デルマドローム事典　皮膚病診療　Vol.43 Suppl.　2021年増刊号

巻頭言

皮膚科の醍醐味といえば，正確な視診とデルマドロームではないだろうか．“皮膚は内臓の鏡”といわれるように，日常診療で他の診療科から内臓疾患を示唆する所見を聞かれることがある．視診による診断と確定診断のため皮膚生検を依頼されるケースは多い．2000年頃に西岡清元編集委員長の“皮膚科医の眼力”という講演を拝聴し，大いに感銘を受けた一人である．本誌は伝統的に1枚の臨床写真からどのような疾患を考えていくのかを重視している．皮膚科医の原点は視診に他ならない．

さて今回の増刊号は“デルマドローム事典”である．これまで皮膚病診療に掲載されたデルマドローム関連の概念，臨床例，図譜を掲載している．敢えて事典と称したのは，これ一冊でデルマドロームの概要を解説しているからである．“デルマドロームの概念”は，歴史的な流れを理解できる故三橋善比古編集委員の素晴らしい論文であり，奥様のご了承のもと掲載している．次に“内臓悪性腫瘍のデルマドローム”は，山本俊幸編集委員が最近の動向を執筆．皮膚症状から内臓悪性腫瘍の存在を疑い精査，皮膚症状の分子生物学的なメカニズムも解明されつつある．デルマドロ－ムの語源は，1947年のWienerの著書で初めて記載されている．本邦にデルマドロ－ムの概念を導入し浸透させるのに尽力された故安田利顕元編集委員長の“syndroma dermato-tumorale”，そしてデルマドロ－ムを理論的に体系づけた西山茂夫元編集委員長の“Dermadromの考え方”は，1970年代の貴重な論文であり，中外医学社のご厚意により転載させていただいたもので，ここに感謝の意を表したい．

臨床例に関しては，消化器系，肝臓・膵臓，腎臓，肺，心臓の臓器別，そして糖尿病，内分泌，代謝系などの疾患別に分けて検索しやすくしている．最後は，西山先生が図譜として“デルマドロームの代表的な内臓疾患”として掲載されたものであり，悪性腫瘍，肝臓病そして糖尿病を膨大な西山コレクションの中から選別されたものを掲載時よりも図を大きくして，みやすくしている．再び読み返してみても新鮮で勉強になる．

デルマドロームは日本の皮膚科学が育てたわかりやすい概念であり，皮膚疾患をしっかりとみる眼力が不可欠である．的確な診断は，皮膚科医の存在意義を認めさせる・そして高めさせる最高の共通言語ではないだろうか．本書が若手や愛読者の先生方の明日からの日常診療に役立ち，若き研究者には是非ともデルマドロームの発症メカニズムの解明に尽力していただきたい．

最後に，半世紀前の学生実習中に西山先生の初診外来を見学，皮膚をみながら内臓疾患をいい当てた皮膚科の醍醐味に魅了されて，皮膚科入局を決定づけた日が懐かしく想い出される．

向井　秀樹