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書籍情報

  • ISBN:9784022004110
  • ページ数:128頁
  • 書籍発行日:2026年10月
  • 電子版発売日:2026年11月6日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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